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ソラボシ! ~青空(そら)駆けるホウキ星~  作者: 沙φ亜竜
第2翔 わち、恥ずかしい
13/37

-3-

 ウィッチレースは、一戦終わったあと次のレースが行われるまで、一ヶ月くらいのインターバルがある。

 マナオイルの準備をするためだ。


 といっても、長い人はそれくらいかかることもあるというだけで、べつに一ヶ月間ずっとマナオイルの準備だけをしているわけではない。

 ではそのあいだ、魔女たちはどうしているのかというと、インタビューを受けたり握手会を開いたりといったファンサービスをするのが日常となっていた。

 それは運営委員会によってスケジュールが決められているので、仕事ということになるのだけど。


 その際、たいていは雑誌などのカメラマンによって写真撮影される。

 だからこそ、レースがないそういった場面でも、魔女たちは思い思いのファッションに身を包み、美しいホウキ星というイメージを演出するのだ。


 ただ、ヒミカはどうもファッションには無頓着なようで、あまりおめかししたりはせず、普段と変わらない服装だったりする。

 それがまた自然体という印象で好感を得ているのだとか。

 まだあまりお金もないから、そうそう綺麗な服なんて買っていられないだけ、というのも理由ではあるのだけど……。


 だいたいヒミカときたら、仮に服を選ぶとしても全部ボク任せで自分では決めようとしない。

 ボク自身、オシャレなんてよくわからない上に、男なのだから女物の服のセンスなんてあるはずもない。


 ファミリアーのボクでさえ写真に撮られてしまうことがあるから、ある程度は自分用の服も必要となってくる。

 だけどそれよりも、ホウキ星であるヒミカの服にお金をかけるべきだ。

 そう考えて、たまにヒミカの服を買いに行くと、ヒミカは必ず「セスナが選べ」と命令する。

 ボクのセンスを信じて選ばせてくれている、というのなら悪い気はしないけど、ヒミカは単に自分で選べないから任せているだけなのだ。


 そりゃあ、ヒミカに選ばせたらとんでもない服を買いそうで怖いし、ボクが選んだほうが正直マシだとは思うけど。

 女の子なのだから、もう少しオシャレに興味を持ってもいいのに……。

 ボクは常々、そう思っている。



 ☆☆☆☆☆



 さて、今日は運営委員会主催のイベントの日だ。

 スターウィッチに参戦しているホウキ星たち全員が集まり、撮影会を兼ねたトークイベントが行われている。


 いくつかのステージに分かれたホウキ星たちが、好きなことをお喋りしたり、与えられたお題について語り合ったり、場合によっては歌を歌ったりまで、様々な内容のパフォーマンスが繰り広げられている。

 その様子を、観客たちは自由に撮影することができる。

 会場となっているイベントホールには、それはもう大勢の観客たちが押し寄せ、溢れ返るほどだった。


 なお、ステージは複数に分けられるため、ホウキ星たちの人気度が明確に表れてしまう。

 運営委員会側からステージの振り分けが指示されるのだけど、人気のあるホウキ星を分散させるといったことまではしない。

 自然に話せる仲のいいメンバーで集まっていたほうが、より会話もはずむと考えられるからだろう。


 もっとも、大方の人気予想は立てられるため、ステージの広さをグループごとに変えてあるようだ。

 そして一番人気と運営側から予想されたらしく、ひときわ大きなサイズのステージを与えられたのが、ヒミカのいるグループだった。


 個人での人気だけならば、フェリーユさんとママさんには敵うはずもない。

 でもヒミカのいるグループには、アリサさん、オードリアさん、ミルクちゃんという、有力な若手のホウキ星たちが集まっていて、注目必至のステージとなっていた。

 四人合わせた人気で考えれば、伝説級のホウキ星ふたりのステージより盛り上がっている現状にも頷けるというものだ。


 実際のところ、フェリーユさんとママさんのトークステージは、どちらかといえば、お茶会といった印象。

 とってもゆったりまったりとした雰囲気の中で時間が流れていて、熱狂的な様子はまったく見受けられない。


 それに比べてヒミカたちの周りにいる観客たちの中には、好きなホウキ星の名前や顔写真を貼ったうちわを持ち、ハチマキを巻いて声援を送る人まで見受けられる。

 凄まじいほどの熱狂ぶり。

 その様子を見ると、ホウキ星は本当にアイドルのような存在なのだということが、改めて実感させられる。


 手が早くて相手の胸倉をつかんで怒鳴り散らすアリサさん、

 のんびりしていて天然ボケな発言も多いオードリアさん、

 口の周りにクリームべったりのミルクちゃん、

 無口で無愛想なヒミカ。


 そんな普段の彼女たちを見ている限り、アイドル的な要素なんて、ほとんどないと思うのだけど。


 ともあれ、みんなそれぞれ、可愛い、もしくは綺麗と言われるくらいの容貌なのは確かだ。

 それだけでも充分にアイドルとなりえるわけだから、観客たちが熱狂するのもわからなくはない。

 なのに、なんだか微妙に複雑な気持ちになってしまうのは、どうしてなのだろう……?




