トーナメント戦2戦目 蠢動
「ほっほー、どうした、祐人。もっと本腰を入れてこい」
「この色ボケジジイ! とっとと家に帰れよ! はっ!」
祐人は倚白の切っ先を纏蔵に向け、その刀の峰に左手を添えると、纏蔵に神速の突きを繰り出す。纏蔵は木刀の平でこれを弾き、互いの剣が顔面のすぐ横をかすめ、祐人と纏蔵は額がつきそうなほどの至近でぶつかる。
互いの仙氣も押しあい、周囲の空間が圧縮されたように歪んだ。
「なんじゃ、祐人、この程度か? これでは堂杜の霊廟が泣くわ。霊剣の術が使えなくとも、その剣技のすべてはお前に授けておるのだぞ?」
「爺ちゃん……どうしても帰らないつもりか?」
「当然じゃ! 儂はJK妻から“はい、あーん”をして貰うためにここに来たのじゃぞ!」
「ブッ、このアホジジイ……は。一体、誰に聞いたんだよ、この大祭のこと」
「それは内緒じゃ。内密にと言われておるでな。大体、お前だって参加しておるではないか、それで儂の参加を咎めるのはおかしいぞい」
「年齢を偽ってる奴が何を言ってんだよ! それに僕は朱音さんに依頼を受けて参加してるの! 怪しい奴が参加していないか見張るために! 婿に入るつもりで参加したわけじゃない!」
「朱音? ほっほー、そういうことか、あの巫女にの。では、そちらに行くがよいぞ、その怪しい奴らなら、いたではないか、沢山。気づいてないのか? お前。この大祭はわしに任せて、お前は早くその怪しい奴らのところへ、はよ行け、ほれはよ」
「お前が! 一番! 怪しいわぁ!! 行くぞぉ、爺ちゃん!」
「む!」
「ハアーー! 霊剣技!」
祐人は倚白を引くと、右手で上段、中段に2連の刺突を繰り出し2連目の刺突の引きざまに、倚白を両手に持つと流れるように左足を踏み込みつつ下段から振り上げ、さらに右足を踏み込み上段から振り下ろした。
迎える纏蔵は僅かに下がり、祐人の不可視の突きを木刀の先で突き返し軌道を変えると、右脚、左脚を交互に軸に変えて半円を描きながら後退しつつ、祐人の閃撃に合わせて打ち返す。
祐人の突きの軌道上にあった纏蔵背後の岩に二つの穴が通り、祐人の剣圧で纏蔵の後ろ両脇に立っていた木の幹が寸断された。
「二突連鎖二閃か、良い動きじゃ、祐人!」
「まだまだぁ!」
祐人は倚白を両手に持ち纏蔵に肉迫し、袈裟斬りを繰り出すと、倚白を右手、左手と変幻自在に持ち替えつつ、身体には回転を加え、まるで舞を踊るような息をもつかさぬ超連撃を纏蔵に叩き込む。
それに対し、纏蔵は祐人と同じく舞を踊るように右手、左手に木刀を持ち替えつつ、自身の周囲に木刀のカーテンを広げるように操り移動していった。
「はああああ!」
「むううう!」
祐人はまだ止まらない。纏蔵も同じく止まらない。
二人の美しくも危うい舞は周囲に風の刃を作り出し、不幸にもそのレンジに入ってしまったものはすべて、1ミリ単位で切り刻まれていった。
この時、祐人の連撃を受けているはずの纏蔵はマスクの下で笑みを浮かべていた。
(よいぞ、よいぞ、祐人。よくぞ、ここまで練り上げた。霊力が使えぬために堂杜の奥義までは届かぬがの……む!?)
瞬間、祐人の切っ先が予想と反した軌道をとった。それは結果として纏蔵のマスクにかすり、マスクの右頭部から纏蔵の白髪が姿を見せる。
(なんと! 今のは!? こやつ仙闘技と霊剣技を……!?)
