第67話 「殴り込み」
「出て来いジーナ! ぶっ殺してやる!」
私はアラムのいる工房に赴き、ドアを思いっきり蹴破ってやった。
粉々に吹き飛んだドアの破片が中の生徒に当り傷ついたようだが、そんなことはどうでもいい。
「ど、どうしたんだいセウル? そんなに荒れて、何かあったのかい?」
工房にはアラムがいて、私の行動を怒るよりも前に、戸惑いの声を上げた。
こいつには用はない私は、無視して工房内を見渡す。
「……いないわね。ライム、ジーナの寮はわかる?」
「ええ、存じていますわ。ほかにも行きそうな場所に心当たりが少し」
「そう、じゃそこに連れて行きなさい」
「もちろんですわ」
私はライムを先頭に、この工房から立ち去ろうとする。
そんな私の行動に驚きを見せていたアラムだったが、ジーナの名前に反応し、私を呼び止める。
「セウル、まずは何があったか話してほしい。ジーナに何の用かな?」
「……あんたには関係ない」
こいつは強い。真っ向から戦って負けるつもりはないけど、この国の序列1位の男だ。本気でやりあえば、ただでは済まない。
それに私の用件はこいつの仲間、事情があるにしても一方的な虐殺は良しとしないだろう。
「関係ないはずないだろ? 君の殺気、悍ましいよ」
「悍ましくて結構。私はね、人生で一番ムカついてるのよ」
「ムカついてるって……ライム君、君もかい?」
「ええ、今すぐにジーナさんを嬲り殺したいですわ」
「嬲り殺しって……ジーナは高飛車だけど、そんなに悪い子じゃない。何か誤解があったんじゃ……っ!」
アラムの顔のすぐ横に、私は魔力弾を放つ。
それは人一人殺すことも容易なほどの威力を込めた物だ。
「あの女が悪い子じゃない? 次言ってみなさい。当てるわよ」
周りの学生たちは怯え震えている。中には足を震わせ、立つことすらも困難な様子だ。
しかし私の攻撃を目の前にした当のアラムは顔色一つ変えない。
それどころか一歩踏み出してきた。
「君がそんなに怒るってことは相当なことがあったって想像はできる。けど、今の君ははっきり言って正常じゃない。ゆっくり話し合おう」
「私は正常、だから結構よ」
「いいや行かせない。君はジーナをどうするつもりだい?」
「報復よ」
「報復って……いったい彼女は君に何をしたんだい? 何か不快にさせたなら僕の方から謝る。だから怒りを鎮めて……」
「うっさいわね! あんたには関係ないのよ! すっこんでろ!」
アラムに取り合わずに私は構わず工房を出ようとする。しかし後ろで、怒る私の足を止めるほどの、膨大な魔力が発生した。
見なくてもわかる。アラムが戦闘態勢に入った。
「何があったか言うんだ。さもないと僕は、君を傷つけなくてはいけない」
アラムの凄みがどんどん増していく。
序列1位、その本気は私でさえ厄介と思うほどだ。
「セウルさん、別に事情を話してしまってもいいのでは? こちらには一切の非がないのですし」
「……くそが」
誰にも聞こえないほどのつぶやき。
できれば私は、何も言いたくはなかった。
話されたことでユイは別に何とも思わないかもしれないけど、私だったらいじめられて人が怖くて失神までしたなんて、死んでも知られたくない。
自分がされて嫌なことなんて人にはしたくないけど……しなければ、ここでアラムと殺しあうことになる。
アラムはいい奴、それはわかっている。それにユイとも良好な関係を築ける可能性が高い。
あの怯えたユイを慰めうる人間は、できる限り大事にしておきたい。
「あんたが話しなさい」
ライムに促し、私は工房の壁によりかかる。
「わかりましたわ。アラムさんジーナさんは……」
「ただいま戻りました、アラム様」
話をしようとしたライムの言葉を遮り、部屋に入ってきた女が5人。
私が見たユイの記憶と一致する、殺意の対象が目の前にのこのことやってきた。
「いけない! 逃げるんだ!」
私の殺気に気づいたアラムが止めに入ろうとするが、もう遅い。
ジーナの頭をつかみ、床に思いっきりたたきつける
「ガボッ!」
妙な言葉を発したジーナは地面に倒れ伏し、頭から血を流しだした。
ジーナはその場で固まり、動かなくなる。
「セウルさん、殺したんですの?」
「んなわけないでしょ。死なない程度には手加減したわ」
「な、なんてことを……セウル!」
血を流すジーナを見て叫ぶアラム。
普段温厚な彼からすれば珍しいほどの怒りを見せ、今にも襲い掛かる雰囲気だ。
私も身構え戦おうとする。
しかしライムが、
「ユミちゃん、覚えていらっしゃいますわね?」
「なにを……今そのことは関係ない!」
「それが関係あるんですわよね。そこで寝転がっているジーナさん、それと後ろの4人、彼女をボコボコにシバキまわしてくれやがったんですのよ」
「……え?」
アラムの気が緩んだのか、怒りが緩和し戸惑いの表情を見せた。
しかし体に張り巡らされた魔力はそのままで、臨戦態勢は整っている。
不意打ちで失神させることは不可能か。
「アラム、こいつらにはユミをいじめた報復をするわ。あの子の痛みを、思い知らせてやる」
「ひっ……!」
4人の学生は怯えた声を漏らし、後ずさる。
その動きはのろく、恐怖で思考も行動もおぼつかない様子だ。
「ま、待て……待ってくれセウル! 本当に、みんながユミちゃんを?」
「そう言ってんでしょ。そのせいであの子は、深く傷ついたのよ。これでもあんたは私を止めるの?」
「それ……は、いやでも……」
意中の女を自身の仲間が傷つけたと動揺するアラムは必死に頭を働かせていることだろう。
どのようにすることがこの場での最善か。
どうすればすべてが丸く収まるのかを。
そんな思考は無意味だ。だって私は、こいつらを完膚なきまでに叩きなめさないと気が済まない。
そしてそれをアラムは許さないのだから。
「じれったいですわね。セウルさん、すぐにここから出ますので、用意を」
「ライム君、少しだけ待ってくれ。今、どうすべきかを考えるから、少しだけ……!」
「却下ですわ。てことで、えいっ!」
掛け声とともに、ライムは何かを地面にたたきつけた。
それは丸い球の様で、私の目では何なのか判断することはできなかった。
けど、ライムはバカだが頭の良さは認めている。
それがこの場を脱するのに適したものだということはすぐに分かった。
「あんたらも来るのよ」
私は4人の学生に魔力をぶつけ、一瞬で失神させる。
そして瞬時に、この工房が煙で包まれた。
煙幕とか……この女、ユイと一緒にいるせいか、ズルくなったじゃない。
「行きますわよ!」
ライムが声を出したのと同時に、私は地面に倒れ伏す5人を魔力で覆い運び出す。
「ま、待ってくれ! 頼む、時間をくれ!」
叫ぶアラムを無視し、私とライムは5人のクズどもを連れてこの工房を立ち去り、屋敷へと戻っていく。




