K-その5 託すもの
ドッゴォォォォォン!!!
なんだ!?
優樹の行った方から、音が…?
音がした方向を見ると、そこには…
「優樹!?」
地面にめり込んだ状態の優樹がいた。
なんでここに?
生きてるのか?
いや、優樹がこのぐらいで死ぬはずが…
「大丈夫か!?」
声をかけるが、返事がない。
意識を失っているようだ。
落ちてきて、その衝撃で?
ひとまず治療を…
チュン!
危な!?
ギリギリで飛んで来た魔法を回避する。
上から飛んで来てるようだ。
このまま無防備に被弾するわけにはいかない。
でも優樹を治療しないと…
そうだ。
結界魔法があった。
これなら魔法に当たることもなく、さらに優樹守りながら治療できる。
一石二鳥だ。
さっそく俺は結界魔法と風魔法を使い、周囲を守りつつ優樹の元に向かう。
「これは…ひどいな…」
思わず声が漏れた。
それほど、優樹の状態は酷かった。
呼吸はしている。
だが、上半身はボロボロ。
前面に大きな打撲痕が見え、腕は裂けかけている。
今は見えないけど、背中側もかなり酷い怪我だろう。
なんとか治さないと…
俺は祈祷魔法、治療を使い、優樹を回復させる。
裂けかけていた腕はマシになったように見える。
が、他はほとんど変化が感じられない。
とりあえず、魔法をかけ続けていよう。
ガガガガガガガガ───
結界に、あの龍の魔法がぶつかる音が響く。
ずっと撃ち続けるつもりか…?
このままじゃ、結界はすぐ壊される。
優樹は──意識がない。
・・・どうする?
・・・打って出るしか、ないか。
このままだと、優樹ごと潰される。
それなら俺が戦いに行って、あの龍の狙いを俺に変えるしかない。
・・・優樹が負ける敵に、俺が勝てるとは思っていない。
けど、ここで諦めるような人間は優樹の側にいる資格なんてない。
行こう。
戦いに。
優樹の治療を続けながら、優樹を守るように結界を作り出す。
硬く、簡単には破られないように。
・・・よし。
できた。
これで安心だ。
俺は結界から出て、翼を広げる。
優樹を守るため、俺は戦う。
あの龍と同じ高度まで上昇する。
ただ、まったくこっちを見る様子がない。
一心不乱に優樹に向けて魔法を撃っている。
俺のことなんて眼中にないんだろうか?
・・・そりゃそうか。
あんなに強いくてすごい優樹と戦闘してたんだから。
警戒するのは当然だ。
ただ、この状況は悪くない。
俺にできる最高の魔法を撃ち込めるから。
「スゥ──」
集中しろ…
まず、おそらくだが、あの龍は俺と同じく鏡鱗を持っている。
今まで戦闘して来た龍の中で一番強い龍だ。
当然だろう。
いや、もしかしたら鏡鱗の上位スキルまで…?
まあ、どちらにしても俺のやることは決まっている。
仮説を試す。
鏡鱗に対しての仮説を。
その仮説とは、鏡鱗に物理攻撃と魔法による攻撃、それを同時に与えると攻撃が反射されないんじゃないか、というもの。
鏡鱗は、物理攻撃の衝撃を内部に伝達する前に、周囲の鱗に衝撃を逃すことで衝撃を吸収した「ように」見せている。
じゃあ、その全ての鱗に魔法攻撃を行い逃げ場を無くしたら?
それを満たすために、魔法による飽和攻撃を行う。
この方法だと、鏡鱗の魔法反射がネックだと思うかもしれない。
だが、鏡鱗の魔法を鏡のように反射する効果は、速度がなければ発動しない。
反射しても速度がゼロだから。
つまりこれは解決。
さらに、単純な考えで設置面が小さい武器…つまり槍なら、限界まで速度を高めれば通用するかもしれない。
この二つの攻撃、仮説を織り交ぜる。
まず速度がなくても攻撃力を持つ魔法…火と電気の魔法を使い、龍の全体を覆う。
その後、俺のありったけの力を使い、これも火と電気の槍を作り出し、発射する。
槍など、武器を作り出す魔法は、その密度に物理攻撃…槍なら貫通属性のダメージが比例する。
つまり、できる限り風で圧縮した、「この」炎雷槍を…
ゴォォォォォ───
これもまた風で回転、加速させて…
撃ち出す。
フッ───
その瞬間──音が、消えた。
全てが無音になった。
さっきまであれだけ響いていた回転音も、風の唸りも。
空気すら止まったようだった。
その数秒後。
ズガガガガガッガァァァン!!!
