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「よし、じゃあ早速向かおうかしら」
ひょいっと、ユイセが馬に跨った。
軽々した慣れた所作だった。
「すみません、僕も乗らせていただけるんですよね……」
「え? そのつもりだったけど?」
「あざす!」
俺もひょいっと馬に跨った。
ユイセの前に、ユイセと対面するようにだ。
「何してんのよ!」
「間違えたんだ」
俺は一度降り、今度はちゃんとユイセの後ろ側に跨った。
「じゃあ出発するわよ」
「お願いします」
ヒヒぃイイインっ!!
ユイセがムチを打つと、馬がいななき、前に進みだした。
平原を、なかなかのスピードで馬が駆けていく。
改めて乗るとかなり爽快だな。
風が気持ちいぜ。
俺に乗馬の技術なんて一ミリもないけど、いつかは乗りこなせるようになりたいな。なんかかっこいいし。
「目的地までどのくらいかかんの?」
俺はもうすっかりタクシーに乗ったお客さん気分でユイセに問いかける。
ゴブリンのいる場所とかに関してはもう完全に丸投げだからな。いやー、自分で探さなくても勝手に連れて行ってくれるのマジで楽ちんだわ。さいこー。
「キラメキの森の浅い層にいるって話だから、三十分くらいかな」
「結構掛かるんだな」
「相当早い方よ。徒歩なら三時間は視野にいれないといけない距離なんだから」
それなら相当短縮できてる方なのか。
俺が飛んでけばたぶんそれより早いんだろうけど、むやみに人前で見せるのもややこしくなりそうだしな。
「うーん」
俺は至近距離にあるユイセの背中を見て若干妙な気持ちになってくる。
いや、女の子にこんなにも接近できる機会ってそうそうないしな。腰に手を回してるけど何も言われないし、てかお腹周り凄いスッキリしてるな。それでいて柔らかな感触が返ってきそうな感覚……他の女の子もこんな感じなのかな。
「ぎゅっ」
俺はなんとなくユイセの脇腹をガシッと掴んでみた。
「ひっ!?」
ユイセがびくんとなり、ひひいいんと馬を急停止させた。うお! あぶねっ、落ちるとこだった。
「何してんのバカ! くすぐったいじゃない!」
「いや、ごめん、つい出来心で……」
「今度やったらホントに蹴落とすから」
「すみませんでした……」
馬を操縦する人の脇腹は、思いっきり掴むものじゃないという教訓を得た。
「あそこが森ね」
道中特に何事もなく走り抜き、目的の森と思われる場所までやってきた。
完全に任せっきりなので、俺にはここがどこなのか全くわからない。少なくとも、俺が最初に転生させられた方角ではないことは言える。
「さっそく突撃するのか?」
「いや、とりあえず近くに村があるからそこに寄ろうかな。馬も預けたいしね。ココット村って言うんだけど、いい村よ」
いい村ってなんだよと思いながらも、特に逆らう理由もないので大人しく従うことにする。
少し馬を走らせたところで、それっぽい場所に着いた。
高い木の柵に囲まれていて、上には見張り台も建っている。
てっきり縄文時代のような風景を想像していたが、それよりは大分立派な集落に見える。
「止まれ!」
馬を降り近づいていくと、扉が開き、一人の男に呼び止められる。
ボロい服装に、槍を持っていた。
「なんの用だ?」
「近くにゴブリンの集落があるらしいから、その討伐に。その辺の情報とか、後は馬を預かってて欲しいの。村長さんはいる? ユイセって言えば分かると思うんですけど」
「分かった。少し待ってろ」
慣れた様子でユイセが伝えると、男は奥に引っ込んでいった。
へーすげぇ。
五分ほど待ち、先程の男が戻ってきた。
「許可が出た。中に入れ」
「ありがとうございます」
俺達は村の中に入ることができた。
村の中は、木製の一階建ての建造物が沢山並んでいた。
活気に満ちてるとまでは言わないが、ポツポツと何かの作業をしている村人の姿が目に映る。
それらの様子を尻目にさっきの男に案内され、歩を進めていく。
なんかちょっと視線を感じる……やだなぁ。
しばらく歩くと、前方に俺達を待ち構える影がった。
「おお、ユイセじゃないか!」
大柄の男がいた。
かなりデカい。身長二メートルくらいはあるんじゃないか? 凄いガッチリしていて、ザ・筋肉って感じの男だ。
「村長さん……! お久しぶりです」
「ゴブリンを討伐してくれると聞いたが。まぁまぁとりあえず中に入ってくれ」
そう言って、すぐ近くにあった、少し大きめのいい感じの建物に案内された。
中に入ると、立派で固そうな大きな机があり、そこに二人して座らされる。
座布団はなかったが、代わりに藁が編まれたようなのが使われていた。
うーん、思ったよりもフワフワしてる?
ちなみに馬は外で他の村人に預けていた。
「いやいや、本当に感謝するよ。まさかあんたが来てくれるとは思わなかった! この村があるのもお前さんらのおかげだからな!」
「いえ、それは言い過ぎですよ。それよりゴブリンに関してなんですが、何か情報とかはありませんか? この近くで群れをなしてるらしいんですが」
ユイセが単刀直入に切り出す。
その言葉を受け、それまでひょうきんな感じだった男の顔が急に真面目になった。おお、なんかあるのか。
「ああ、実はな……近くの川の近辺に巣を作ってるっつう噂がある」




