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前世に飽きた魔王の孫、世界に首を突っ込む 〜退屈だから全部かき回す〜  作者: 暇凡人T
二章 冒険者始動編

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その76 三人での初陣

 

 ドドドドォン!

 

 森の中に、魔法が炸裂する音が響く。

 それを見る暇もなく、俺は剣を振るう。

 押し寄せてくる波のような量の魔物を、俺は切り刻む。

 だが、止まらない。

 波を切ったところで、それが止まるはずもなかった。

 すかさず連撃を入れるが、一部を取り逃がしてしまう。

 俺をすり抜け、翔へと向かう魔物たち。

 翔は、後ろにいた魔物たちに魔法を撃ち続けてるはず。

 翔が危ない!

 そう思い、俺は振り返った。

 そこに、思い描いていた光景はなかった。

 魔物がいなかった。

 全てを、カイルが吹き飛ばしていた。


 「ユウキ、なにボサッとしてる!まだくるぞ!」


 そうカイルに言われ、俺は前に向き直した。

 


 カイルが入ってから、初めての依頼。

 最初だし、簡単な依頼にしようと掲示板を見つめていた。

 そして、良さげな依頼を見つけた。

 依頼には、『弱い魔物の群れの討伐』とだけ書いてあった。

 兎型の魔物を討伐しろと、そういう依頼だった。

 俺と翔は、そこまで考えていなかった。

 それが甘かったのかもしれない。

 思えばカイルは、依頼内容を見たときから何か考えていたように思う。

 ここへと向かう途中、カイルが詳しい魔物の説明をしてくれた。

 サイズは小さく、俊敏。

 なんと分裂までするらしい。

 それを聞いて俺は驚いたが、まだどこか楽観的に考えていた。

 だけど…


 「量…!多すぎッ…!」


 俺はもう、魔物の波に揉まれていた。


 「ユウキ!大丈夫か!」


 大丈夫だよ。

 って、聞こえないか。

 死ぬことはないから、大丈夫。

 俺の防御を、コイツらは貫けない。

 ただ、だ。

 カイルが、大きなハンマーを振る。

 翔が、魔法を連射する。

 その負担が増える。

 想定では、翔が前の魔物を担当して、その背後を俺とカイルが守る…はずだったのに!

 俺のミス、というか相性の問題だ。

 一匹の強い魔物は余裕でも、いっぱいいる弱い魔物ってなにしたらいいんだよ!

 俺の手札は少ないんだ!

 魔法はうまく使えないし…

 重力磁場は…怖い。

 こんな大量の魔物を、正確に攻撃できるか?

 できたとしても、翔たちは巻き込まないのか?

 正直不安だ。

 リミットブレイクなんてもってのほかだ。

 制御できるわけない。

 それもあって俺は前から襲ってくる魔物に、刀を振ることしか出来なかった。

 でも、今は魔物の波の中にいる。

 ここなら、できるかもしれない。

 何度もやってきたこと。

 囲まれたときは、これを使ってきた。

 

 「剣戟球!」


 周囲を切り刻むように、大量の斬撃を生み出す。

 俺を囲んでいた魔物の波は、吹き飛んだ。

 大量の魔物が宙を舞い、絶命する。

 だが、当然取り逃がしはいる。

 それを、手の空いたカイルが魔法でまとめ…ハンマーで、屠った。

 ・・・っしゃ!

 やっと連携らしいことが出来た。

 もうヘマはしない。

 このまま殲滅してやる!



 あれから、俺は刀を振り続けた。

 やっとわかった。

 波動をちゃんと使って、弱めにずっと刀振っとけば、相当魔物が減る。

 明らかに俺をすり抜けてカイルの方まで行く魔物の量が減った。

 それを続けて、やっと魔物の波に終わりが見え始めた。

 量は少なくなって、今まで無尽蔵に湧き出してくるように見えた魔物は、補充されなくなっていった。

 これなら余裕余裕。

 俺だけでも行けたかも?

 もう軽口叩く余裕もあるよ。

 そう、俺が思ったのも束の間。

 俺たちの方向へと向かってくる魔物の大群の反応を、空間感知が捉えた。

 瞬間、俺は口を開けていた。

 

 「翔!カイル!」

 「わかってる!魔物の援軍だろ!カケルも、わかってるだろ!?」

 「もちろんです。こっちはまだ大丈夫です!二人は集中を!」

 

 やっぱり、こいつらはすごい。

 ちゃんとわかってた。

 翔が大丈夫なら、重力磁場を使う理由もない。

 このまま、ぶった切るぞ!

 俺の目の前に、新しい魔物の波が押し寄せる。

 万一にも囲まれないように!

 

 「剣戟球!」


 多少魔物が散るが、少ない。

 カイルの方へ、相当な量の魔物が行く。

 やっぱり、火力で押すタイプの俺じゃ…

 

 「すまんカイル!だいぶ行く!」


 そう叫び、振り返る。

 そこには、あらぬ方向を向いているカイルがいた。

 魔物が迫ってくる前じゃなく、右の方向を。

 なに見てる!?

 まずいぞ!

 

 「カイ───」 


 ッドッゴォ!

