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第23話 「魔導学園国家」

 さて、編入試験当日となった。

 僕がこれから試験を受ける学園は、名を魔導学園国家、エクセル。

 そう、魔導学園国家(・・)だ。国家なのだ。

 比喩でも何でもなく、本当にこの学園が一つの国家として認められているということだ。


 人口約10万人、生徒5割、その他は教員、この国に店を構える経営者などで国は形成されている。

 国としては相当に小規模で、敷地面積は大阪府よりも小さい。

 それでもなお、世間に国として認められている異例の学園だ。

 そして序列下位の者を奴隷として扱う学園……。


「帰りたいなぁ」


 命令だから受け入れる。僕の世界と比較したら異常も異常な学園への編入も、しろと言われればする。

 ……というよりも、学校にという物にいい思い出が無い僕は、乗り気ではない。

 そんな僕の目の前には、スーツ姿、眼鏡をかけ厳格そうな女性が仁王立ちしていた。

 一応言うと、周りには僕以外の編入希望……いや、入国希望の少年少女が立っている。


「諸君、私が今回の試験官を任されたキョウチ・シャクナだ!」


 力強い声で行われる紹介は、この場にいる人間の気を引き締める。


「ではそうだな……そことそことそこ……それとお前、帰って良し」


「「「「……え?」」」」


 いきなり帰れと言われた4人は、素っ頓狂な声をあげた。

 ちなみに僕は帰れと言われていない。


「ちょ、ちょっと待てよ! いきなり帰れってなんだよ!?」


「貴様らの魔力量は論外だ。才能の欠片も見受けられない」


「論外……いやでも、魔力が人より少し足りないからって即帰れってそりゃないでしょ! それに俺は、剣の腕なら誰にも……!」


 そう言いきる前に、試験官のキョウチの拳が、反論する少年のすぐ目の前へと繰り出された。ギリギリの寸止め、風圧で傍にいた僕の髪さえもなびく。


「次に文句を言ってみろ。この私と、貴様よりも才能ある若者の時間を無駄にした罪で殺す」


 淡々と言っている分、その言葉が真実だという説得力がある。

 文句を言っていた少年は冷や汗を流しながら、諦めたような顔つきでトボトボと帰っていく。それに倣い、同じく帰還を命じられた他の人たちも帰って行った。

 いいなぁ。


「さて、邪魔者はいなくなったな。ではまずグループ分けを行う。指示された場所で待機しておけ」


 そう言って、キョウチは僕たちを2つのグループに分けた。

 が、そのグループは些かバランスが悪い。

 僕が配置されたグループは、もう一つのグループと比べても明らかに数が少ない。かたや50人超え、かたや6名ほどだ。


「貴様たちはこっち、お前たちはこっちだ」


 2つに分けられたグループはそれぞれ別の場所へと連れていかれた。

 僕のいるグループは校舎の中へと連れていかれた。そしてもう一つのグループは、校舎のすぐ傍にある建物へと連れていかれた。

 体育館みたいなものかな?

 そして数分ほどしたのち、試験会場と思しき教室へとたどり着いた。


 ……うん、普通の教室だ。

 雰囲気としては、高校よりも大学のそれに似ている。

 見れば机の上にはプリントが置かれている。

 試験用紙だと思って、僕は今までに勉強したことを頭の中で反芻させる。

 どんな問題が来ても大丈夫と、そう思っていたのだが……


「では各々すきな席につけ。入学に当たっての説明がその紙に記載されている。私は一度、魔導館で試験を行ってくるので、その間の……まあ30分ほどだな。それまでによく読んでおくように」


 ……なんかおかしくない?

 今の言い方だとまるで、僕たちの入学が決まっているような言い方だ。


「あの、キョウチ……先生?」


 僕のすぐ前にいる一人の少女が、恐る恐るといった表情でキョウチに話しかける。


「なんだ? 質問なら後にしてくれるか? 私はこれから、試験を行ってくるのだ」


「いやあの……私たちの試験は?」


「お前たちは合格だ」


「「「は?」」」


 僕を含め、この場にいる全員が疑問の声をあげた。


「あの……合格って?」


「言葉通りだ。お前たちは見て分かるほどの実力を兼ね備えている。さっき帰した奴らとは違う意味で、試験をする必要がない」


 ……僕も?


