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9話 パン屋から帰宅、これからのことについて

「ありがとうございました〜。」

 お客さんが買ったパンを紙袋に包んで渡す。

 今はお昼を過ぎた、お客さんがほとんど来ない時間帯である。店内に唯一いた、パンを買ったお客さんが店から出ていったため、売り場には今俺1人しかいない状況である。

 スミちゃんのお父さんであるゴートさんは無愛想だけれども、作るパンは美味しい。このため、お客さんは意外と多く、常連になっている人もいる。

 とはいえ、お客さんが来る時間は決まった時間帯に集中していて、とくに昼過ぎから夕方の間は来店する人が少ない。

 このため、昼過ぎの今の時間帯はあまりすることがなく、楽といえばそうなのだが実際暇である。

 昼に休憩も兼ねてネイバーの様子を見てみたら、ネイバーは体を丸めてぐっすりと寝ていたし。起きてたら多少暇つぶしができたかもしれないのに。

 もしくは、俺もパンを焼くことができたなら、空いた時間に色々パンを作ったりしてみたいところだけど。

 スミちゃんと一緒にクッキーを焼いたりしたら楽しいだろうなぁ。

 ボーっとしながらそんなことを考えていると、

 ガサゴソ

 と店の外から何かが動いているような物音がした。

 ネイバーが目を覚ましたのだろうか。

 それなら、少し遅いけど昼ごはんをあげようか。

 持参してきたバッグから木の実を入れている袋を取り出す。

 量はそれほどない。しかしながら、ネイバーは味覚はあるけれど、食べ物を食べる必要はないという話だったので量は少なくても大丈夫だろう。

 ついでにスミちゃんからもらったクッキーもあげれば喜ぶかな。

 木の実の入った袋とクッキーを木のかごに入れて店の外に出る。

 すると、扉を開けてすぐの店前で1人の男がしゃがみこんでいた。

「うぇ。」

 よく見るとそこにいたのは、昨日突然俺の家に乗り込んできて、俺の家を奪おうとしている貴族のビジターだった。

 何をしているのかと思えば、しゃがみこんでネイバーの頭を撫でている。

 ネイバーはいつのまにか目を覚ましていたらしく、ビジターに頭を撫でられながら体と尻尾を揺らしている。

 どうしようか、何も見なかった事にして店に戻りたいところだけど、今扉を開けて出てきたのに、ビジターを見つけたからすぐ戻るというのはバツが悪い気がする。

 考えている間にネイバーがこちらに気づいたらしく、俺の方に顔を向けて「ワン。」と吠えた。

 それに合わせてビジターも俺の存在に気づいたらしい。

「何見てんだお前。」

 こちらを見るなり立ち上がって俺をにらみつけてくる。

「い、いえ。店の前で物音が聞こえたものですから。」

「あん?」

 さらにビジターがこちらに近づいてこようとする。

 昨日みたいにまた胸ぐらを掴んでくる気か。

 1歩2歩とビジターが歩き、俺の目の前まで迫る。そして、予想通りに俺に向けて腕を伸ばそうとする。その時、

「ワン」

 ネイバーが起き上がりビジターの足元をぐるぐると回りだした。

「おい、なんだよ。」

 ビジターが困惑した声を上げる。

 大丈夫だろうか。ビジターの性格を考えると今すぐにネイバーを蹴り飛ばしてもおかしくない。

「おいやめろって。」

 ビジターがまた声をあげるが、ネイバーはおかまいなしに体を擦り付けながらビジターの周りを回っている。

「えっと、すみません。」

「あん?こいつはお前の犬か。」

「はい、いちおう。」

「・・・・・・ちっ。」

 俺のペットという話を聞いてビジターがネイバーを見る眼が険しくなる。

 しかしながら意外にもビジターはネイバーを蹴り飛ばしたりせず、両手でネイバーを押し退けて端へ寄せた。

 そして、「犬の躾ぐらいちゃんとしとけよ。」と言うと、そのまま何もすることなく立ち去っていった。

 いつもなら、パン屋に押しかけてきて代金も払わずにパンを強奪していくような奴なのに。その上、スミちゃんが店番をやっている時はちゃんとお金を払うようなコスイ奴なのに。

