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4/4

おにたいじしま――――

前回のあらすじ!


デイゴの花が………。


「もう、ネタないからって危険犯そうとするのやめろよ」


ふっふっふ! わたくしの涙を届けてください☆


「どこに」


南の海に?


「無理」


でははじまりはじまり~!







 日はすっかり落ちて、夜になりました。

 さざ波は穏やかな音を立ててます。


 真っ暗な空には、金銀砂子を散りばめたような満点の星空が輝いています。

 ひとつ、滑り落ちた流れ星は、僅かな余韻を残しならがら暗闇に溶けるように消えていきます。


「ハッ、ねみぃ」


 ……ちょっと!

 せっかくわたくしがステキに描写してるのに、大あくびとは何事ですか! 鼻で笑い飛ばすなんて、わたくしに失礼です!


「そうか? 何故なら、描写が退屈」


 まーっ! なんて罰当たり主人公でしょう! 失礼しちゃいますよ、全く!


 こうなったら奥の手です!


 ……さあっお供たち!

 桃太郎(泥棒)をやっつけておしまい!


「あらほらさっさー! わん」

「あらほらさっさー! にゃん」

「あらほらさっさー! ちゅう」

「なんか違うもん混ざってんぞ」


 気のせいですよ。桃太郎さんてば、いちいち細かいんですから。

 細かい男は嫌われますよ。


「お前に嫌われても困らない」


 ちょっ、耳をほじくるんじゃありません!

 ふって耳垢飛ばすんじゃありません! ばっちい!


「やってねぇわ!」


 減らず口ばかりで可愛くない男は(以下略)。


「事実を述べてるだけだし。可愛さなんて求めてねぇし」


 みんなこんなにノリノリなのに、一人だけノリが悪いなんて空気読めませんねー。けーわいですよけーわい! イマドキから乗り遅れてますよっ、桃太郎さん!


「お前の発言に今までイマドキなんてあったか?」


 ふぇええー! 桃太郎がいじめるよぉおおお!


「あ、泣かしたわん」

「泣かしたにゃあ」

「泣かしたコケ」

「あのな、お前らも悪のりするな」

「だってーコケ」

「ひまだワン」

「おやすみにゃさい」

「……めんどくせえな、こいつらほんと」


 あ!


 ねえねえねえねえねえねえ桃太郎さん! ねえねえねえねえねえねえ聞こえました? 聞こえました?

 今、ざぱんって音、しませんでした? しましたよね!


 ……ん? なんです、その呆れた顔は。


「…………お前は通常運航に戻るの早すぎるわ」


 え?

 これ以上引っ張っても仕方ないでしょう?


「お前がそれ言うのかよ」


 むしろ、わたくしが言わずに誰がお話進めるのでしょう!

 桃太郎さんですか? 否!


「………………」


 あ、図星です? 図星ですぅ?

 桃太郎さんにこのお話を進める事は出来ないって、認めちゃいますぅ?


「ざぱん? 波だろ、どうせ」


 チッ。

 受け流しましたね、この野郎。


「時間の無駄だからな」


 ………………。


 波じゃないです。何かこう、水に飛び込んだような音です。


「ロバはまだ舟の上だ」


 突き落とすんですか?!

 やだー、この桃太郎野蛮人ー!


「嬉々として突き落とすのは、お前の方だと思うけどな」


 …………………………。



 ――――とかなんとかふざけていた、その時です。


「ふざけてたんかよ」


 その時です。


「なに急に地の文に戻ってるんだよ」


 その時です。


「無視か。無視だな?」


 進まないので進めます。

 その時です。


「オレのせいか。ふーん、そーかい、オレのせいかい」


 閑話休題()


 先ほどまで穏やかだった波が、みるみる内に荒れてきます。ざざーん、ざざーんと次第に波を高くして、海岸線を押し上げていきます。


 さあ、大変です! 波はあっという間に、こちらに押し寄せてくるではありませんか!

 海の底が(えぐ)れて、砂地まで見える始末ですよ!



 おい! お供ども逃げるぞ!

 こんなところで悠長に構えていたら、波に飲まれる!


