第22話 「とある一族について」
「さて、ユイ君を入学させるにあたって、一つ解決しなくてはいけない問題がありますね」
編入試験を明日に控えて、突然アニスさんが言い出した。
解決しなければいけないこと?
勉強はある程度できているつもりだし、武術、魔法の訓練も問題なく行えているつもりだ。
しかし、問題とは僕の能力に関することではなかった。
「その額の魔石です」
アニスさんは自分のおでこをコンコンと叩いた。
「この宝石が……ですか?」
「ユイ君の世界では宝石というのですか。そうです、その石が、学園生活を送るうえでどうにかしなければいけないことです」
「でも、この前は剥き出しで街に出向きましたけど」
「そのときはセウルお嬢様が迷彩魔法をかけていたのですよ。他の人からは普通のおでこに見えていたことでしょう」
「はあ……」
「ですが、学園では常にセウルお嬢様がいるというわけではありません。何かの拍子で迷彩魔法が解け、その魔石が露わになったら大問題です」
「そんなに問題なんですか、この宝石が」
「傷ついて本来の力を十全に発揮できていないとはいえ、魔石を埋め込んだ人間など、あの魔石の一族以外にいるはずがないですからね」
魔石の一族……ちょくちょく聞いた単語だ。
「その一族って、どんな一族なんですか?」
「一言で言うなら傭兵部族です」
「ざっくりですね」
「事細かに説明すると……」
アニスさんの説明を要約すると。
魔石の一族とは、魔石の埋め込みという成功率の極めて低いドーピングに対して、生まれながら耐性を持つ一族らしい。
元は人体実験により何千人の犠牲を出した結果生まれた一人の男が一族を繁栄させたとのこと。
そして、魔石で得た強大な力を用い、一族ぐるみで傭兵となり世界中で戦闘を行い、お金を稼いでいると。
「それこそ一族総出でかかれば、一つの国を滅ぼすことすら容易と言われるほどです」
「なるほど……」
「ですがそんな一族も、5、6年前に絶滅してしまいました」
「またえらく急な話ですね」
「まあ言ってしまえば人殺しの一族ですからね。敵も相当いるんですよ」
「……でも、そんなすごい一族を滅ぼしたのなら、相当な規模の戦争が起きたはずですよね? 今まで読んだ本の中には、そんな記述は一切なかったですけど」
「これは私の推測ですが、一族の中には裏切り者がいたはずです」
「裏切り者? 何か根拠があるんですか?」
「はい、ユイ君の言う通り、戦争の記録がないことが根拠です。裏切者が情報を提供したか、一族の重要戦力を暗殺したかなど、まあ色々な方法がありますが……私の推測では水源に毒を盛り、一族全ての戦力を削いでから滅ぼした、と思っています。それならば、比較的おだやかに一族を滅ぼすことが出来ますしね」
アニスさんの言葉には、説得力があった。
普段から卑怯な戦法を考えているゆえだろう、魔石の一族を音もなく殺す方法をいくつも考えついているはずだ。
その中でも現実的な案を、アニスさんは述べているに過ぎないけど。
「つまりですね、絶滅したはずの一族が学園生活を送っていたら、大騒ぎするでしょう?」
話が繋がった。
なるほど、確かにその通りだ。
絶滅したはずの最強の傭兵部隊……の特徴と一致してしまう僕の額は、なんとかしなければいけないだろう。
「なら、鉢巻きでもしますか?」
「いえ、それでは簡単に落ちてしまう可能性があるので、もっと頑強で完全に固定された物でなければなりません。ということで、セウルお嬢様、出番です」
アニスさんが手を叩いてお嬢様を呼んだ。
その様は、まるでお嬢様こそを召使いとして扱っているように見えた。
「アニスあんた、いい加減私への扱いを考えた方がいいと思うのだけれど」
不満な顔をしながら、セウルお嬢様が何かを片手に僕の部屋に入ってきた。
「ユイ、あなたにはこれをあげるわ。私の土魔法で作った額当てよ」
手渡されたそれは、中央が固くコーティングされ、明らかに土くれで作った硬度ではない。
鋼鉄か鋼か、あるいはそれ以上の硬度を持つと言われても納得いくほどの物に見える。
デザイン的には何の模様もなく、本当に額を守るためだけの物だ。
「これを、頭に巻いておけばいいんですか?」
「いいえ、巻くんじゃないわ。取り付けるの」
そう言って、お嬢様は額当てを僕の額に押し付けた。
そしてなにやら魔力を込めている。
頭がざわざわとして、すごく変な感じだ。
「よし、これでいいわ」
お嬢様が手を放して、満足そうに言った。
僕は頭に取り付けられた額当てを触ってみる。
……うん、これ、僕でも取れないやつだ。完全に固定されていて、何をしても壊れそうになく、万が一外れることもなさそうな頑丈な出来だ。
「邪魔だとしても、我慢してね。ばれたら大変なことになるから」
「例えばどんなことになるんですか?」
「リンチね。もしくは極刑」
物騒なことを躊躇なく言うなあ。
「恐れられる、とかではないんですか?」
「魔石持ちとはいえたった一人の男に対して恐怖を抱くほど、これから通う学園の奴らはやわじゃないわ。それにね、あの一族は戦争時以外でも、多数の人間を殺していたのよ。依頼されたから、一族にとって邪魔となるかもしれないから、そして……鬱陶しいから」
「鬱陶しいって……」
「そんな理由で殺しちゃうヤツらなのよ。無抵抗の女子供であったとしても、気に食わなければ殺すし、いい声で泣きそうとかの理由でも殺しちゃうの」
「最低ですね」
「ドクズよ」
同感だ。そんなやつらを見かけたら、何の罪悪感も抱かずに攻撃を加えるだろう。
仮に石に傷があり、大した力を持たない僕に対してであっても、きっとそれは例外ではない。
驚かれるだけなら無視していい。
だが実際に危害を加えられるなら、これほどまでに強固な額当てが必要なのも頷ける。
「あの学園、あの街、この世界には、一族に恨みを持つ人間は計り知れないほどいるの。だからユイ、絶対にばれないようにしてよ。何かあったら頑張って守るけど、きっと私だけの力じゃ、守り切れないから」
「はい、分かりました」
僕は力強くうなずいた。だが……実を言うと、それほど問題でもないと思っている。
リンチにされる? それに近いことなら毎日やられていた。
極刑? もはや死など怖いとは思えない。
痛みを知り、死を知りこの世界にやってきた僕は、感情なんて無くなってるのかなぁ?
そう思いながら、僕はこの日、試験に対しての勉強を進めていた。