 なんだろう、みんなそんなに犬が好きなのだろうか。

 とりあえず、ビジターに難癖をつけられずに助かったし、ネイバーにはお礼を言っておこう。

「ありがとうネイバー。助かったよ。」

 ネイバーはビジターの去っていった方向を見つめていけれど、俺が声を掛けるとこちらに寄ってきて、俺の足に軽く体当たりをしてきた。気にするなということだろうか。犬の姿なのになんだか頼もしい。

「お礼じゃないけど、木の実とクッキー持ってきたから食べる?」

 手に持っていた木のかごから木の実を取り出してネイバーに見せる。

「ワン!ワン!」

「うわっ。ちょっと待て。」

 木の実を見せた途端にネイバーが後ろ脚で立ち上がりこちらに飛びかかってきた。

 どれだけ木の実が好きなんだ。

 目が本気だし、このままだと木の実をあげたときに指ごと食べられそうな勢いだ。

「ほんとにちょっと待って。少し離れて。」

 勢いに怯みながらもそう伝えると、なんとかネイバーは少し離れてくれた。

 このまま近づかずに、木の実を投げてネイバーに渡すことにしよう。

「それじゃあ今から投げるから、ちゃんと食べてね。」

「ワン!」

「それ。」

 掛け声に合わせて木の実をネイバーの口のあたりに放り投げると、ネイバーは素早く頭を動かして、パクリと木の実を食べた。

「もう一ついくよ。」

「ワン!」

 また一つ木の実を投げると、ネイバーがまた素早く口でキャッチする。

 さらにもう一つ、今度は少し高めに。ちょうどネイバーの頭上を越えるくらいの高さに木の実をなげる。

 すると、ネイバーは少し背伸びをして木の実を食べた。

 木の実投げが少し楽しいかもしれない。

 さらに高く、少し遠目に木の実を投げると、ネイバーは少し後ろへ下がりジャンプして木の実を食べた。

 さらに連続で木の実を投げると、パッパッパッと俊敏な動きで木の実を食べていく。

「おおー。すごい。」

「グルル。」

 ネイバーはどことなく不満気な様子だ。俺で遊ぶなと言いたいのだろうか。けど楽しいのでそのまま木の実を投げて遊ぶことにする。

 ネイバーも木の実が投げられたら素直に飛びついて木の実を食べているし、お互いにwinwinなやりとりといえるはずだ。

 持っていた木の実を投げおわり、最後にスミちゃんからもらったクッキーだけは直接ネイバーに食べさせてあげる。

 さすがに人からもらったクッキーを投げることはできない。

「おい、このクッキーはスミちゃんが作ってくれた大切なクッキーだから、味わって食べないとダメだぞ。」

 そう言いながらネイバーにクッキーを渡すと、ネイバーはムシャムシャとクッキーを食べて、それからこちらに歯を見せて笑顔を作った。

 とりあえずネイバーに食べ物はあげたし、ビジターは去っていったけどまた他の貴族に出会うのは嫌だし、店に戻ろうか。

「じゃあ店に戻るよ。変な人とかが来たら教えてね。そして出来れば追い払ってね。」

 ネイバーにそう言うと、ネイバーは元気に

「ワン。」

 と吠えた。

 店に戻ると、店の中は先ほどと変わりなく、静かなままだ。

 暇すぎるのは嫌だけど、悪質な貴族が来るくらいなら暇でいたい。平和が一番だ。


 ・・・・・・


 その後はとくに他の貴族が来ることもなく、夕方になった。

 何人かのお客さんから入り口にいるネイバーについて聞かれたりもしたが、家で飼い始めたペットを連れて来ているという話をすると、それ以上ネイバーについて聞かれることもなくすごすことができた。