だが、その後はすべてを躱し続ける纏蔵。
そして、いつまでも続くかと思われた祐人の死の舞が止まる。
「どうだ、爺ちゃん! あきらめて帰る気になったか!」
「ふん! その程度で息を荒げるな、未熟者が」
「やっぱり、正面からだと爺ちゃんを倒すのは不可能かあ」
「お? ようやく分かったか……不肖の孫よ。ではの、お前が降参せい。儂はこの大祭で幸せになるからの、ほっほっほーー」
“ピピピピ!”
すると、祐人たちから離れた場所からの電子音がなった。
纏蔵は何じゃ? と首を傾げる。
「ふふふ、僕が爺ちゃんを相手に何にも策を講じてないとでも思った?」
祐人は振り返ると、背後にある岩の後ろの下の辺りに手を突っ込むと……携帯電話を取り出した。
「なんじゃ、お前、そんなところに携帯電話を隠して……言われてみれば、妙に前に出てきたのう、それを傷つけないためか」
「そう! そして! これは道場に向かった茉莉ちゃんたちからの連絡だ」
「……?」
祐人は意地の悪い顔でニヤリと笑い、纏蔵は訝し気な顔をする。
「爺ちゃん……僕は知っているんだよ? 爺ちゃんが命より大事にしているコレクションのありかを」
「!? お、お前……まさか」
「そのまさかだよ! あの台所の床の下にある、いかがわしいコレクションは今、僕の手に落ちたんだ! この意味が分かるよね? 爺ちゃん」
「なななな、祐人! あああ、あれは儂がコツコツと血のにじむような努力で集めたのじゃぞ! 老人のささやかな楽しみを奪う気か!」
「……もう遅い、ジジイ! 降参しろ! さもなくば、あの写真集、及び変な店のサービス券、連絡先の入った大量の名刺! それと口にできないもん! すべて焼き捨てる!」
「馬鹿ものぉぉ! あれは儂の若さの秘密なのじゃ! いや、そうじゃ! お、おまえ茉莉ちゃんはまずい! まずいのじゃ!」
「……は? 茉莉ちゃん? 何で?」
「……そ、それはの、そのー」
「なんだか分からないけど、早く言え! そうだ、降参しろ! 降参すれば一悟に言ってそのままにしてやる!」
「……ぐぐ、しかし……JK妻が……はい、あーん、が……」
「電話するぞ」
「わ、分かった! 降参するのじゃ! だから、早く茉莉ちゃんを止めてくれ! あそこには隠し撮りの……」
「……は? 隠し……撮り? あんた……まさか」
自分の祖父の所業が何となく伝わってきた祐人は顔を青ざめさせる。
ピピピピ!
そこに電子音が再び鳴った。
発信者は白澤茉莉と画面に映し出されている。
「「……」」
携帯電話を恐ろし気に見つめる堂杜家の二人。
まさか祐人も纏蔵のコレクションが、ここまでの大惨事になる可能性を秘めているとは思わなかった。
だが、この着信を無視するわけにはいかない。
祐人はゴクリと息を飲み……意を決して携帯に出る。
目の前で涙目に震える憐れな老人がいる。マスク付きだが。
「あ……もしもし、茉莉ちゃん」
“祐人! 大変なの!”
「ま、茉莉ちゃん落ち着いて! 僕はその存在を知らなかったから! 全部、うちのジジイ単独の犯行で……」
“何を言っているのよ! そうじゃないの! 今、ガストンさんから連絡があって!”
「!? ガストンから!? なんで茉莉ちゃんに!?」
祐人は茉莉からガストンから受けた伝言を聞いていくと、表情を硬化させていく。
「……ジュリアン・ナイトなんて人物は……存在しない!?」
この直後、第2試合会場から凄まじい衝撃波が、参加者であろう人物の断末魔の声をかき消しつつ、祐人たちのもとまで吹き荒れた。