 桃太郎は偉そうに言うと、お供たちと逃げ出します。


 ああ、しかしなんとうことでしょう! 小舟に繋がれたままのロバは、成す統べなく海の藻屑となりそうです!

 ぐらぐらとあぶなかっかしく波に揺られる小舟の上で、ひーんひーんと悲しそうに泣いています。


「…………ちっ、くそ! やっぱり沈める気満々じゃねぇか!」


 あ、意外。

 繋がれたロバのために戻るなんて、桃太郎さんすてきー(棒読み)。


「そもそもさっきから動いてねぇ」


 ひゅーひゅーいかみそー。あ、間違えた。いけめそ(イケメソ)ー(棒読み)。抱いてくださいー(棒読み)。


「は?」


 やだ、怖い顔。ほんの冗談じゃないですかー。


「誰かこいつ殴ってくれねぇかな」


 物騒な事言わないでくださいまし。

 わたくし地の文、こんな乱暴な子に育てた覚えはありません……! 涙が出ちゃう!


「しばくぞ」


 それにしても、見てください。

 海が一気に引いたお陰で、向こうの島まで陸路が出来てしまいましたよ! まるで海を割ったかのように、不自然に水の壁が出来ています。


「お前のスルースキルには呆れるわ」


 存じません。


「大体、地駄文のくせにしゃしゃりすぎだと思うが。最初と比べて前に出すぎだろ」


 気になるあの子をつい目で追ってしまうあるあるですね。


「は? 寝言は寝てから言え?」


 それにしても! ほんとに由々しき事態ですよ!

 こんな道が出来てしまったら、鬼の大軍がこちらにやってきたい放題です……!


「全部倒せばいい」

「親分かっこいいワン!」

「ひゅーひゅーコケー!」

「ごろごろ応援してるにゃん!」


 …………。なんか、一致団結してて解せないです。


「あ? なんか言ったか」


 いえ。


 よく見ると、海底がむき出しになった砂地に、一本の杖が刺さってます。

 まさかあれが、噂に聞くアロンの杖……?!


「は? なんじゃそりゃ」


 え、知らないんですか? 知らないんですかー?

 モーセが海を割った杖そのものですよ!


「なんでそんかものがあるんだよ!」


 さあ? 生命の神秘ですね。


「それも違うだろ! 適当にも程があるわ!」


 うふふふふ。

 おおーなるほどー。引き潮って実は、アロンの杖で海が割れてたんですねぇ。


「白々しいにもほどがあるぞ、この地駄文」


 あ、見てください桃太郎さん!


「今度は何だよ……」


 うんざりしてないで喜んでください。

 高波の影に人影がありますよ!


「ハッ! 今度こそ鬼だな!」


 ユダヤ人たちがモーセに()――――。


 ………………。

 なんでこんな時だけ主人公らしいのでしょう。


「あ? なんか言ったか」


 ごほん。

 かちっと鍔から刀を押し上げ、いつでも抜刀出来るように桃太郎は構えます。


 先制あるのみ!

 桃太郎は砂地を巻き上げつつ踏み込むと、神速の抜刀術を繰り出します!


 くらえっ! 飛天◯剣流……作者が児ポ――――


「やめろ! それは失礼だ! そしてオレはまだ一歩も動いてねぇ! 黙れ!」


 えー? だって、ほんとの事でしょ?

 っていうか、貴方いつまで小舟の側にぼけぇっと突っ立ってるんですか。いい加減、お話進ませてくださいよ。


「悪かったなぁ? ぼけぇっとしてて。小舟に繋がれたロバの手綱を外そうと必死なんだよ、こっちは。なのに誰かさんが仕事しないから、オレが何してるかも解らないし、お話も進まないんじゃねぇのかねぇ?」


 長文のセリフは読者に嫌われますよ(ぽそっ。


「知るかよ。第一、聞きかじったニュースを知ったかする方が余程どうかと思うが?」


 ………………。


 あ、見てください。


「おい」


 なんと、鬼かと思いきや、羽衣を纏った美しい女人が歩いてやって来ています。


「なんで鬼と人影見間違えるかね」


 全身黒タイツさんがスポットライト浴びると、体格が一気に変わるあるあるです。あれれー? おかしいぞー?