耳が壊れるほどの、爆音が響いた。
俺が生み出した、肌が焼かれそうな熱気と共に。
どうだ…?
俺の、最大限の魔法だ…
これで無傷だったら…
立ち直れないかもしれない。
それで、結果を…直視できない。
本末転倒だ。
でも、結果を見ないと、優樹を守ることなんてできない。
そう考えて、顔を上げ、標的、龍を直視する。
そこには…
「グオオオオォォ…!」
龍が、飛んでいた。
横っ腹に、槍が突き刺さりながらも、飛んでいた。
その時、俺の脳内では、貫通までいかなかったか、俺の仮説は正しかった。
など色々な考えが渦巻いていたが、その中で、ある考えは、最も大きな声で叫んでいた。
「目が、合った…?」
そう、それは目の前にいる敵と目が合っただけの単純な事に対してだった。
それだけのことに、俺は声まで漏れた。
なぜかは、俺自身もわからない。
ただ、俺がこの龍と目が合って、困惑?もしくは、狼狽?
ダメだ、俺はこの感情を知らない。
知らないけど、俺がこの龍と目が合って何か感じているのは確かだ。
そして、その相手の龍は、完全に標的を俺に変えたようだ。
そうだ、それでいい。
優樹に構うな。
俺と、戦え。
「ごっはっ!?」
次の瞬間、俺は吹き飛ばされていた。
何が起きた…?
全身に、衝撃が来たことしかわからない。
吹き飛ばされた…
まずい。
このままだと…壁にぶつかる。
それだけはなんとか阻止したい。
その一心で翼を動かす。
「ぐううううう…」
風を使いつつ踏ん張ると、やっと止まった。
が、龍が接近してくる様子を見て、即座に急降下した。
空中戦はあっちに分がある。
なら地上戦で───
ドゴォン!
ぐっ!?
追いつかれた!?
まずい!
地面に衝突する…!
ドッ───
地面と衝突する瞬間、俺は風を圧縮し、空気の壁を、クッションの役割を果たすよう作った。
背中を守るように展開し、衝撃を逃す。
さらに、龍が攻めて来れないよう、風の盾で防御をする。
だが、状況は全く良くない。
もう、魔法を撃ち込む隙がない。
さっきから少しずつ魔法を撃っていたが、すべて叩き落とされた。
MPは…まだ少しある。
だけど、今できるだけの魔法でこの龍を倒せるのか…?
いや、無理だ。
あの魔法で葬れないんだから。
もう、俺が勝てる道はない。
せめて優樹を逃すために時間稼ぎを…
・・・いや。
違うな。
思い出した。
優樹の言葉を。
『俺は、翔が居ないと楽しくない!』
『自分を大切にしてくれ…』
ああ…そうだよな…
なら…これが正解だな。
俺は、作り出した盾を捨てた。
そう、防御を捨てた。
そして…目を閉じた。
結局諦めるのか?
いや、そうじゃない。
残りMPを「有効的」に使うためだ。
俺は、残りのMP全てを、俺の元から手放した。
龍が、前足を振り上げる気配を感じる。
だが、俺は動かない。
俺は───
「信じる。」
ガギィィィィイン!!!
思わず耳を覆いたくなるような音が聞こえる。
その音を聞き、俺は目を開ける。
「翔!遅くなった!」
「優樹…」
優樹を見て、体の力が抜ける。
ああ…もう大丈夫だ。
「後は、託した。」
「・・・おう。任せて。」