「学力試験もですか?」


「それを抜きにしてもお前たちはこの学園に入れる価値がある。というわけで、お前たちは入学事項を読んでおけ。その間に交流を深めるでも何でもしていい」


 そう言って、キョウチはこの教室を後にしていった。

 何とも言えない空気がこの教室に流れる。

 それはそうだ。

 さっきまで気を引き締め試験に臨もうとしていたにもかかわらず即合格とは、誰でも毒気を抜かれてしまうだろう。


「えっと……」


 キョウチに質問した少女が、困ったように辺りを見回した。


「とりあえず入学事項を読みましょう。その後にでも、軽く自己紹介でもどうですか?」


 僕はそう提案し、他の人の意見を聞きもせずに椅子に腰かけてプリントを眺める。

 それに倣って、他の5人も各々席につき、プリントを読み始めた。

 急なことだったとはいえ、さすがに冷静になってきたようだ。

 

 そして15分ほど入学事項を読みこむ。

 内容的には……およそ普通の学園とは思えない物だ。

 まず一番上に記載されている項目に、国民同士での殺傷を禁ずる、と書かれているだけでもその異常性が分かるだろう。

 それにこれは裏を返せば、この魔導学園国家に属さない人間は殺しても問題ないということだ。


 さらに恐ろしいことに、この分の末尾に()で閉じられながら、ただし場合によっては許可する、と記載されているのだ。

 そしてこの学園の特徴とも言える序列に関しての記載もあった。

 以前お嬢様の口からは、学生同士での勝負による勝敗に大きく委ねられると言っていたが……細かく言えばそうではなかった。

 確かに重要な項目ではあるが、それ以外にも多くの項目がある。


 この学園はまあ……あくまで異世界人である僕の感想ではあるが、正気の沙汰ではない。

 殺害を場合によって許可し、序列をつけ下位者はスレイブ、つまり奴隷に落ちる。

 こんなことを是とする学校などあっていいはずがない。通いたくだってない。

 ……試験があるならば、どうにか不合格になれたのに。


「ふぅ……みなさん、もう読み終えましたか?」


 一人の少女……さきほどキョウチに質問していた子が皆に言葉を投げかける。

 その何気ない行動に、僕は少し感心した。

 この人は真面目で周りのことも考えるんだなぁという感想だ。


「まあ……読んだよ」


「事前に聞いていた通りでしたし、すぐに理解しました!」


「私は5分前にはすでに読み終えましたわ」


「うん……」


 各々が少女に対して返事をする。

 僕も何か発していた方がいいよね。


「えっと……自己紹介でもしますか?」


「あ、はい、これからこの学園で一緒に生活する仲間だからね。お互いのことを良く知っておいた方がいいかと」


 その言葉に、この場の2名がため息をつき、少女に対し意見する。


「仲間って……お前ホントにこれ読んだのかよ」


「全くですわね。わたくしたちはこれから競い合うライバルと言った方が正しいでしょうに。あなたはこの学園に何しに来たのですか?」


 侮蔑、にも似た言葉だ。

 しかしこの学園に何しに来た、か。

 そりゃあ、みんな目的があってここに来てるんだよなぁ。僕以外。


「で、でも……お互いのことは知っておいた方がいいんじゃないかな?」


「ふん、じゃあまずはお前から話せよ」


「もちろん。私の名前はアリン・ティアラ、属性は水だよ」


「……属性まで言うんですの?」


 明らかに、それは無いだろう、という表情だ。


「あ、えと……ダメだったかな?」


 困った表情を見せる少女……アリンさんだったか、それを助けるように、僕の隣に立っている少年が立ちあがった。


「まあまあ、いいじゃありませんか! 僕の名前はクラウ・カーム、属性は風です」


「お前もかよ」


「バレても問題ないですから。お2人は、不安があるなら言わなくてもいいですよ?」


 明らかな挑発発言だった。

 不愛想な男は軽く受け流そうとしたが、高圧的な少女の方は受け流さずに、少々怒りの表情を見せながら言い放つ。


「ライム・ミヤ、火属性よ! ミヤ家の一員である私に、恐れるものなんて一切ないわ!」


「……はあ、ここで言わないのはなしか。カリウ・バール、土属性だ」


 ライムさんとカリウさんも、つつがなく自己紹介が終わった。

 残すところは、僕とあと一人の少女だけだ。


「じゃあ次は……君にお願いしていいかな?」


 アリンさんは僕ではなく、少女に問いかけた。


「ミル・ミュール……水……です」


「ミルちゃんですね、よろしくお願いします。じゃあ最後、お願いします」


 アリンさんはやっと緊張が抜けてきたのか、笑顔で僕に促した。

 ああ、いつの間にか残っていたのは僕だけか。

 タイミングが分からなくて、何も言えなかった。


「えっと……ユイ・イチホシです。属性は火です」


 臆面もなく嘘をつく。

 正直に氷ですなんて言おうものなら、面倒そうだったし、あらかじめアニスさんから、火属性を装えと言われていたから。

 これで全員の自己紹介が終わり、ちょうどキョウチが言っていた、30分ほどの時間が過ぎていた。

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