「黙れ」


 (さて)々。


 桃太郎は女人と相対しました。ごくり、緊張を感じて喉を鳴らします。



 その方は、とても美しい方でした。

 陶器のような肌はなめらかで、あまりの艶やかさにまるで肌が光を放っているかのようです。夜の暗さにも負けておらず、どこか現実味がありません。


 カラスの濡れ羽のような髪は、よく手入れされているのでしょう。月光を受けて、きらきらと輝いています。

 本当に海を歩いて来たのでしょうか。錦を紡いだ光沢のある着物は、潮風に晒されてなお、湿り気を感じさせません。全身光っていらっしゃるみたいです。


 あまりにも自然に、しとやかに、滑るようにやってくるその姿は、やはりモノノケの類いなのでしょうか。美しさは、桃太郎を信じられない気持ちにさせます。


 しかし、桃太郎は見惚れる気持ちを抑えて、凛々しく宣言いたします。



 我が名は桃太郎! 東の果てよりこの地へ来た!


「いや、実家は野山に囲まれた場所だが?」


 そなたはこの地の人々を苦しめていると聞く、悪い鬼か?


「つか、ギリギリアウト臭いからやめろよ」


 この刀の錆びにしてくれる!


「聞け。頼むから聞け」


 桃太郎の言いがかりに、あやかしのように美しいお姫様はきょとんと首を傾げています。


「言いがかりはお前の方だろ」


 桃太郎さん、見てはいけません!

 魅了されて、魂を抜かれますよ!


「いや自分、織姫っす。そんな事しないっすよ」

「は?」


 ぽかん、とだらしなく口を開けたのは、桃太郎の方でした。


「あの、私モノノケじゃないっす」

「………………………………え?」


 たっぷりと沈黙すること数拍、怪訝そうに眉をひそめた桃太郎は、やっととろい口を開きます。


「ちょ、おい。状況が解らなくて様子見してたのは事実だが、それは聞き捨てならねぇぞ」


 はて?


「この後に及んでまだすっとぼけるのかよ、おい」


 はてはて?

 なんのことでしょう?


「……あああもう! 話になんねえ! でもおい、あんた! 鬼の仲間には違いないんだろ!?」

「鬼……? いや自分、織姫っす」

「……ん? おにひめ、だろ?」

「お り ひ め! っす」


 特性、おばあさんの難聴。


「………………」

「………………」


 ………………。


「おい、駄地文。どういうことだ」


 んー?

 なぜにわたくしに聞くのですかあ?


「お前以外に誰に聞けと?」


 じゃ、織姫ってニ十回言ってください☆


「二十回? 織姫織姫織姫織姫織姫織姫織姫織姫織姫織姫織姫織姫織姫織姫織姫織姫織姫織姫織姫織姫。読者はきっと、ゲシュタルト崩壊してるな」


 ちょっと、余計なこと言ってないで下さい。

 はい、こと座アルファ星の名前はー?


「ベガ」


 ……チッ。別に織姫でいいじゃないですか。

 あえて変えるあたり小憎たらしいですね。


「あ、あの! どうか、私の話を聞いて欲しいっす!」

「……………聞こう」


 なんて事でしょう!

 あの桃太郎太郎さんが! 事あるごとにわたくしの事を受け流す桃太郎さんが!

 素直に聞こう、ですって?!


 槍でも降るんですか?!


「黙れ。お前のそういうところが受け流される原因だって、いい加減気がつけ」


 ぐすん……。桃太郎がいじめ(以下略)。


「それで織姫、話を聞かせてくれ」

「あ、ハイ。私実は……こんな騒ぎにするつもりはなかったんす。けど彦が……一年に一回しか会ってくれなくて、それで私……もう耐えられなくて」


 清十郎が……。


「黙れ。『ヒコ』違いだ。大体まだそのネタ引きずってんのか」


 あっぽーぺん?


