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第58話 「晒されるこの姿」

 女性服を身にまといつつの朝の仕事を終えた今後の僕の行動はと言えば、当然、魔道学園国家エクセルに赴くというものだ。

 別に授業に毎回でなければいけないとか、そういう真面目なことではない。

 問題があるのはただ一つ、ロイド先生がちゃんと性転換装置を作っているかどうかの確認だ。

 あの人は非常に自分勝手な人物、自分なりに危険がないと考えているとしても、実際には多少の危険が伴う実験を平気で行う、サイコな一面がある。

 そんな人が僕のために何かと作るという行為を真面目に執り行うとはどうしても思えない。

 一刻も早く男に戻りたい僕、ゆえにこんな姿であまり出歩きたくないが、こうして学園にまで赴いたのだ。

 

「失礼します」


 僕は一言発し、工房の中へと入る。

 しかし中には、散乱している装置の数々があるばかりで、ロイド先生の姿はどこにもなかった。

 まだ朝も早いし、来てないのかな?

 そう思いながらロイド先生の机を見てみると、


「あの人……」


 そこには作りかけと思しき何かが転がっていた。

 僕にはそれが何かなんて正確にはわからない。

 まだ何かを一から作るなんてこともしたことないし、魔力を用いた機械なんて理屈を完全に理解していないのだから。

 しかしこれだけはわかる。

 今作りかけているこの装置は、性転換装置などではない。

 形状があまりにも違いすぎている。

 ロイド先生は、すでに性転換装置を作っていない。


「……落ち着こう」


 自分でも珍しいと思うが、僕は今、非常にイライラしている。

 拳を握りすぎるあまり、うっすらと血が流れてしまうほどに。

 思わずこの装置を壊してしまいたくなる衝動をなんとか抑え込み、拳を開く。

 こうなればロイド先生を四六時中監視する必要があると、僕は工房内の椅子に腰かける。

 ロイド先生がこの工房に現れるのをいつまでもこの場で待とうと思い10分が経過したころ、足音が聞こえてきた。

 その音はこの工房の前で止まり、ドアノブに手をかける音も聞こえた。

 思ったより早かったな、と思っていると、予想とは違う騒々しい音が工房内に響き渡る。


「ユイ様、ここにいましたのね!」


 現れたのはロイド先生ではなく、ライムさんだった。


「まあ! まあまあまあ! ユイ様ったらなんて可愛らしいお姿をなさっているのかしら! 私、昇天!」


 天を仰ぎよくわからないことを宣うライムさんを無視し、ロイド先生の到着をじっと待とうとする。

 しかしそんな僕の腕を、ライムさんが急に掴んできた。


「さ、行きますわよユイ様」


「行くってどこに?」


「もちろん教室に決まっているじゃないですの。みなさんにユイ様の可愛い姿、見ていいただかなくては」


「嫌です絶対に行きません僕はここでロイド先生を待ちます教室へはあなた一人で行ってください」


 早口でまくし立ててライムさんの手を振り払う。

 この姿をクラスメイトに見られるなんて絶対に嫌だ。

 男性服を着ているのなら話は別だが、女性服を着ている姿を見られるなんて最悪すぎる恥辱だ。

 絶対に回避しなくてはいけない。

 ……しかし、そんな僕の決意はたやすく砕かれる。


「ユイ、こんなとこにいたのね。さっさとみんなにあなたの可愛い姿を見せるんだから、来なさい」


 お嬢様までもが僕を外に連れ出そうとやってきてしまった。

 ライムさんだけなら力づくで連れていかれようとしても何とか反抗できた。僕の方が強いし。

 けどお嬢様は、僕なんかよりよっぽど強い、雲の上のような存在だ。

 月とすっぽん、天と地の差が僕とお嬢様にはある。

 そんなお嬢様を敵に回して、僕に勝てる道理なんてない。


「どうしても……ですか?」


「早くする」


 淡々と述べるお嬢様が、悪魔に見えました。


     *


 お嬢様についていく選択をすれば、国中の晒し物になることが目に見えていた。

 だからこそ、こっちの方がまだマシだろうと思って、ライムさんと教室にまで赴いた。

 授業が始まっていたようで、キョウチ先生が教科書を読みながら説明をし、大半の生徒が右から左へ聞き流し、退屈そうな様子だった。

 そんな先生とクラスメイトの視線が、一気に僕に集中する。


「遅れましたわ、先生。申し訳ございません」


 ちっとも反省している気などないようにライムさんは自分の席へと座る。

 そしてじっと僕の方を見つめ、恥ずかしがる僕を楽しそうに眺めている。

 Mの人にこんないじめを受けるなんて、屈辱だ。


「あー、ライムはあとで折檻としてだ、君はこのクラスの生徒ではないな。早く自分の教室に戻れ」


 やはりというか当たり前というか、先生は僕の正体に気が付いていない。

 初見で今の僕がユイだと気付く人はいないだろう。

 そのことには若干の安心がある。


「その方でしたら、皆様も知っている、ユイ様……」


 軽々に口を滑らしそうになるライムさんを、僕は視線を送って制止する。

 ライムさんにしゃべらせるわけにはいかない。

 ここは、多少無茶な理屈であっても僕でないと思わせないといけない。


「すいません先生。ぼ……私、ユイ兄さんの妹のユミっていいます。今日は兄が体調不良でお休みするので、私が代わりに学園まで来たんです。非常識だとは思いましたけど、なにかあった時に兄に色々とお伝えできたらいいなって思って」


「ユイの……妹?」


 キョウチ先生はきょとんとした顔つきで僕を見つめている。


「やばいですわ尋常じゃない萌えですわニヤニヤが止まりませんわ」


 小声で呟きうつ伏せになっているライムさんは放っておいて、思考がショートしている先生に畳みかける。


「迷惑でなければここで一緒に授業をお受けしてもいいですか。もちろんお邪魔ならすぐに出ていきます。身内とはいえ部外者がここにいるのは少々おかしいですからね。ダメならダメと……」


「いや、別にここで授業を受けること自体は構わん。ユイの席はそこだ、座るといい」


 あわよくば出ていくように言ってもらうのが理想だったけど、しょうがないか。

 さっさと授業だけ受けて、後の自主練時間はこっそり逃げ出そう。

 息をひそめて隠れれば、お嬢様やライムさんの追尾を逃れることができるはずだ。


「ではみなさん、一緒に授業を受けさせてもらいますね。先生、授業のお邪魔をして申し訳ございませんでした。続けてください」


 そう言って、この姿が晒されている状態を一刻も早くどうにかしようと、急いで自分の席に座り、机の中に入れておいた教科書を開く。

 たくさんの視線が僕に突き刺さっていた気がするけど、気のせいだと無理やりに思い込んで、僕はじっと授業を聞いていた。

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