 パンを買いに来たお客さんへの対応も終わり、時計塔から夕刻を告げる鐘の音が聞こえてきた。

 この夕刻の音が大抵の仕事場において終業の合図となっており、パン屋ホワイトブレッドでも鐘の音が閉店の合図になっている。

 お客さんもいなくなったので、外に出ている看板をしまい閉店作業を行う。

「ただいま〜。」

 一通り作業が終わった頃にスミちゃんが店に戻ってきた。

「おかえりスミちゃん。」

「ただいま。ライト君今日もありがとう。」

「どういたしまして。こっちこそクッキーありがとう。すごい美味しかったし、ネイバーも喜んで食べてたよ。」

「ほんと!?よかった〜。」

 スミちゃんは嬉しそうだ。

「お父さんは?」

「さあ、多分厨房か部屋にいると思うけど、しばらく売り場には来てないね。」

 実際、ゴートさんが売り場にきたのは朝と、あとは昼過ぎに新しく焼いたパンを売り場に追加しに来た時くらいだ。

「もう、もっと話したり、片付けとかも一緒にやって。ってお父さんには言ってるのに。」

 スミちゃんが腕を組んで少し怒った様子になる。

「ははは。」

「1人だけでやったり、1人にやらせたりするよりも、できることがあるならみんなでやった方がいいと思うでしょ?」

「そ、そうだね。」

「そうなのよ。もう、最近は家から出ることもなくなってきてるし、そんなことしてもどうにもならないのに。」

 スミちゃんの顔に影が指した。

 多分、スミちゃんがどうにもならないと言っているのは、スミちゃんのお母さんのことだ。

 スミちゃんのお母さんは何年か前に病気で亡くなっている。

 ゴートさんは元から口数の少ない人ではあったけれど、陰を感じる人ではなかった。それが、奥さんが亡くなってからは口数が少ないどころかほとんど無口になってしまい、雰囲気も陰を感じるようになってしまったのだ。

 しばらくの間パン屋も閉めたままになっていた。

 奥さんが亡くなって精神的な影響は大きいだろうし、当事者でない俺からは同情することしかできない。

 スミちゃんもお母さんが亡くなったことで精神的に大きな傷を負ったはずだ。実際、スミちゃんのお母さんが亡くなってからしばらくの間はスミちゃんも家に籠もりがちになってしまい、外で姿を見かけた時も目に見えて体がやつれていた。

