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その41 決着

 壁にめり込みながら、俺は考える。

 あれは、なんだったんだ?

 アイツ、風王龍が、嵐を起こそうとしてる、と思ったら起きないし。

 このまま起きないのかと思ったら、急にすごい風が吹いて、結局嵐が起こったのかと目を開けたら目の前にアイツがいたんだよ。

 なんかバリア纏ってるし。

 意味がわからん。

 あの風が渦巻いてたのはバリアを作ってたのか?

 とりあえずそう仮定しよう。

 ・・・それにしても、早すぎる。

 あの距離を、あの早さで詰めてくるなんて。

 完全に速度上がってる。

 それも、かなり。

 攻撃も早すぎて見えなかった。

 俺は、どうしたら…

 ・・・あっ。

 翔は?

 大丈夫なのか!?

 探しに行かないと…!

 もしかして、アイツに…?

 その光景を幻視し、ヒュッとする。

 早く、行かないと…!

 俺は壁から這い出て、走り出す。

 翔を見つけるために。

 


 ・・・あれ、翔じゃないか…?

 ぐったりと、横たわっている小さな龍…それを見つけた。

 

 「翔!無事か!?」


 返事がない。

 まさか…もう…!?


 「う、うーん…ああ…優樹か…」

 「そうだ!翔!生きてるか?死んでないか!?」


 気が動転して、素っ頓狂なことを言ってしまう。

 会話出来てる時点で、翔が死んでるはずないのに…


 「・・・俺は、大丈夫だぞ?それよりも優樹、おまえが大丈夫か?」

 「え?なんで?」

 「なんでっておまえ…ボロボロだし、ひどい顔だぞ?」


 そう言われ、やっと気づく。

 吹き飛ばされてから、全身が酷く痛むことに。

 

 「ぐあ゛っ…痛い…最悪だ…」

 「大丈夫か!?なんで急に…とりあえず治すぞ!」


 感覚が、麻痺してたんだろう。

 吹き飛んでからしばらくは、痛いなんて考える余裕もなかったし。

 翔のことを思い出してからは、そっちが最優先で自分のことなんか心配する暇がなかった。

 あー…暖かい。

 体の傷が治っていくのが感じられる。

 

 「・・・ふぅ。これぐらいで大丈夫?」

 「おう。だいぶ楽になった。ありがと。」

 

 完治には程遠いけど、全然動ける程度には治った。

 これでまた戦える。

 ・・・アイツと…また戦うのか…?

 あの…アイツと…?

 

 「・・・?優樹?震えてるぞ?」

 「む、武者震いだよ。」

 

 その言葉を発し、俺は思い出す。

 ここで、止まれないことを。


 「・・・そうか、そうだね。」

 「ふぅー。・・・よし、翔。」


 「「行こう。」」



 

 ・・・見えた。

 風王龍だ。

 かなり移動してる。

 俺…いや、翔を探していたのか…?

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 もう一度、アイツの胸を狙う。

 既に傷があるところなら、なんとか通じるんじゃないかと思って。

 俺は地面を思い切り蹴る。

 そしてその勢いのまま、袈裟斬りにしようと剣を振る。

 

 ドッパァン!


 くそっ!

 バリアに阻まれた!

 でも、このバリア…硬い、というより、反発力がすごいみたいだ。

 だからどうしたって話だけどねっ!?

 風王龍がなにか動く。

 それ見て、俺は反射で風王龍を蹴って跳ぶ。


 ヒュン!


 あっぶない!

 顔のすぐ前をなんかが通りすぎた!

 たぶん、爪かな?

 ということは、行動パターンは変わってな、い!?

 

 「グフッ…!」


 俺の腹に何かが突き刺さる。


 「優樹!大丈夫か!」


 翔が俺に呼びかける。

 ・・・前言撤回、動き、変わってる。

 いや、たぶん動きは変わってないな。

 さっきまでのにプラスして魔法も使ってきてる。

 

 「コヒュッ、だ、大丈夫!それよりも魔法の相殺頼む!」


 それを翔に言った瞬間、俺の周囲を風の魔法が取り囲む。

 まだ、こんな余裕を残してたのか…!?