「今年のレース、すっごく白熱してるわよね~!」


 アリサさんが明るい声を上げる。

 一番よく喋る彼女が中心となってトークを進めていくというのが、このメンバーで話す場合、お決まりのパターンだった。


「そうですわねぇ~。ですが、わたくしは少々驚いておりますのよ~?」

「ほうほう。オードリアさんは、なにを驚いてるっていうの?」

「アリサさんが張りきりすぎて、大ドジを踏んでリタイアする、というレースが、今年はまだ一度もないことですわ~」


 バシッ!

 思いっきりオードリアさんの頭を平手打ちするアリサさん。

 オードリアさんが言葉を喋り終えるまでしっかり待ってから平手打ちを繰り出すあたり、さすがと言えるのかもしれない。


「まだ二戦までしか終わってないんだから、当たり前でしょ! っていうか、去年だってそんなおバカなリタイア、一度もなかったわよ!」

「にゃははっ! でもアリサちゃん、今のところ総合三位だもんね~! レースを盛り上げるためには、リタイアしてほしいとこだよねっ! 罠を仕掛けてでもっ!」


 ミルクちゃんが元気いっぱいに笑顔を振りまきながら、物騒なことを口走る。

 当然ながら冗談だとわかっているため、会場からはどっと笑い声が沸き起こった。


 そんな中、トークそっちのけでカメラのファインダーをのぞき込み、フラッシュをたきながら連続で写真を撮り続けるヒゲ面の男性の姿があった。


 フレイムさんだ。


 いつもどおり、傍らには撮影機材や自分の上着などを持たせたアシスタントのキララさんを従えている。

 連続したシャッター音と、舞台上からでも気になってしまうほどのフラッシュ量に、騒がしかった観客たちも静まり返った。


「ちょっとフレイムさん、いい加減にしてよ! 写真を撮るのはあなたの仕事でしょうけど、あたいたちのトークを邪魔してもいいってわけじゃないはずよ!?」


 アリサさんもいつものように、声を荒げる。

 距離が離れているから手までは出なかったけど、もしすぐ近くにいたら殴りかかっているところだったかもしれない。

 なにせ、『マッハハンドのアリサ』だし。


 フレイムさんはそんな怒鳴り声なんか気にも留めないといった様子で、ひたすらシャッターを切り続けていた。

 やがて、ステージ上のアリサさんたちだけでなく、観客たちからも睨まれていることに気づくと、静かに顔を上げた。


「……ふん。前にも言ったがな、お前らはアイドルみたいなもんだ。撮られるのが仕事なんだよ。オレが写真を撮るのを仕事としているようにな。だからもっとこう、サービスくらいしてくれてもいいんじゃないか? へっへっへ」


 フレイムさんは悪びれた様子もなく、いやらしい笑みを浮かべながら言い放つ。


「なによそれ!? そりゃあ、写真を撮られるのも仕事だってのは、あたいだってわかってるわよ! だけど清純派を目指してるんだから、サービスなんてするはずないでしょ!?」


 大声を張り上げ、アリサさんは反論した。

 清々しいほどの勢いではあったけど、おそらくそれを聞いた全員の感想は、こうだっただろう。


 ……アリサさん、清純派を目指してたんだ。そんな言葉遣いなのに……。


 驚きを隠せずに固まってしまい、声も出せない観客たち。

 いや、ステージ上の他の三人のホウキ星たちも、同じように言葉を失っているみたいだった。


「……ま、いいけどな。せいぜい頑張れよ、清純派アイドルちゃん。だが、こっちも仕事なんでね。今日はこれくらいで引き下がるが、オレはどこにだって現れるからな。覚悟しておけよ!」


 フレイムさんは吐き捨てるように言い残し、キララさんに目で合図をすると、ともにステージの前から立ち去っていった。


 静寂が辺りをすっぽりと包み込む。

 冷たい空気が流れ、誰も言葉を発することができなかった。

 それでもしばらくして、


「ふ~、邪魔は入ったけど、トークを続けるわね! みんな、元気出して行くわよ~!」


 気を取り直したアリサさんが静まり返っていた観客たちに明るく呼びかけると、会場は一瞬にして最高潮の盛り上がりを取り戻していた。


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