 けれどその後、友達からの励ましもあってスミちゃんは元気を取り戻すことができた。

 そして、ゴートさんを説得してパン屋を再開したのである。

 それからは、ゴートさんはパンを焼いて、スミちゃんはパンを焼くことと、それ以外の店のことをすべて行うようになった。

 とても大変だと思うが、スミちゃんはそんな素振りを見せずに明るく振る舞って毎日お客さんの対応をしている。頭が下がる思いだ。

「あ、ごめんね。困るようなこと言って。」

 俺が黙ってしまったからか、スミちゃんが慌てて笑顔を作り謝りの言葉を言う。きっとスミちゃんは、ゴートさんにもっと元気になってほしいのだろう。

「そんなことないよ、俺もゴートさんに元気になってほしいし。俺にできることがあったらなんでもやるから言ってね。。」

「うん、ありがとう。何かあったらお願いするね。」

「まかせて。」

「・・・・・・それじゃあ早速お願いがあるんだけどいい?」

「いいよ。」

「えっとね、ネイバーちゃんを1日借りてもいい?」

「えっ!?それは。」

 スミちゃんが犬好きなのはわかるけど、ネイバーは魔物だし、多分オスだし、それはいろいろ危ないだろう。

「冗談だよ。ライト君もネイバーちゃんと一緒にいたいもんね。」

 スミちゃんはすぐにお願いを引き下げてくれた。

「あはは、そうだね。ごめんね。」

「ううん、その代わり、次に来る時もネイバーちゃんを連れてきてね。」

「うん、連れて行くよ。」

「約束だよ。」

「あはは。」

「絶対だからね。」と大分強めの念押しをしてくるスミちゃんと別れ、帰り仕度を整えてパン屋から出る。すると、俺に気づいたネイバーが近づいて来た。

「ワン。」

 待ちかねたといった様子で声をあげる。

「ああ、おまたせ。帰ろうか。」

「ワン。」

「しかし。お前得してるよなぁ。」

「?」

 俺の言葉にネイバーが首を傾げる。

「いや、なんかみんなお前に優しいからさ、みんな犬が好きだったんだなぁって。」

 ネイバーにそう言うと、ネイバーは歯を見せてこちらに笑顔を向けた。

 ちょっとムカつくな。

 とりあえず今日1日を過ごしてみて、ネイバーを俺が連れていることを不思議に思う人はいても、不審に思っている人はいなかった。

 ネイバーも暴れたりせずにおとなしくしていたし、これなら他のところに連れて行っても大丈夫そうだ。

「あ、そういえば。」

「?」

 ネイバーが俺の言葉に反応してこちらを見上げる。

「飼い犬なんだから首輪買わないといけないよな。野犬と間違われたらいけないし。」

「ワン!ワン!」

 首輪を買うという言葉にネイバーが歯を剥き出しにして抗議を示す。

「まあまあ、人間の世界では飼っている犬に首輪を付けるのがルールだから、仕方ないんだよ。」

「グルルル。」

 ネイバーがすごく嫌そうな顔をしている。

 しかしながら、一応拒否はせずに従ってくれそうだ。

 俺が歩き出すのに合わせてネイバーもついてくる。

「ついでに犬用のオモチャも買おうか。」

 そう言ってネイバーをからかうと、無言で足元に体当たりをされた。


 ・・・・・・


「ネイビーでどうだ。」

「え、何が?」

 家に帰り一息ついていると、突然ネイバーが口を開いた。

 今ネイバーは犬の姿から人間の姿になっている。人間の姿になる度に服を着るのは面倒くさいということで、服を着ずにベッドのシーツを体に巻き付けている状態だ。

「犬になってる時の俺の名前のこと。ネイバーだと紛らわしくなりそうだし、ネイビーがいいと思うんだよ。」

「別にいいけど、他の人にはもうネイバーって名前言っちゃってるからどうしようか。」

「ネイバーとネイビーで一文字違うだけだし問題ないだろう。まだ俺が家に来てから1日目なんだし、名前が変わっても不思議じゃない。それよりも、俺が人の姿で行動する時が来たときに、犬の時とで名前が混同する方がリスクになるんじゃないか。」

「う〜ん。そう言われると、そうかもしれない。」

 たしかに俺と一緒に行動するときに、人と犬が同じ名前なのは変だ。

「それなら、犬のときの名前はネイビーじゃなくて、もっと違うほうがいいんじゃない?」

 ネイバーとネイビーでは名前が似すぎている。

「俺が覚えられないんだよ。」

「え?」

「人の名前って難しいんだよな。」

「はぁ。」

 どういうことだろうか。

 俺が不思議そうな顔をしていたからか、ネイバーは頭を掻きながら説明を加えた。

「なんていうかな、名前って人にしかないよな。動物はお互いに名前なんてつけないよな。」

「うん。多分。」

「動物だって個体は認識してるわけよ。こいつはこいつで、あいつはあいつ。って感じで。けど、名前で識別なんてしてないわけよ。だからまあ、動物から魔物になった俺にとって、名前ってすごい覚えにくいわけ。」