 俺と戦闘してたときも力を温存してたってこと?

 まずい、このままだと…


 ドドドドドドドドド───


 魔法の発射音が鳴り響き、俺は身構える。

 が、次の瞬間にはそれら全ては綺麗に撃ち落とされていた。

 翔だ。

 やっぱり、言ったことはきっちり遂行してくれる…!

 これほどありがたいことはない!

 ・・・だけど、これからどうしよう…

 完全に俺の攻撃が通用しなくなってしまった。

 空間の裂け目を使うしかないのか…?

 でも、あれを使うと…

 [警告]

 [重力磁場の制御補助時間、残り五分。]

 その声を聞き、いやでも現実を見なければならないことを自覚する。

 もう、時間もない。

 翔を死力を尽くしてる。

 なら、俺も覚悟を決めよう。

 

 ミシッ…ミシミシミシ…バリバリバリィィィン!!!


 空間の裂け目。

 また、頼らせてもらう。

 両腕と大剣を裂け目に入れる。

 もう、大剣もこの負荷に耐えられるはずだ。

 

 「ふっ…ぐううううぅっ…」


 こちらに腕を引き戻す。

 その腕は、普段とは違う、だが、もう一つの見慣れた色に変化していた。

 

 

 次の一撃…それで、終わらせる…!

 

 「翔!退いてくれ!それと、アイツの動きを抑えてくれ!」

 「優樹!…!?わかった!」

 

 翔にも手伝ってもらう。

 一撃で死ぬような急所を無防備に晒すような相手じゃないと思ってるから。

 上手く止めてくれよ…!

 まず、俺は距離を取る。

 そこから、重力磁場を最大限かける。

 もはや、落下してるような程に。

 走り、剣を構える。

 使う技は、最も馴染みのある、今まで一番多く頼ってきた技。

 

 「はぁぁぁぁぁあっ!」

 「次元抜刀!」

 

 ドッッッッ───


 バリア…風の障壁にぶつかる剣。

 弾かれそうになるが、俺は剣に力を込め続ける。

 ぐっ…!

 重い…!

 だけど、こんなとこで止まる訳には!

 行かないんだぁぁあ!


 バリン!


 ズッッガアァァァァン!!!

 

 


 「はぁ!はぁ…!」


 や、やった…?

 体が千切れて、どこかに行ってしまいそうなほどの痛みを耐え、風王龍を見る。

 

 「グオ…グオオォォォン!!!」

 

 は…!?

 これでも、やれないのか…!?

 何か失敗もしてない、翔も動きを止めてた。

 じゃあ!どうしたらいいってんだよ!

 ・・・いや、落ち着け…

 よく見ろ。

 アイツも、致命傷だ。

 胸が、切れてる。

 でも、浅い…?

 なら、もう一度…!

 俺は、体を動かす。

 すると。


 「ぐっはっぁっ!」

 

 ・・・そうだった…

 動けなくなるんだ…

 ・・・じゃあ、もう終わりなのか…?

 そんな、訳ない。

 動け!俺の体!

 もう壊れてもいい!

 だから、今だけ動いてくれ!

 攻撃に使った腕はともかく!

 足だけでも!

 

 ザッ…ザッ…


 なんとか、歩みを進める。

 翔のところまで。

 

 「翔!」

 「優樹!?なんだその姿!?今すぐ治療を───」

 「いや、いい。」

 「でも…」

 「いいんだ。俺が合図したら、全力でアイツの動きを止めてくれ。」

 「・・・いや…その…わかった。」

 

 翔は何か言いたげだが、それも飲み込んで了承してくれた。

 よし、じゃあ…

 行こう。

 上へ。




 ヒュゥゥゥ───


 もっと、もっともっと火力が必要なんだ。

 なら、運動エネルギー、落下の衝撃を追加すれば、なんとか…

 ああ…体が震えてきた。

 もう限界なのかもしれない。

 なら、剣を持って振るだけの攻撃にしよう。

 もう一度、後一回だけだ…

 持ってくれよ。

 俺の体。

 重力磁場で、重力を元の下方向へ戻し、最大までかける。

 体を回転させ、剣を構える。

 俺の、できる限りの攻撃を。

 アイツに、叩き込む。

 どんどん落下していく俺の体。

 それに比例して、どんどん速度も増していく。

 このまま、このままだ。

 このままいけば…

 [重力磁場、オーバーヒート。」

 っ!?

