思惑
古惚けた教会にあるただ一つの応接間に、黒ずんだ鎧の騎士を通す。少し身を屈めて部屋に入った彼は、椅子に腰かけることもなく堂々と直立していた。ただこの部屋自体天井が高いわけではなく、今にもその兜が、木製の天井板に擦れそうに見える。
しかし、彼に座られると椅子の方も崩れそうな気がしたので、席に着くことを勧めることもできず、仕方なく私だけ腰を下ろした。
ほんの僅かな間、沈黙が部屋に降りる。この部屋唯一の、今にも嵌めこんだガラスが割れてしまいそうな窓から差し込む夕暮れの日差しが、小さなテーブルを橙色に染めていた。
どう切り出すべきか、逡巡する。
私には、もちろん目的があって、彼をここまで案内した。彼の如何にも騎士風な風貌から、恩を売っておけばゆっくり話せる場を設けられるだろうという考えで、賭けに近い形であの二人を少し無理をして国に入れたのだ。結果、その賭けには成功したのだが、相手はそんなことは知る由もなく、純粋に礼を言いに来ている。
あまり適当な事を口走っては、最初から下心があって近づいたと知れて、算段が崩れてしまう。私の知る騎士というものは、精神的な潔癖主義者に近い者ばかりだ。下手なやり取りでは、折角手に入りかけた便利な駒を失ってしまう上、軍部の者達に付け入る隙を見せただけになってしまう。
一番好ましいのは、彼が人情に厚く、恩返しと称して手を貸してくれることなのだが。
そこまで考えたところで、不意に騎士が口を開く。
「私の目的は……」
そこで思わず、私もぽろりと言葉を零してしまった。
「あ、言葉を話せたのですね」
「………当たり前です」
兜に隠れていても、眉間に皺を寄せたことが分かるような口調で返され、少し恥ずかしくなる。
一つ小さな咳ばらいをした彼は、その鎧に包まれた腕を組んで先を続けた。
「私の目的は、連れの少年を強く育てることです。その為に、できるだけ血生臭い戦場を探しています。それもただ血が多く流れるだけでなく、人の闇をぶちまけた、凄惨な場所という意味で」
突然何を言いだすのかと口を噤んだ私の前で、黒ずんだ鎧の騎士はゆっくりと、その鎧の汚れをこすり落として見せる。
バラバラと剥がれ落ちる、黒い煤けた汚れの奥に見えた鎧は、澄んだ白銀の輝きを纏っていた。ただ白いだけでなく、その鎧は強烈な魔力の加護を帯び、それ自体が極僅かに発光している。
白の国の騎士に与えられる、鎧。
それも、相当に高位な部類に入るものだ。
「私がまだ、騎士だった時の感覚が訴えてきます。ここはいま、人の悪意が、闇が渦巻く戦場になりつつあると。私はそれを、連れに経験させるためなら、貴方に手を貸す事も惜しまない」
最早彼自身に、騎士としての潔癖さはないのかもしれない。
そしてそれはあまりにも、私にとって好都合すぎた。
思っていた形とは少し違ったとは言え、こうして協力者を――それも、白の国という、この黒の国とは正反対に属していた騎士を仲間に引き込んだことはあまりに大きい。
私は一つ小さく頷き、手を差し出す。
彼の大きな手と握手を交わして、これからの話に入ろうという時だった。
こん、こん、というノックの音がする。
部屋に入ってきたお付きの修道士から、国王気取りのループトンから、書簡が届いたことが知らされた。
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