「そっか。たしかにそれは覚えにくいかも。」

「そうなんだよ、人の姿で生きてたこともあるって言ったけど、言葉も覚えるの難しかったんだよな。その中でも名前は人ごとについてて余計に難しくてな。」

「つまり、人のときと犬のときで名前は変えたいけど、全然違う名前だと自分で覚えられないと。」

「そういうこと。」

「そっか〜。」

 俺としてはネイバーが名前を使い分けることにとくに反対はない。

「いいんじゃない。今度から犬のときはネイビーって呼ぶよ。」

「そうしよう。」

 俺がそう言うとネイバーは大きくうなずいた。

「今日は初めての村の中だったけど、どうだった?」

「ああ、いい村なんじゃないか。やけに人から構われたけどな。」

「それは俺も驚いたよ。犬がこんなに好かれてると思ってなかったから。とくにスミちゃんなんて次も絶対に連れてこいって言ってたし。」

「あの女の子か。」

 スミちゃんの名前を出しただけでネイバーが若干疲れた顔をする。

「いいじゃないか、スミちゃんに構ってもらえて。俺が代わりたいくらいなんだけど。」

「ふ〜ん。お前あの子が好きなんだ。」

「うっ、まあ、可愛いし明るいし気になってるよ。」

「告白したの?」

「・・・・・・してないよ。悪い?」

「いや、別に。」

 ネイバーの顔がニヤついている。むかつく。

 たとえお前がスミちゃんに告白したとしても、いい返事をもらえないだろうということはわかっているのだ。

「別にいいならそれでいいだろ。」

「それもそうだ。」

 少しムキになって言うとネイバーは引き下がった。

「それじゃあ、今度はそれ以外のお前の話をするか。」

「え?」

「俺を召喚した理由について教えてくれ。昨日は聞けなかっただろう?」

「あー、うん。けど、すごい理由ってわけじゃないよ。俺にとっては重大なことなんだけどさ。」

「俺もたいして重大なことがあると思ってないから、気にすんなよ。」

「そう。」

 俺の事情ご重大と思われていないというのもなんだか悲しい。

「えーと、それじゃあ言うけど、何を話したらいいかな。う〜ん。ネイバーは貴族って知ってる?」

「人間の社会の中で地位の高い奴のことだろう。」

「うん。それで、その貴族が村にもいるんだけどさ、貴族の奴らは村で権利を使って好き放題してて、暴力をふるったり物を買う時の料金を踏み倒したり、酷い奴らなんだよ。」

「そうか。」

「そう。で、これまでは無差別的にその場で問題を起こすことが多かったんだけど、最近になって、俺が集中的な標的にされたみたいなんだよ。」

「どういうこと?」

「今、俺が住んでるこの家が貴族に奪われそうになってるんだ。この家に住み続けるならもっとお金を払えって、それができないなら家を没収するって、あいつらは俺がそんなお金を払えないっていうことを知っていて、俺を追い出すためだけに無理な条件を押し付けてきたんだ。」

「ふ〜ん。突っぱねたり対抗することは難しいと。」

「無理だよ。あいつらは権力も金ももってるし、村の兵士もあいつらには逆らえないし。なにより、あいつらは魔法が使えるんだ。それも素人が使うようなものじゃなくて、大きい火を出したり、氷の塊を出したりするんだ、とても敵わないよ。」

「そうか。それでその貴族たちをどうにかしたいと。」

「ああ。だから家にあった魔法の本を読んで、その中に召喚の魔法があったから、ドラゴンとか強い魔物を召喚して貴族に一泡吹かすことができないかと思ったんだ。今考えるともう少し考えるべきだったと思うけどさ。」

「けど、どうにかして貴族の奴らに一泡吹かせたいと。」

「うん。今日パン屋にきてた奴で、俺に詰め寄ろうとしてた男がいたと思うけど、あいつは貴族のビジターっていう奴で、俺を家から追い出そうとしている筆頭の奴なんだ。」

「ああ、あいつか。俺にはそんなに悪い感じじゃなかったけどな。」

「いや、たしかに犬には優しかったみたいだけど、あいつは嫌な奴なんだよ。昔はそうでもなかった気もするけど、都市の学校で魔法を使えるようになってからは本性を表したんだよ。」