「うるせぇ。そりゃピコだ。もう話の腰折るな」


 ちぇっ。


「それで、この地に降りてきたはいいものの、地元の人を驚かせてしまったみたいで。ごめんなさい! 食べ物は美味しく頂いちゃったので返せないっすけど、それ以外のものには手をつけてないっす! 返す機会がなくて困ってたんすけど、きちんとお返しします!」

「事情は解った。けど、訂正しようとしなかったあんたにも否はある」

「そうすね。申し訳ないっす」

「今日も食べ物を貰いに?」

「持っていかなかったら持って行かなかったで、すごい騒ぎになったことがあるんす」

「なるほど。言いたいことはあるけど、今は押さえておくとしよう。まあ、もっと物申したい奴がここに……なあ? 地駄文」


 はて? わたくし、何かいたしましたっけ?


「すっとぼけもいい加減にしろよな。お前ネタがないからって、テレビから引っ張ってくるのやめろバカ。人違いにもほどがあるぞ」


 えー?

 むしろ、興味ないテレビを頑張って見た、わたくしを誉めてほしいです。


「アホか」


 桃太郎をテーマにしたCMは、ペ◯シが好きです。


「聞いてねぇ」


 コカ・◯ーラ(強いやつ)を倒せ。ってメッセージがすてき。


「多分、違う。真意は知らんが、多分それは違う」


 いぇええええっい!

 じゃーすてぃーす!!


「黙れ」


 桃太郎さん大変です。


「なんだよ」


 予定していた枠より大分文が足りてません。


「アホか。知るかよ。鬼どこだよ」


 この後劇的ドラマチックなラブロマンスが始まる予定なんですから、もう少し桃太郎さん頑張って下さい。


「無理」


 ちなみに鬼なんてこの世にいる訳がないじゃないですかー。

 餓鬼畜生の発想なんて、お堅い仏教の世界だけで十分ですしー?


「意味が解らん」


 んもう、にぶちんですね!

 強いて言うなら、わたくしはおじいさんおばあさんに対して、鬼退治に行くなんて言ってませんよ。


「は?! でも鬼退治に出発とか言ってただろ! とぼけんのも大概にしろ!」


 言いましたね、それは。

 でも出発の理由は、あなたが強いやつと戦いたいって言ったからですよ。


「……オレは一言も言ってねぇし、人はそれを屁理屈と言う」


 鬼退治イコール強いやつと戦うとも言ってません。


 と、いう訳です。

 この話は終わりましょう。織姫さんが、桃太郎さんに放置されてそろそろ退屈されてます。


「え?! ちょ、待てよ! 結局強いやつとすら戦ってねぇじゃねえか!」


 え? 戦いましたよ。

 ほら、コヨーテ。


「あれで済ませるのかよ?!」


 立派な戦闘でしたよ?


「描写すらないのに?!」


 え? いるの?


「最後の最後で雑過ぎんだろオイ!」


 ピリピリしてますねぇ。カルシウム足りてないんじゃないですかぁ。


「お前ここで終わったらクレームの嵐だぞ!」


 大丈夫です。

 ハッピーエンドにすればいいんです。


「この状況でどうしてハッピーエンドになるんだ?!」


 簡単な話です。


 こうして、桃太郎は鬼を退治する事もなく、一目惚れした織姫をお嫁に迎えるのでした。お祝いの席には、見事なローストチキンが出されました。


「ひっ! 食われるコケ?!」


 織姫の美しさにモノノケの類いと怯えていた漁村の人々は安心を手に入れ、嫁を連れ帰った桃太郎におじいさんとおばあさんは大層喜びました。

 猫は桃太郎夫婦のペットとして、犬は番犬に、ロバは畑仕事の大事な労働力として、末永く幸せに飼われてましたとさ。


 めでたしめでたし!

 










「……なあ、やっぱオレ、お前がラスボスだと思うんだ」


 んふふふふ。はて、何故ですか?


「横暴過ぎる展開に、無茶苦茶な〆をごり押ししておいて、まだすっとぼけるのか? タイトルの横のカッコに入る言葉は、地の文の陰謀、だろ」


 嫌ですねぇ。こんなに一生懸命めでたしめでたしを連れてきた地の文に、そんな言いがかりするなんて。

 桃太郎さん、あんまりですぅ。


「ぶりっ子しても気持ち悪いだけだわ」


 ふふふふ。

 面白ければ、何でもいいんですよ。


「ジョーダンキツイワー。つか、え? マジでこれで終わり?!」


 はい♪ めでたしめでたし♪


「うわあ……」

 

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