その47 強者と弱者
いやいやいや、おかしいだろ。
龍迷宮で死闘を繰り広げてた俺でさえ攻撃がギリギリ一万だぞ!?
一万超えてるのが普通なのか?
・・・いや、そんな訳ない。
周りの物は大体鑑定してきたけど、ステータスが一万超えてるような人はいなかった。
ここにいる冒険者ですら、千そこそこで、高いのが三千とか。
そもそも平均一万が普通なら一万で不具合起こすもんで力測れるわけがない。
つまり、結論は…
あいつは、規格外の強さを持っている。
鑑定…したい。
鑑定ぐらいじゃ気づかれないはず。
だけど、もし気取られたら?
俺より遥かに強いならおかしくはない。
そうだとしたら、ここで戦闘になるかもしれない。
そんなことになれば…
・・・うん。
鑑定はしないでおこう。
「───これぐらいか。」
「ありがとうございます、こんなに丁寧に…」
「いやいや、困ったときはお互い様だろ?次は、俺が困ったときに助けてくれよ!」
「はい、ありがとうございました!」
俺はあいつ…カイルだったか?を警戒しつつ翔に近づく。
「翔…終わった?」
「ああ、かなり教えてもらった。依頼の見分け方とか、気をつけるべきこと、さらには簡単な単語の読み方まで…」
「そこまで…?」
「うん。ほんとにありがたい。」
すごい親切だな。
もしかして、危険じゃないのか?
・・・いや!一面を見て考えるな!
裏表があるのはよくあること!
俺はずっと警戒しておこう。
翔には…一応事実だけ伝えておこう。
「翔、落ち着いて聞いて。あいつ、おそらくだけど全ステータスが一万超えてる。」
「・・・え?」
「さっき盗み聞きしたんだけど、あいつ、全ステータスがゼロだったらしい。だから、俺たちと一緒なんじゃないかって。」
「・・・なるほど。頭の片隅に置いとく。」
「頼む。」
これでいい。
情報は共有したし、一旦依頼行こう。
「で、結局どの依頼受けるの?」
「・・・あ、そうだったな。えーと…」
そう言って翔は一枚の紙を差し出した。
「最初に勧められたこれ、オボルウルフの討伐依頼にしよう。」
「おっけ、じゃカウンターに出して来て。」
「わかった、行ってくる。」
翔はカウンターで依頼を受け、戻ってくる。
「これで、もうあとは依頼をこなすだけだ。街から出よう。」
「よし、行くぞー!」
さっき入った門を通り過ぎ、街の外へ出る。
とりあえずここまで来たけど、どこ行ったらいいんだ?
「優樹は俺について来て。魔物が居る場所も教えてもらったから。」
「おっけー。」
オボルウルフ、ってことは狼の魔物かな?
Dランクって低いっぽいし、それで受けられる依頼ってことは、そんな強い魔物じゃないだろう。
でも弱すぎるのもちょっとな…
ちょうどいい強さの魔物を所望します!
「・・・見つけた。」
「ん?居た?」
「ああ。たぶん、あれがオボルウルフだ。」
翔が指を指す。
その先を見ると、紫色の狼が数匹、なにかを食べている様子が見える。
「あれか。一応鑑定するね。」
「お願い。」
鑑定!
種族:魔物 オボルウルフ
進化ツリー
名前:なし
神名:狼電
年齢:3歳
レベル:9
経験値:3/15
満腹度:48/100
ステータス
HP:278/312 MP:624/624 SP:235/348
攻撃能力:256 防御能力:346
魔法能力:542 速度能力:379
スキル
{魔力制御Lv2}{神の声Lv3}{魔力知覚Lv2}{気配感知Lv1}{斬撃攻撃Lv3}{雷攻撃Lv2}{聴力増強Lv3}{嗅覚強化Lv2}{斬撃耐性Lv2}{毒耐性Lv1}{生命力増強Lv2}{魔力増強Lv5}{技力増強Lv2}{魔法能力増強Lv4}{防御能力増強Lv1}{速度能力増強Lv2}
魔法
{雷魔法Lv3}
闘法
なし
修練結晶:8
スキル一覧表
魔法一覧表
闘法一覧表
得意属性・苦手属性
よわ。
なにこれ?
龍迷宮から出てすぐのとこの方がまだ強かったぞ。
・・・まあ、仕方ない。
全員やりますか。
俺は、無言で走り出す。
魔物の側を駆け抜けると同時に、四回剣を振るう。
それだけで、四匹の魔物は両断される。
ドササッ…
狼の死体が地面に落ちる。
すると、翔が近づいて来た。
「終わった?そいつの犬歯を持って帰らないといけないんだけど…」
「わかった、引き抜いて持って行こう。」
俺たちは、魔物の死体から牙を抜き取り始める。
てか、こいつらはさっきまでなに食べてたんだ?
俺は一度作業を中断し、魔物の食べていたものを探す。
そして、それを見つけた。
「うっ…」
思わず声が漏れる。
その原因は、それから放たれる異臭か、それとも、光景の凄惨さか…
そこには、死体があった。
人間…であっただろう死体が。
肉は削がれてほぼなくなり、骨が露出している部位も多く、まともに残っている部位はない。
サイズ的に…子供、だろう。
なんでこんなところに?
冒険者として討伐に来たけど、負けて喰われたとか…?
それぐらいしか思いつかないな。
「優樹?何してるんだ?」
「これ、見てよ。」
「これは…」
声をかけてきた翔も、息を呑む。
「・・・一応、弔ってあげよう。」
そう言って、翔は死体に火を付けた。
ごうごうと燃え上がる炎を見ながら、俺は、感傷に浸っていた。
もし、今までの戦いのどこか、判断を間違えたら…
俺も、こうなっていたんだろう。
翔もそうだ。
龍迷宮での死線を潜り抜けて来たからこそ、ここにいるんだ。
少し泣いた。
俺たちはその後、死体を埋め、足りない分の魔物を狩り、ギルドに戻った。
依頼の完了手続きの合間に、一応、ギルドにも死体のことを報告する。
もちろん、翔が。
「あの…依頼の途中、魔物に食べられている子供の死体を見たんですが…冒険者が行方不明だったりしますか?」
「えーと、そんな報告はない…ですね。おそらく、近くの村からここに来る途中だったか、それとも…?」
なんか意味深。
「あ、わかりました。ありがとうございます。」
「はい、ではこちらが今回の報酬、銀貨四枚です。」
銀貨四枚…?
どれくらいの価値なのかさっぱり。
「あと、一応魔物の死体も持って来ているんですけど…」
え?
なにそれ知らない。
いつの間に…
「そちらは買取になりますので、全てカウンターにお出し下さい。」
そう言われると、翔は即座に魔物の死体を出した。
空庫に入れてたのか…
器用に出すなぁ。
俺の武器とか、色々預かってるはずなのに。
受付嬢は、少し驚いた顔をして、全て持って裏に消えていった。
しばらくして、受付嬢が戻ってくる。
「こちら全部で…銀貨四枚と、銅貨二枚の買取となりますがいかがでしょう?」
「はい、それでいいです。」
いいのか。
まあ、翔にお金のことは任せよう。
俺が持つと無駄遣いしそうだし。
「ではこちらが買取金です。ありがとうございました。」
終わった?
終わったな?
なら、街を探索しよう!




