Y-その6 転生者の力
神聖学園に入学し、数日が経った。
この数日は、オリエンテーションをしたり、学園について理解したりした。
そろそろ本格的に授業が始まるらしい。
だけど、まず一つ。
明らかにおかしいことがある。
俺と、颯太が入ったクラス、特待クラスには、転生者が集められている。
特待クラスは、特待生…つまり優秀な人だけ入れるクラスのはず。
それだけなら、まだ優秀だから集まったとも取れる。
転生者は優秀らしいから。
だが、違う。
特待クラスには、転生者以外の人間がいない。
つまり…
俺たち転生者を、意図的に集めた存在がいる。
それは…俺たちを、ここに転生させた存在かもしれない。
もしそうなら…
俺は拳を握りしめる。
・・・いや、まだそうと決まった訳じゃない。
そもそも、何のために?
聖戦教に入信させるため…?
・・・それはないな。
人族…少なくともダグメルト大陸の人族はほとんど聖戦教を信仰している。
教義に、進んで戦争を起こすように書いてあるイカれた宗教を。
この学園もそれによって運営されてる。
転生者も、少なくとも表向きは信仰しているはず。
それなら無理矢理こんなところに集めなくともいいはずだ。
・・・もしかして、洗脳とか…?
できないことを祈ろう。
何が目的なのか、誰が仕組んだのか。
何もわからない。
だけど、この学園での生活で、絶対に全部突き止める…!
そして、そいつが転生させた犯人なら…
問い詰めて、洗いざらい吐かせてやる!
俺は、決意を固めながら魔法訓練場に向かう。
次の授業がそこだからだ。
ついに、魔法の実践授業が始まるらしい。
魔法…
俺は、勇者になるために剣術をずっと鍛えて来た。
だから、魔法なんか触る暇はなかった。
触らせてもらえなかった。
そのせいもあってか、俺は今、完全にワクワクしている。
前世も合わせるなら、もうとっくに成人を過ぎているのに。
こういうの、年甲斐もない、って言うんだっけか。
そんなことを考えながら、魔法訓練場に到着する。
「ユーリオン!」
先に来ていた颯太に呼ばれ、駆け寄る。
「魔法…楽しみだな。」
「あー、俺は訓練で何回か触ったことあるから、そんなに?」
「え?そうなのか?」
そうだったのか?
いつの間に…
「ま、本格的にはやってないから、楽しみではあるけどな。」
「だろうな。安心した。」
まあ、魔法だもんな。
普通の男子なら憧れてもおかしくない。
颯太とそんな話をしているうちに、いつの間にか教師が前に立ち、話を始めようとしていた。
「本日は、昨日伝えた通り魔法の実践訓練です。」
「では、杖を配ります。」
一人一つずつ、杖が配られる。
「その杖には、水の魔法…『水球』の力が付与されています。」
水か…俺の適性が高いのはたしか、光だったか?
ならそこまで使えないだろう。
たしか使い方は───
「使い方は説明しましたね。まず魔法を起動し、魔法陣に魔力を注入してください。」
「これで発動準備が完了し、後は自由なタイミングで発動ができます。」
「では、あの的に向けて撃ってください。」
そうだったそうだった。
えーっと。
まず魔法を起動。
ヴン!
これが魔法陣か!
じゃあこれに魔力を…
・・・これぐらいでいいか。
発射!
シュゥゥン…パガン!
おぉー!
水の球が飛んでって、的を粉砕した!
これが普通なのかな?
そう考え、周りを見る。
他の的も当てられて、ヒビを作っている様子が見える。
でも、粉砕までは行ってない…
なんでだ?
「これはすばらしい…」
そう、教師が呟く。
「初めて魔法を使う者はほぼ、的にすら当たらないというのに…」
え?
そうなのか?
「やはり特待生はとても優秀だな…」
・・・まあ、特待生、つまり転生者は優秀らしいけど。
それにしても、得意でもない魔法で的を破壊できるのは…もしかしてすごいことなのでは?
いや、慢心するものじゃないな。
慢心しても、自分に価値があると勘違いするだけだから…
そんなことを考えながら、まだ魔法を撃っていない最後の一人を眺める。
彼の名前は、セリオ・フィリオス。
人族で最も影響力を持っていると言っても過言ではない、聖戦教教皇、アグトゥス・フィリオス
その孫だ。
もちろん転生者で、前世は俺の親友の一人、岸野宗介。
・・・でも、最近は話せてない。
歓迎会の時に少し話した程度かな。
理由は様々。
久々で気まずかったり、単純にタイミングがなかったり。
パガァン!
シュゥゥ…
宗介が魔法を撃ち、的に命中させる。
的には大きなヒビが入り、湯気が上がる。
・・・あの魔法にそんな効果あったか?
まあそんなことはどうでもいいか…
前世の、あの頃の関係に…戻りたい。
あの頃は楽しかった。
ただただ五人で、バカなことをしたり、くだらないことで大笑いしていた。
だが、今は違う。
俺は勇者になるため、ここに、神聖学園に来た。
・・・だけど、友達を増やすぐらいならいいだろう。
今、宗介の周りに人間はいない。
チャンスなんじゃないのか?
・・・ええい!
この際だ!
覚悟を決めて、話しかけよう!
「あー…セリオ…?」
「ん?ああ、ユーリオンか。」
「すごいな…!的から湯気上がってるぞ?」
「・・・あれか。あれは、俺の神名の効果なんだ。」
神名…魔法になにか効果を付与する感じか?
「魔法の温度を上げた…とかか?」
「そうだ!これなら攻撃する時に威力が上げられるからな。」
「なるほど…それは俺にはできないな…」
「いやいや、ユーリオンはそもそも的を粉砕したじゃないか!その威力があればこんな小細工する必要ないさ。」
それとこれとは少し話が違いそうな…
というか、案外普通に話せるな。
「そろそろ時間ですね。では実践訓練を終わりましょう。各自教室に戻るように。」
そう言って、教師が訓練を終わらせる。
「終わりか…セリオ、雑談でもしながら一緒に戻らないか?」
「いいな!久々に話せるわけだ、今まで何があったか話そうか。」
「じゃあ、まずは俺から───」
俺は、宗介に今までの人生を話しながら、教室に戻るのだった…