 今!?

 

 「うおお!?」 


 周囲の重力が、変わる。

 操作なんて、させてくれない。

 もしかしたらアイツに効くかもしれない、けど、このままだと翔にも被害が…

 重力磁場をオフ…

 ・・・いや、俺も引けない。

 翔にも協力してもらってるんだ!

 今更失敗なんて、できない!

 普段より重力場を強く束ねる!

 無理矢理、乗りこなす!

 暴れるな!

 下、下下下!向け!

 下だけ向け!

 これ以上!周りに影響するな!

 

 グン!

 

 さらに、速度が上がり始める。

 なぜか重力が俺に従ってる。

 なんでかはわからないけど、いい!

 代わりに脳が、焼けそうだ…!

 視界も、歪む。

 だけど、いい!

 このまま!

 見えた!風王龍!

 横の位置を合わせて…

 

 「翔!!!今だ!!!」


 ギャリギャリギャリン!!!


 翔の魔法が、風王龍に纏わりつく。

 これで、完璧!

 いくぞ!


 「天落、次元斬!!!」


 ドッゴッズッッドドドガアァァァァン!!!!!





 「グオオオオオオオン!!!!グオオ、グオオオオオオオオオォォォン!!!!!」

 

 風王龍が咆える。

 今までにないほど、耳が壊れるような爆音で。


 「グオオォォォォォォ───」

 

 それもだんだん小さくなっていき、ついには聞こえなくなった。

 

 「・・・強かったよ。」

 

 思わず声が漏れてしまう。

 でも、それほど…強かったんだ。


 [デリーム族 ミリル マデリミア(矢島優樹)のレベルが上がりました。]

 [レベルアップ後のレベルは、40です。]

 [HP、MP、SPが回復しました。]

 [各種ステータスが上昇しました。]

 [レベルアップにより一部スキルのレベルが上がりました。]

 [レベルアップにより新スキルを獲得しました。]

 [修練結晶を獲得しました。]

 [進化条件を満たしました。]

 [デリーム族 ミリル マデリミア(矢島優樹)が進化可能です。]

 [超過分の経験値は修練結晶に変換しました。]


 レベルアップの回復によって、さっきの攻撃で根本から千切れた腕が、お馴染みの感覚で治っていく。

 いつのまにか、いや、さっきの着地で折れてたのかな?

 おそらく、さっきの攻撃の時に折れていた両足も綺麗に完治する。

 その光景を見届けた後、俺は翔を探し始める。

 ここから脱出するために。

 

 「翔ー?どこだー?」

 「優樹?俺はここにいるぞ!」

 

 その声が、少し遠くから聞こえる。

 走ってその場に行くと、頭を押さえている翔がいた。

 

 「どうしたんだ?頭痛いのか?レベルアップで治らなかったのか?」

 「・・・いや、大丈夫。ちょっと痛いだけだから。」

 「ふーん?それならいいや。早く外に出よう!」

 

 早く、早く!

 異世界の街、食べ物!

 

 「わかった。じゃあこの扉、開けるね。」

 「おう!」


 ギイィィッ…

 

 扉が開き、光が差し込む。

 久しぶりの光…って言うほどでもないか、翔の魔法で見てるわ。

 でもこの光を見るとワクワクするな…!

 これからの生活、なにが起きるんだろう…!

 少し空いた扉から、俺たちは、ついに…


 龍迷宮を脱出した。

一章完結!

ということでひと区切りです。

まだまだ投稿していくのでこれからもよろしくお願いします。

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