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はじまりはじまり

 

 むかーしむかし、あるところにおじいさんとおばさんがおりました。


「おい」


 おじいさんは山に(しば)刈りに、おばさんは川に洗濯に行きました。


「おい、ったらおい!」


 ちょ、なんですか。今、これから桃を川に流すところですから、桃の中で大人しくしててくださいよ。主人公サン?


「はあ? お前誰にもの言ってんだコラ。ニンゲンが桃の中に入れると思ってるわけ? バカか?」


 フッと鼻で笑いやがるこのくそがき。ほんと可愛くない。


 バカはどっちでしょう。川上から桃が流れないと桃太郎が始まらないので、さっさと流れて下さいやがれ。

 というか、生まれたての赤子の姿でその暴言、全国の良い子のみんなが泣くので止めてください。すぐに口を閉じてください。Hey! お口チャック!


「ケッ。地の文がこっちに干渉してくんなバーカ」


 チッ……すっぽんぽんのくせに。


「何か言ったか?」


 気のせいです。


「だいたいさー、あるところってどんなとこよ? 情景描写しろや、駄地の文」


 あるところはあるとろ。別にどこの川から始まってもでもいいんですよ。

 富士川だろうが利根川だろうがドナウ川だろうがミシシッピ川だろうが、川は川です。おじいさんはおじいさん、おばあさんはおばあさんです。推定四十五才です。


「それ、四十代に失礼だろ」


 昔の話です。


「適当な事ばっかいいやがる」


 気にしません。進まないので先に行きます。


「おい、コラ。少しは気にしろ」


 あなたとは違うんです。


「それ、方々からクレームくるやつ」


 はい、川でおばあさんが行水してたら、なんと川上から、大きな桃の浮き輪に抱きついた赤ん坊が流れてきました。

 はい、流れて流れてー。


「意味わからん」


 存じません。

 貴様は水に流される運命なのです。


「浮き輪に子供乗せて川に流す親の気が知れない」


 どんまい。

 作者不詳なので、詳しいことは問い詰められません。


「んなこと誰も聞こうなんて思ってねぇわ!」


 おばあさんは慌ててバタフライで赤子を救出致しました。

 おばあさんは昔、マーメイドジャパンの一人でした。


「は? 時代おかしいだろ」


 おばあさんはびっくり仰天。


「おいコラ、無視すんな」

「おやまあ、なんて事でしょう。赤子が川を流れてくるなんて!」

「いや、あんたも進めるなよ?!」


 赤ん坊が口悪く喋るってアメリカの映画じゃないんですから、そろそろ諦めてください。


 釈然としない膨れっ面の赤ん坊に、おばあさんは微笑みました。


「きっとこれは、仏様のお召しぼしに違いないのお」

「いや、ありえんわ」


 子供が出来なかったおばあさんは、某国の軍隊のように行進しながら、大事に大事に連れて帰る事にしました。


「一歩間違えばひとさらい……つか、何でばあさんはおかしさに気がつかない?」


 おばあさんは難聴でした。


「今設定足すのやめろ。最低か」


 (さて)



 おばあさんがおじいさんに赤子の事を報告すると、おじいさんは大層喜びました。


「よっしゃあ! これでワシもイン◯タでべぇゆ(デビュー)じゃあああっ!」


 早速買い換えたばかりのケータイで、おばあさんと赤子をばしばし撮ります。せっせと投稿してにまにましました。


「ここに世界観とかねぇのか」


 お留守のようです。


「このまえ花咲(はなさか)のじじいが『庭に灰撒いたら花が咲いたwwww』って自慢ばかりしおって、ほんにうざかったわ」

「まあ、おじいさん。羨ましいからってそんな事言いなさんな」

「そうさな、これでワシも……若いぎゃるたちに……くふっふふふっ」


 おじいさんが不気味な笑い方している間も、おばあさんはにこにこしたまま「そうだ」 と手を打ちました。


「ばばあほんとに難聴かよ」

「この子は桃から生まれたから桃太郎と名付けましょう!」

「いや、桃の浮き輪に乗ってただろうが」

「おお! それはいい! では、はっしゅたぐ桃太、郎……っと」

「いや、誰か突っ込め?!」


 (さて)(あるいは閑話休題)。


「受け流しやがったなこの駄地文」


 おじいさんとおばあさんに大層可愛がりれた桃太郎は、すくすくと育ちました。

 成長過程は、おじいさんの写真集にあるので割愛します。◯ンスタは桃太郎の写真で大層盛り上がったそうです。


「面倒だからってはしょるなよ! アホが!」


 はて。(さて)


「すっとぼけやがったな」


 七日後には桃太郎は、すっかり大きくなりました。もう立派な口の悪い青年です。

 すると、桃太郎の戦闘本能が目覚めます。


 おじいさん、おばあさん。今まで育ててくれてありがとう。けどオラ、強い奴と戦いてぇんだ。裏武◯殺陣に出ようと思う!


「ひとっっっことも言ってねぇ!」


 わくわくすっぞ。


「黙れ!」


 おばあさんは桃太郎の告白に驚きながらも、少し、困ったように笑いました。


「そうかえ。いつか、こんな日が来るのではないかと思っておった」

「ばあさんまで……」

「おらも悲しい。けど、お前様は特別じゃもの。きっと誰も成し得なかった事を成してくれると、信じておるよ」


 海賊王に――――


「それも違うわボケ!」


 おじいさんも、感慨無量で頷きます。


「ならばワシも、ちと腕を奮うかの」


 おじいさんは腕をぐるぐる回すと、昔とった杵柄で、刀を打ち始めました。

 あ、裏武闘◯陣って、刃物セーフでしたっけ?


「知らねぇよ!」

「ならおらは、お前様のために、おやつのきびだんごを作りましょう」


 ピクニックですね。すてき。


 ところで、きびだんごってこの当時おやつなんですかね? 非常食?

 あと、きびってどんな味の穀物なのか、興味あります。どこで食べられます?


「知るかよ!」


 つかえないなーこの桃太郎。


「あ゛?」


 そうして、おじいさんは立派な刀を、おばあさんはおやつのきびだんごを持たせてくれました。


「オレはどこに行くとも何も言ってねぇぞ」


 さあ、鬼退治に出発です!


「無理くりすぎる」

「桃太郎ばんざーい!」

「ばんざーい!」


 おじいさんとおばあさんに見送られて、桃太郎は仕方なく旅に出ることにしました。


 段々と小さくなる桃太郎の背中を、おじいさんとおばあさんはいつまでも見送ります。

 不意に、おばあさんは涙を溢しました。


「どうか、どうか。無事に帰ってけろ」


 けろっ。









 けろりん。


「いい加減黙ってろ」


 致しかねます。








  

次回、桃太郎! (BGM:ドレミファだいじょーぶ)


サブタイトル

 『はじめてのおつかい!』



あなたが落としたのは、キジ鍋ですか? サルの手ですか?

そ れ と も…………?



桃太郎に迫る、謎の美女!

湖に引きずり込もうとする魔の手から、果たして桃太郎は逃げられるのか?!


どうする、オレ! どーする?! 桃太郎!


つ づ く!




「うぜぇ」

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