「そうか。それじゃあどうするか。」

「どうするって?」

「村の貴族を全員倒せばいいのか?」

「えっ、そんなことできるの?」

「できるよ。」

 ネイバーが自信満々で言う。

「魔力の強い奴が周囲にいたら大体わかるけど、そういう奴はいないみたいだし、今の俺でも充分勝てると思うぜ。村人全員を相手にしてもね。」

「そ、そっか。」

 そんなにすごい力を持っているのか?すごい自信だけど。

「それでどうする?全員殴り飛ばせば一泡吹かすことはできると思うけど。そうすれば家から出て行く必要も無くなるんじゃないか。」

「う、う〜ん。」

 どうだろう。ネイバーなら本当に貴族達を倒せるのかもしれないけど。たしかにそうすれば家も出て行かないですむかもしれない。

「いや、ちょっと待って。全員を倒すのはちょっと問題になるかもしれない。」

「そうか?」

「どうだろう?けどやっぱり村社会だからさ、あんまり大事にすると、逆に俺が村に居づらくなるんじゃないかなって。」

「めんどくさいな。」

「う〜ん。」

「別に俺がライトの名前を出さなければいいんじゃないか?」

「そうかな?けどそれだと、貴族に一泡吹かせることはできるけど、俺は結局家を奪われちゃうよね。」

「ふ〜ん。それならさ、家を奪われないようにするには大事になるのも仕方ないんじゃないか?」

「それもそうなんだけどさ〜。けど、俺は実際、村での立場が弱いんだよ。親も子供の時にいなくなっちゃったしさ。俺は結婚もしてないし子供もいないし、定職もないしさ。」

「あんまり目立つことはしたくないと。」

「うん。そんなこと言ってる場合じゃないっていうのはわかってるんだけどさ。」

 こんな時に後先を考えずに行動できる力があればいいのだけど、悩んでしまってなかなか踏み出せない。

 俺の煮えきらない態度にイラついているかもしれない。ネイバーが考え込む仕草をする。

「そうしたら、村を出るっていう選択もあるかもな。」

「え?」

「家にいてお金を払う場合、大体どれくらいの時期までここにいれるの?」

「え〜と、1年くらいじゃないかな、多分。貯蓄を取り崩していって。」

「1年は期間があると。それじゃあさ、貴族を倒す選択を除いて残ってるのは、今家を出るか、1年後に家を出るかの2つじゃないか?」

「う、う〜ん。」

 悩む。ネイバーの言っていることは確かにそうだとも思うけど、今すぐには決められない。

「貯蓄に限りがあってお金を払う必要がある以上、タイムリミットはもう決まっているわけだよな。貴族が諦めない限りは。」

「うん。」

「そうしたら、俺がお前に魔法の知識を教えてやるよ。」

「え?」

「1年間を準備期間にして、その間に家を出る支度を整えるのはどうかっていうこと。」

「それは。」

「俺が今見る限り、お前は今、この村で先がない状態だよな。」

「うぅ。」

「逆に考えるとさ、いい機会だと思うわけだ。」

「?」

「人生の転機と考えてみてもいいんじゃないかってこと。この村は貴族の力が強くて、お前は弱い立場にいる。家は残っているけれど、その家も奪われることがほぼ決まっている。けどそれを人生の転機と考えて、1年間俺から魔法について教わる時間ができたと考えるわけだ。1年間村を出る準備を整えて、それからすっぱりと村を出て別の場所に行く。っていうのは選択として悪くないんじゃないか?」

