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第21話 「休日の過ごし方」

「ほれユイ、貴様の給料だ」


 部屋で休んでいると、おもむろにエイジン様がやってきて、数枚の金貨を放り投げてきた。


「おっと……ありがとうございます」


 投げられた金貨をキャッチして僕は、とりあえずお礼を言った。

 奴隷だか召使いだかよく分からない身の上、給料なんてもらえなくても当然と思っていた。


「これ……どれくらいの価値なんですか?」


 金貨一枚がどれだけの値段か知らない僕は、この給料が高いのか安いのか、それすらも分からなかった。

 だけどエイジン様は、そんな僕の疑問には答えずにすたこらと部屋を出て行った。


「……どうしよ」


 お金の価値も分からず、ましてや使う予定もない物だ。

 今の僕にとっては無用の物、どう扱えばいいのか分からない。

 と、途方に暮れていると、ドタドタという足音が聞こえてきた。


「ユイ、街に行くわよ!」


 激しい勢いでドアを開けたお嬢様が、意気揚々とした顔つきでそう言ってきた。


「お給料をもらったんでしょう? ならさっそく、使わなきゃ!」


 ……お嬢様って、金遣いが荒そうだな。

 思い返してみると、僕を買った時も雑な支払い方をしてたし。


「いいですけど、仕事が片付くまで結構な時間がありますし……」


「それなら大丈夫ですよユイ君」


 どこからともなく、音もなくアニスさんが現れた。

 この屋敷に住まう人間は、アニスさんに対してのみプライバシーも何もないらしい。


「仕事は私が代わりにすべてをやっておきます」


「え、でも……」


「その代わり、この場所でこれを買ってきてください」


 アニスさんから一枚のメモを渡される。

 この世界の文字で書かれているが、今の僕なら普通に読み取ることが出来る。


「……わかりました。おつかいも兼ねてるってことですね」


「はい、忘れたら全裸にして街中を歩かせますからね。セウルお嬢様を」


「なんでよ!」


 そんなやり取りを交わしながら、僕とセウルお嬢様は街へ繰り出す準備をした。

 もらった金貨はどうやらかなり大きなお金らしく、一部を銀貨に変えてもらって袋に詰める。

 そこそこ重いけど、邪魔にならない程度の量だ。


「それでお嬢様、街に行って何をするんですか?」


「そんなの、遊ぶに決まってるじゃない。休みの日はパアーッと派手に遊ぶに限るでしょ?」


 当たり前のように言われるが、僕にはそんな習慣はなかった。

 休みの日はバイトしてたし、バイトのない時間はひたすら勉強してた。

 とにかく休むなんてことはほぼなく、遊んだ記憶なんて微塵もない。


「さ、準備は出来たわね? すぐに出発よ」


 子供のようにはしゃぐお嬢様を見ながら、僕は淡々と行動する。

 特に何かして遊びたいとか、欲しい物があるとか、そんな欲望を一切持たない僕は、ただお嬢様に付き合ってあげる、そんな気持ちで同行するだけだ。


 そして、この家のペット兼乗り物のソウリュウ、セツナに乗って30分ほどしたところで、街にたどり着いた。

 見た感じ、僕が召喚された街ではないようだ。

 街の雰囲気としては、中世に近い感じがあり、とてもオシャレな感じだ。


「まずは食事かしらね。そのあとに服屋と本屋に行って必要な物を揃えたら、カジノや闘技場で一通り遊んで……大体6時間ぐらいかしらね」


 これからの行動の予定を立てているお嬢様は、本当に楽しそうだ。

 常に笑顔を維持し、まるでおもちゃを目の前にした子供のようだ。


 そんなお嬢様について行き、僕は初めての経験をたくさんした。

 見たこともない獣の肉をお腹いっぱい食べたり、色んな服を試着しながら自分の服を購入したり、お金持ちが集まるようなカジノで勝負をしたりなど、いろんなことをした。

 ただ……行く先々でお嬢様は何かしらの騒ぎを起こし、僕は気苦労の方が多かった。


「ちょっとこの料理、値段の割にまずくない? アニスが適当に作った料理の方がまだマシよ」


 何気ない一言で料理長を怒らせ、


「見てユイあの子、あの顔と体形であんな服を選んでるわよ。センスの欠片もないわね」


 名前も知らぬ他人を嘲笑して、


