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第60話 「脅しではなく交渉」

 僕は今、壮年男性の頭に魔力を込めた手のひらを向けている。

 正直に話さなければ危害を加えると、脅し文句を添えて。


「ま、待つんだユイ君、話をしよう。まずは話をだ」


「はい、もちろんお話はします。で、今作っているそれはなんですか?」


 ロイド先生の手の中に収まっている手のひらサイズの機械を見つめながら、僕は尋ねる。

 質問に対しロイド先生は、恐る恐る口を動かす。


「もちろん、性転換装置……」


「次に嘘をついたら殴ります。結構な力で」


 握りこぶしを作って再度ロイド先生に語り掛ける。


「……すいませんこれは記憶操作の装置です」


「なるほど。じゃあ次の質問です。どうして性転換装置を作ってないんですか?」


「ホントすいません。今から作るので許してくれないですか?」


「質問に答えてくれますか? どうして性転換装置を作らないで記憶操作なんて妙な装置を作っているんですか?」


「……依頼されたから」


「性転換の装置も依頼されたから作ったんですよね? なのにどうして壊れたものを修理してないんですか?」


「……依頼者が私と仲の良い……」


「言いましたよね? 嘘をついたら殴るって」


「いや待つんだユイ君、その魔力量はいけない。致命傷だ」


「で、理由は? 正直にお願いします」


「……飽きたから」


 その言葉を聞いた瞬間、僕の心の内から沸々と何かが沸き上がるような気がした。

 別に本当に殴るつもりなんて毛頭なかったけど、心変わりしそう。


「いやだって、壊れたとはいえちゃんと性転換できたわけで、あとは強度の問題だけなわけだから、理論的には完成していると分かっているものをまた一から作るっていうのは非常にめんどくさくてだな、それにあれはちゃんと作っても最低でも一週間以上はかかる代物だ。その時間があればもっといろんなものを作れるわけだし、それに何より、ユイ君がずっと女の子の体のままであっても体に害はなく、私にとってもどうでもいい……ああっ! やめて頭に手を置かないで! 怖いから! 握りつぶされる恐怖を感じているから!」


 ロイド先生の頭に置いてある手が、今にも全力の力を込めそうだ。

 初めて、人にここまで怒りを感じているかもしれない。

 と、そんな怒り心頭の僕を見ながら、ライムさんがつぶやく。


「ああ……今のユイ様をいじめたいと思っていましたけども、なんかいじめられたい衝動も湧いてきましたわ! 男性の時のユイ様よりも、なぜだかゾクゾクしますわ!」


 この人は無視だ。

 こういう時のライムさんは何を言っても無駄だし、相手にするだけ疲れるだけだ。


「今すぐその装置を作るのをやめて、性転換装置を作ってもらえますか? いえ、しますよね?」


「あ、いやまあ、その……作るよ? 作るは作る。でもちょっと待ってほしいというかなんというか……」


「歯切れが悪いですね。何か都合が悪いんですか?」


「お金がありません」


「お金が? 新しい装置を作るお金があるのにですか? 今作っているのはそんなに安上がりなんですか?」


「……正直に言えば、許す?」


「僕は結構温厚な人間だと思うんです」


「なら正直に言おう。私には二つの選択肢があった。今あるお金で性転換装置を作るか、別のものを作るか。予算的にどちらかしか作れない。けどどちらかを作れば依頼達成の報酬として多額の金貨が手に入る。だから優先順位としては私の好奇心を優先したというわけあだだだだだ! ユイ君力が入ってる!」


「ユイ様が本気で自分の意志で人を傷つけていますわ! ああでも、いつもみたいに少しお辛そうですわ! ユイ様って傷つける時に苦しそうにするから、いじめてる感覚といじめられてる感覚、2つが得られて一挙両得なんですわよね! クソ爺、羨ましいですわ!」


 ……傍らに狂った人がいると、逆に冷静になるという法則。

 ドン引きもドン引きなライムさんの言動を受け、力を緩める。


「冷静に話し合いましょう。いいですね?」


「うむ、話し合いが出来るということが人間の長所だ。冷静でいようか」


「まず、性転換装置を作るのに必要な金貨の枚数は?」


「27枚だ。ちなみに手元の金貨は5枚、この記憶操作装置が完成すれば依頼報酬で金貨が50枚手に入る」


 必要な金貨の枚数は22枚か。僕の手持ちを合わせても全然足りない。


「なら一つ質問です。この部屋にある先生が趣味で作った装置、売ってもいいですか?」


「ここの装置を? それはもちろん構わないが、価値的には1つにつき銀貨10枚にも満たないぞ? 安物の素材で作った物で、そんなものを売ったところで……」


「大丈夫です。許可がいただければそれで。それと、一つ約束してください。僕が金貨を必要枚数集めたら、どんなにめんどくさくても最優先で性転換装置を作るということを。ああもちろん念のため言っておきますが、これは脅しではなく交渉、お願いみたいなものです。ロイド先生、どうしますか?」


「もちろん最優先でやるとも。可愛い教え子のために私も尽力……」


「そういうのいいんで、今あるお金でできるだけでもいいんで、必要な機材を集めて作業に取り掛かってください」


「あ、はい。わかりました」


 最優先で性転換装置を作る約束を取り付けた僕は、工房内にある装置をいくつか手に取り、営業へと向かうのでした。

 

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