 

 俺がもう一度呼びかけようとした瞬間、カイルがハンマーを振った。

 ノールックで、魔物を吹き飛ばした。

 はぁ…?

 マジかよ…

 どんな感知力してんだ。

 心配して損した。

 俺の分の迎撃に戻ろ。

 前を向き、襲いかかってくる魔物の波に備える。

 それが、俺に到達しかけたそのとき。

 目の前を、魔物の大群が横切った。



 なっ…!

 奇襲!?

 まずい…!

 俺は、予想外の襲撃に対処しようと刀を向ける。

 だがその大群は、俺には目もくれず走り去っていった。

 え…?

 なんで?

 逃げた…のか?

 ・・・ん?

 そういえばあっちの方向って、さっきカイルが見てたよな?

 俺の目は、横切った魔物を追う。

 その先の茂みに、なにかが見えた。

 茂みが、揺れている。

 俺は目を凝らす。

 するとそこには、必死に縮こまっている少女がいた。

 まさか…

 魔物は、一直線に少女へと向かっていく。

 そういうことか…!

 狙いはあの子!

 どうする…?

 たぶん、重力磁場ならいける。

 あれぐらいの量、そして位置なら、制御できるはずだ。

 そもそも魔物じゃなく、空間を指定すればいい話だからな。

 ただ…

 俺は、翔を見る。

 翔は、忙しそうに魔法を繰り返し発動させている。

 こっちを気にしてる余裕なんかない。

 俺がここであの子を助けようと動いたら、二人の負担が増える。

 それで、万一翔になにかあったら…

 ・・・ダメだ。

 ここは、動けない。

 俺たちの安全が第一。

 このまま正面の魔物に対処する。

 俺が、そう判断したとき。


 「ユウキ!」


 俺を呼ぶ声が聞こえた。


 「見えただろ!重力磁場で、あの子を!このままだと死ぬぞ!今なら間に合う!助けろ!!」


 そんなカイルの声が、俺を動かした。

 カイルがそういうなら、信じてみよう。

 俺は、少女の元に走り出した。

 ここからなら届く!

 重力磁場!

 少女へと迫っていた魔物は、一瞬で潰れて死んでいった。

 

 「ふぅ…」


 あまりにもあっけなくて、思わず息を吐いてしまう。

 やっぱり重力磁場は強い。

 そうだ、二人は!?

 俺は、後ろを見た。

 そこには、魔物を全て吹き飛ばすカイルの姿があった。

 ・・・杞憂だったみたいだな。

 そうだ、あの子は?

 俺は、さっきあの子を見た場所へと向かう。

 すると…


 「ひっ…!」

 

 怯えた表情で俺を見る少女がいた。

 そして、そのまま立ち上がり、走り去っていった。

 ・・・。

 なんだよ。

 なんか、ちょっと虚しいじゃないか。

 なんだよ…



 俺は、一人でぼーっと黄昏れていた。

 戦っていたことも放置して、座っていた。

 あの後は、どうにでもなるだろ。

 あそこが物量のピークだった。

 あれを凌げたんなら、もう大丈夫。

 俺がサボっててもね。

 そんなことを思っていると。


 「ユウキ。」


 後ろから声がかかった。

 カイルだった。

 

 「終わったのか?」

 「ああ、あの子は?」

 「走って逃げてったよ。」

 「そうか、ならよかった。」


 よかった、ね。

 カイル。

 そんなに、見ず知らずの人間の安全が大事か?

 それを言うことができずに、俺は飲み込む。

 それでも、全部は飲み込めない。

 

 「・・・なんで、助けようとした?」

 「守れるからだ。もちろん全部を、な。間に合う位置だった。実際、成功しただろ?」


 結果論かよ。

 それで俺たちが危なくなったらどうするつもりだったんだ?

 

 「・・・俺も、守れるかも。とは思った。それでも、俺たちの安全を第一に考えたんだ。カイル。おまえは、そんな不確かな状態で助けに行けって言ったんだぞ。」

 「それは違うな。あの状態は、確実にあの子を守れるものだった。数も、全部見えてた。崩れようがない。そしておまえが戻るまで、待つ。それだけでできるだろ。」

 「そもそも、見えてて助けない選択肢はない。」


 視野広すぎだろ。

 そういえばあの子もすぐ見つけてたしな…

 そのときから守る前提で動いたんだろう。

 カイルは、確信してたんだろうな。

 助けたのに逃げられてナイーブになってたわ。

 謝ろう。


 「・・・たしかに、わかったよ。ごめん…」

 「そうか、ならいいんだ。戻ろう。」

 「・・・そうだな。」


 そうやって、俺たちは歩き出した。

 こいつ、ほんとにどんだけの範囲と情報が見えてるんだ?

 そして、なんでそれを処理できるんだ?

 おかしすぎる。

 ・・・正直、俺はカイルを下に見てた。

 もし戦ったら俺が勝つし、俺の方が強いってね。

 それは、間違いだった。

 カイルは、少なくとも俺と同じか、それ以上だ。

 判断力、情報把握力が高すぎる。

 それは、俺に足りないものだ。

 いい仲間が入ったなー。

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