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「ふぅ、こんなもんか。何が牛乳なのかは全く分からなかったけど、こんなもんでいいだろ」
とにかく仕事は終わった。
首を切断されてしまった牛たちが、可哀想な感じで草原に横たわっている。
「これも弱肉強食だ、すまんな。あれ? でもどうやって討伐したことを証明するんだ? やべ、牛乳牛の討伐証明の部位聞き忘れちゃったよ、どうしよう」
魔物を討伐したことを証明するには、魔物ごとに特定の部位を剥ぎ取り納品する必要があるらしい。
「普通に考えて角とかだよな? もしかして尻尾とかある? どうしよどうしよ」
完全に困ってしまった。
「そうだ! もうまるごと持って帰ればいいんじゃないか? アイテムボックスみたいな感じで、無理かな?」
ものは試しだ。
「異空間に大きなカバンがあるのをイメージして……ってムズいな。まぁそこに牛をまるごとほーりこむイメージで!」
俺は無理があるかなと思いながらも、頑張って妄想を膨らませた。
牛の死骸に触れ、亜空間に収納するイメージを伝える。
しゅん。
牛の死骸は消えた。
おお! 成功した! やっぱ天才か俺。まぁあれかな、こういった空間系の魔法ってこの世界にもありそうだしな。そいつらも使えるんだから俺にだって使えるだろ。そういう理論でいこう。
俺の魔法にはできることとできないこととがある。
それは今まで使ってる中でなんとなく分かってきたことだ。
例えば今上空を飛んでる一羽の鳥。
あれを亜空間に収納しようとしてみると、無理だった。
それは生きているからなのか、触れていないからなのか。
その辺はよく分からない。
しかしなんとなく無理そうだというのは、どういうわけかどことなく理解できるのだ。
「まぁ俺の気の所為かもしれないけどな。でも天才肌の俺から言わせてみればこの感覚も割りと的外れじゃ無い気がするんだよな。俺だからこそ感じ取れるパッションというか。天才ってのも怖いものだ」
俺は一旦全ての牛たちを頭部を含め亜空間に収納し、その場を後にした。
帰ろ帰ろ。
城門に帰り着いたころには、夕暮れ時になっていた。
「はぁ、意外と時間掛かったな。でも俺じゃなかったら確実に夜更けになってるだろ。やっぱり朝から出立するに限るのかな」
思わずひとりごちながら、城門の詰め所に寄る。
この時間帯は帰る人も多いのか、結構な行列ができていた。
まぁ十組くらい?
「大人しく並ぶか」
流石にむちゃする気分でもなかったので、ぼうっと並んで待つとする。
お、俺の後ろにも誰か並んだな。これで一番後ろじゃないという安心感を得ることができた。ありがたや。
「ねぇ、君。この街の人?」
と思ったら、そいつに唐突に話しかけられた。
振り返ってみると、同い年くらいの少年だった。
「え、まぁはい。一応そうですね」
「ああ、そうだったんですね。いや、いきなりすみません。暇だったもので」
なんだよ、話し相手が欲しかっただけかよ。まぁいいけど俺も暇だし。
「でもなんか凄くやりそうな雰囲気ありますよね? 落ち着いてる感じといいますか。まぁ一言で言うと凄く強そうです」
「え? そうですかね」
落ち着いてるなんて初めて言われたな。まぁ魔法で大抵どうにかできちゃうからな。そのへんの自信が滲み出てたりするのな、知らないけど。
「何の職業されてるんですか?」
「一応冒険者です」
「ええすごい! 実は僕の友達も冒険者やってるんですけどね。全然ランク試験に受かんないーって毎日ぼやいてるんですよ――」
すごーーーくどうでもいい話を聞き流しながら、順番を待つことにする。
まぁ順番は割りとすぐ呼ばれはしたが、最低限の暇つぶしにはなったかな。
「またどこかでー!」
手を振る少年を見送りながら、俺も帰路に付く。
はぁ、とりあえずギルドに行って、そこで依頼の報告か。
いきなり牛をドバっと出したりしたら怒られるかな。
それより先に驚かれるか?
ギルドに解体場みたいなのあるのかな。というか魔物の素材とかって売れたりするのだろうか。俺全然解体とか分かんないから誰かに頼まないといけなくなるけど、そんな人いるのかな。金で雇わないといけないのか? はぁ、まだまだ分かんないことだらけだな。まぁなんとかなるだろ。
にわかに賑わう異世界の街並みを進みながら、程なくしてギルドに辿り着く。
流石にギルドまでの道は覚えつつあった。
「たのもう!」
ギルドの戸を開け、中へと入る。
何人かに振り向かれたが、特に何か言われることはなかった。
「やべー、意外と人多いな……というかめちゃくちゃ多いな。すげー並んでるよカウンター。この時間は混むんだな」
城門でも並んでいたからある程度予想は付いていたが、こんなにも多いとは。昼のギルドとは大違いだな。ガヤガヤガヤうるさいぜ。
「どうしようかな。とりあえず牛乳牛の証明部位を知りたいんだけど……解体してもらうところってあるのか?」
普通に受付にいけばいいのか、解体するところがあってそこにいけばいいのか、全然分からない。
「こういう時は誰かに聞くに限る」
さっきの少年を見習おう。
案外話しかけられる方はなんとも思わないものだ。
勇気を出して誰かに話しかけようとするが、誰がいいだろう。
まぁ沢山いるから話しかけ放題なんだけど、できれば一人でいる人の方がいいよな。流石に酒で盛り上がってる席に突撃する勇気はない。
「おっ、あの依頼ボードの前にいる人とかどうだ」
一人でぼうっと依頼を眺めてる男の冒険者がいた。
ほっそりしていて、歳も俺と近そうだ。あの人にしよう。




