表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕が見た日本  作者: 森 神奈


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/5

第4話「倒れた日」

 朝。


 鳥の声で目が覚めた。


 窓の外は、やわらかい光で満ちていた。


 昨日泊めてくれた家の台所から、いい匂いがする。


「起きたかい?」


 おばあさんが笑った。


「朝ごはんできてるよ。」


 食卓には、味噌汁とご飯と卵焼きが並んでいた。


 普通の朝ごはん。


 でも、すごく温かい。


「今日も旅かい?」


「はい。」


 僕はうなずいた。


 おばあさんは小さな包みを差し出した。


「弁当。」


「また?」


「旅人には持たせるもんだよ。」


 僕は少し笑った。


「ありがとうございます。」


 家を出るとき、おじいさんが言った。


「日本は広い。」


 それは、前に聞いた言葉と同じだった。


「いろんな人がいる。」


 そして少しだけ笑って言った。


「いいもん見ろよ。」


 僕はまた歩き始めた。


 山の道。


 静かな風景。


 空はすごく青かった。


 しばらく歩いていると、急に体が重くなった。


 息が苦しい。


「……あれ。」


 足がふらつく。


 視界が少し暗くなる。


 僕は近くのベンチに座った。


 心臓が速く打っている。


 頭がぼんやりする。


 そのとき、やっと思い出した。


 僕は病気なんだ。


 旅をしていると、忘れていた。


 普通の人みたいに歩いて、食べて、笑って。


 でも、本当は――


 もうすぐ死ぬ体だった。


 立ち上がろうとした。


 でも、体が動かなかった。


 そのまま、地面に倒れた。


 空だけが見える。


 青い空。


 すごくきれいだった。


 僕は思った。


 ここで終わるのかな。


「大丈夫!?」


 誰かの声が聞こえた。


 足音。


 慌てた声。


 遠くでサイレンが鳴った気がした。


 でも、もうよく分からなかった。


 次に目を開けたとき、天井があった。


 白い天井。


 病院だった。


 ベッドの横に、おじいさんとおばあさんがいた。


「起きた!」


 おばあさんが泣きそうな顔をした。


「心配したよ……」


 僕は少し驚いた。


「どうして……」


 おじいさんが言った。


「町の人が見つけた。」


 そして続けた。


「旅人が倒れたって聞いてな。」


 しばらく沈黙があった。


 僕は小さく言った。


「……すみません。」


 おばあさんは首を振った。


「謝らなくていい。」


 そして優しく言った。


「つらかったね。」


 僕は初めて、少しだけ怖くなった。


 旅は楽しかった。


 いろんな人に会えた。


 でも、今は分かる。


 僕の時間は、本当に少ない。


 窓の外を見る。


 夕日が沈んでいた。


 赤い空。


 きれいだった。


 僕は思った。


 まだ、日本を見たい。


 もっと。


 もう少しだけ。


 この旅の終わりが、近づいている。


 でも、まだ終わりじゃない。


 僕はもう一度、旅に出る。


 そしてきっと――


 最後に、何かを見る気がする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