「フフ、あのバカ、イカサマされたことにも気づいてないわ。ちょろいわ」


 卑怯な方法で大勢の身ぐるみを剥したりとやりたい放題だ。

 ただ、確かにお嬢様の言葉にも一理ある。

 料理はそんなにおいしくはなかったし、服を選ぶセンスも壊滅的だったし、イカサマは気付かない方が悪い。

 けど、お嬢様の行動はどれも堂々とし過ぎていて、無用なトラブルを起こす物ばかりだ。

 正直、賢い行動とは言えない。

 けど僕は召使い、お嬢様の行動には何一つ文句は言わない。

 というか何か言ったら面倒くさそうだし。


「お嬢様、楽しかったですか?」


「ええ、今度は闘技場に行きましょう。面白い対戦あるかしら?」


 お嬢様は本当に楽しそうにこの街を歩く。

 常に笑顔で、ウキウキとした足取りで、今どきの女の子感を醸し出している。

 ……こんな街で。


 こんな、首輪をした人間がどこにも必ずいる街で。


「ユイは、楽しくないの?」


 突如振り向いたお嬢様が、不安そうに僕を見つめた。

 ああ……表情は本当に女の子らしいのに、この街の風景はそれを台無しにする。

 僕と同い年ぐらいの少年少女が当たり前のように奴隷のような扱いを受ける街が普通かのように。

 何も問題がないと言わんばかりの顔で。

 こんなのが、この世界の常識なんだろう。


「いいえお嬢様、僕も楽しいですよ」


 作り笑いを浮かべながら、思ってもいない嘘を口にする。

 初めての経験、刺激的だったことは認める。

 しかしいい気分であったかどうかとは関係のないことだ。

 お嬢様は僕の言葉を疑わず、目的地まで笑顔で向かう。


「お、盛り上がってるわね」


 連れてこられた場所は闘技場、文字通り戦う場所だ。

 どうせ奴隷同士で戦わせているんだろうと思ったが、意外にも戦っている人たちは首輪をしていない。

 剥き出しの首で戦う人間は、高校生ぐらいの女の子2人だった。


「あの人たちは、なんのために戦ってるんですか?」


 不意に気になったので、お嬢様に聞いてみた。


「なにって、序列のために決まってるじゃない」


「……序列?」


「そ。ここでの戦績は学園の序列にモロに影響するのよ。いい成績を収めれば色々な特権が与えられるし、負け続ければ学内スレイブに転落、必死なのよ」


「学内スレイブって……もしかして街にいた首輪をしてた人たちって……」


「学園の生徒たちよ」


「戦わないって選択肢は、ないんですか?」


「序列は負けの数じゃなくて勝ちの数で決まるの。一度も戦わなかったら、ほぼ確実に学内スレイブよ」


「……すごい学園ですね」


 ただ、僕の学校よりはマシだろう。

 学園ということは、その場にいるのはその人たちの意思なのだろう。

 ならば奴隷になっても自己責任、何も問題はない。

 僕が受けた理不尽な仕打ちとは、まるで違う。


「ねえユイ、どっちが勝つと思う?」


 唐突に聞かれたので、僕は2人の学生を観察してみる。

 そしてすぐに答えを出した。


「右ですね」


「どうしてそう思うの?」


「構えに隙が無いように見えます」


「ふーん。アニスも、適当なことを教えてたわけじゃないのね」


 僕の見立てに間違いはなかったらしい。

 その証拠に、この戦いは右の女の子の圧勝で終わった。

 左の女の子は、何故戦おうと思ったのか疑問に思うほどの実力差だった。


「ふう、やっぱり雑魚同士の戦いを見ても得るものはあまりないわね。ユイ、もうやることはほとんど終わったから、家に帰っていわよ」


「雑魚同士……ですか」


 どっちも僕より強そうだけどな。

 そんな感想を抱きながら、僕は言われるがままに家に帰った。


     *


 時刻は夜の8時、ちょうど食事の時間だ。

 僕が椅子に座った段階で、アニスさんが何事もないように宣告した。


「ユイ君、一カ月後にセウルお嬢様と同じ学校に通ってもらいます。編入試験の勉強を仕事と並行してお願いしますね」


「……はい?」


 思わず聞き返したが、言われたことは理解してるし、拒否権が無いことも理解している。

 こうしてわけもわからないまま、再び学生として生活することが決定した。

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