「あ〜。どうだろう。」

 ネイバーの言う方法は悪くないような気もする。実のところ家が残っていたとしても、それ以外に俺が持っているものなんて特にないし。けれど・・・・・・

「暫定でその方向で考える、ってことでもいい?」

「いいんじゃないか。お前の意思で決めたなら。」

「そ、そっか。そうだよな。ありがとう。けど、この家は親が遺してくれたものだしさ、なかなか諦められないよ。」

「それならそれで1年間考えて、その時にまた、家を出るか貴族と戦うかを考えればいいだろう。」

「う、うん。けど、俺はこの村の生活しか知らないし、他のところで生活できるかな。」

 正直自信はない。俺になにか専門的な能力があるわけでもないし。

「できないことはないだろう。まあ安心しろよ。お前が生きてる間はお前に協力してやるし、俺がいてできないことなんてほとんどないぜ?」

 ネイバーが自信ありげに笑う。

 それにつられて、俺にも少し自信が出てきたかもしれない。

「うん。たしかにタイムリミットはあるわけだし、何かしら動かないといけないよな。まだ決められないけど、村を出て悪いことはないよな。」

「そうだよ。」

「その、本当に魔法のことも教えてくれるのか?」

「ああ、安心しろよ。」

「そうか〜。ありがとうな。少しだけ未来に希望がもてたよ。」

「おう、よかったな。それじゃあ目標もできたしこの話は終わりだな。魔法について教えるのは明日からでいいだろう?話したら腹へったし、飯くれよ。」

「う、うん。わかったよ。木の実でいいの?」

「ああ。木の実をくれ。あと、あの女の子が作ったクッキーも美味しかったからもっとくれ。」

「う、仕方ないな。けど全部はあげないよ。」

 本当は自分で食べたかったけど、魔法を教えてもらう立場だし、クッキーを渡すのは必要経費か。

 ネイバーにクッキーをわたすと、ネイバーはパクパクとクッキーを食べていく。

 幸せそうな顔だ。

 男の幸せそうな顔なんてあまり見たくないが、美味しく食べているならスミちゃんも本望だろう。

 俺も少し気が楽になった気がするし、心の中でもネイバーに感謝しておく。

 しかしながら、村を出て行くというのは考えたことがなかった。今までずっと村で生きてきたし、このまま1人で生きていくのだろうと思っていた。

 それがこの1、2日の間に1年後には村を出て行くかもしれないことになるとは。



 ・・・・・・



 自分用の晩御飯を食べ終わり、ネイバーも晩御飯代わりにあげた木の実を食べ終わった後、

「さて。」

 テーブルのイスに座っていたネイバーがゆっくりと立ち上がった。

「ん?どうした。」

 何かするつもりなのだろうか。

 不思議に思っていると、ネイバーの姿が一瞬で消え失せ、体に巻いていたシーツだけが床に落ちた。

「ええ!?何だ!?」

 驚いて床に落ちたシーツの近くへ寄っていく。すると、

 バササ

「うわっ。」

 シーツの中から何かが飛び出してきた。そして、俺の目の前を通り過ぎてからテーブルの上に着地した。

「クケケ。」

 テーブルに着地した何かは羽を少し広げて鳴き声を発した。

「鳥?」

 テーブルの上にいたのは鳩くらいの大きさの鳥だった。頭にはトサカがついている。

「ネイバーなのか?」

「そのとおりだ。」

「うわっ、喋った!?」

 ネイバーの姿が消えてからこの鳥が出てきたので、ネイバーが鳥に姿を変えたのはわかったけれど、人の言葉で返事をしてくるとは思わなかった。

「なんで突然鳥になったんだ?それに動物の姿なのになんで喋ってるんだ?動物の姿だと喋れないって言ってたよね。」

「まあ落ち着け。」

 ネイバー(鳥)がこちらを見上げて言う。

「鳥の姿になったのは、この村の全体を一度把握しておくためだよ。空を飛べば早いし、全体を掴みやすいからさ。それに少し気になってることもあるし。」

「気になってることって?」

「今のところは何とも言えないな。まあ個人的なことだ。」

「はぁ。」

 パン屋で店番をしてるときに何かあったのだろうか。

 疑問に思うがネイバーは答える気はないらしい。

「次に俺が言葉を話せる理由だけど、俺が今鳥の姿になっているから、っていうことが理由かな。言葉を話せる鳥って知らないか?オウムとか、インコとか。」

「う〜ん。知らない。」

「そうか。けどそういう、言葉を話せる鳥が世の中にはいるんだよ。俺は今オウムの姿になってるけど、お前が実物を見たらけっこう驚くかもな。」

「ふ〜ん、そうなんだ。」

「そうなんだよ。もとから言葉を話すことができる動物の姿になってるから、俺はこの姿で話すことができるってわけ。」

「よく知らないけど、人の言葉を話せる鳥なんてのがいるのか。」

「このあたりにはいないかもしれないな。あと一応言っておくと、魔力さえあれば犬の姿でも言葉は話せるよ。」

「え?そうなの?」

「ああ。」

「それなら話せばいいじゃん。」

「魔力があればだよ。お前の今の魔力だとまだ足りないな。」

「俺のせいか?」

「そうだよ。犬の姿で話すにはもっと魔力が必要だ。」

「そ、そっか。」

 自分の力不足を指摘されて少し悲しい。

「まあ、魔法についてはこれからの伸びしろに期待しようぜ。」

 ネイバーが励ましてくれるが、鳥に励まされているので変な気分だ。

「それじゃあ、そろそろ行くわ。」

「うん。村をまわったら戻ってくるの?」

「いや、外に出てる。俺は夜の方が目が覚めるんだ。目が覚めているのにじっとしているのもつまらないからな。」

「魔物ってやっぱり夜行性なの?」

「さあ?俺はそうだけど他の奴は知らないな。」

 たしかに、今日の朝起きたときにネイバーはテーブルに座っていた。昨日俺が気絶してからテーブルから動いていた感じがしなかったけれど、もしかすると一日中起きた状態でテーブルに座っていたのかもしれない。

「逆に昼は眠いんだ?今日も昼は寝てたよね。」

「昼に眠くなるわけでもないけど、まあ動けない状況だったし、いつの間にか寝てたな。」

「ふ〜ん。」

「お前も昼に自分の家の犬が村を走り回るよりは、夜に自分と関係のない鳥が村を飛んでいる方がいいだろう?」

「う〜ん。まあ、それはたしかに。」

 ネイバーの言う通り、夜中に鳥が1匹飛んでいても気にする人は少ないだろう。

「よっと。」

 考えている間にネイバーがテーブルから窓の縁まで飛んだ。

「それじゃあ行ってくるわ。窓を開けてくれ。」

「ああ。」

 ネイバーの姿を見られないように、家の窓とカーテンは閉めきっているが、少しだけ窓を開けてネイバーが通れるようにする。

「朝までにはもどるからそこは安心しとけよ。」

 ネイバーが鳥の姿でこちらに笑顔をむけた。

「ああ、問題とかは起こさないようにしてくれよ。」

 バサッ

 ネイバーは俺の言葉に返事をせずに飛び立っていった。

 遠くで「クケケ。」という鳥の鳴き声が聞こえた気がする。


お読みいただきありがとうございます。

評価などいただけますと幸いです。


前回投稿してからいつのまにか1月たっていました。

なかなか思うようにはいかないです。

あと花粉症が辛い。

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