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第16話 「訓練の成果」

 戦闘の訓練は、確実に身になっているように思える。

 攻撃の予測と行動の誘導、戦闘の基本とも言えるスキルは向上した自覚がある。

 それが事実であると証明するように、訓練は次の段階へと移行する。


「ユイ君、そろそろ本格的な戦闘訓練を行います」


「本格的……ですか?」


「今までのは所詮、基本的なことを身につけさせていたにすぎません。これからあなたがこの家に住み、戦わなければいけない相手とは、さらに上のレベルで戦わなければいけません。だからこそ、実践的な訓練をするのです」


 訓練開始から15日後、ようやく進展と言えるような進展であった。

 戦うことそれ自体には興味はなく、むしろしたくないとさえ思っているが、成長を認められたようで、ほんの少しだが嬉しさがこみ上げる。


「それで、どんなことをするんですか?」


「これから行う訓練は……あ、ユイ君うしろ」


 アニスさんが指をさすので、僕は後ろを振り向く、

 しかし、そこには何もいない。


「あの、なに、がっ……」


 再び正面を向くと、目の前に木刀の切っ先があった。


「これが教えることです」


「……つまり、どういうことですか?」


「奇襲戦法……騙し打ちです。ユイ君に教えるのはあくまでも私の戦い方、卑怯卑劣な戦法です。少々言いにくいですが、エイジン様やセウルお嬢様のように真っ向勝負をするには力不足です。なので、私と同じく卑怯者になってもらいます」


 臆面もなく自身を卑怯者と言うアニスさんを、僕は軽蔑するどころか、むしろ尊敬の念を抱いた。

 目的のためにあらゆる手を尽くす、それは当然のこと。

 しかしそれを正当化せず、卑怯と断言する様には、カッコよさがあった。


「頑張って卑怯者になります」


「よろしい。ではユイ君に道具を渡しましょう。これをどうぞ」


 アニスさんから、複数の玉を手渡される。

 赤い玉、青い玉、黄色い玉……様々だ。


「これは閃光弾、こっちは騒音弾、これは粘着弾……色々ありますが、敵の注意を逸らす目的の物ですね。私の愛用している道具です」


 ……こうして道具を見せられると、本当に卑怯なんだなと思う。

 戦いに卑怯もクソもないんだろうけど。


「これをうまく活用すること……それが重要なわけですね」


「別に」


「え?」


「それはあくまで手段の一つです。実際の戦闘ではこの家の特性を活かして戦ってもらうので、使い勝手が悪いようであれば捨てても構いません」


「そ、そうですか……」


 戦闘を教わると言っても、自分なりの戦い方も模索しなくてはいけない、ということか。

 まあ確かに、僕はアニスさんとは違う人間、そっくり同じやり方をやってもうまくいかないだろう。

 僕なりのやり方で、強くなるしかない。


「それじゃあ始めましょうか。さあユイ君、どこからでもかかってきなさい」


 言われ、僕は木刀を構える。

 手渡された玉はまだ温存しておこう。

 アニスさんは色でこれが何かを把握している。ならば、正面から使っても効果はない。

 これは僕なりの考えだが、卑怯な手を使う時は、ある程度の正攻法も混ぜればいいと思う。

 騙すには、信じさせるのが一番ということだ。


「行きます」


 と、足を一歩踏み出す。

 それに合わせてアニスさんが地面を一蹴りすると、僕の足元の床が抜けた。


「わっ!」


 穴の開いた床にすっぽりとハマってしまった。

 その隙に、僕の頭に木刀が直撃する。


「なんですかこれ?」


「私特製、ミニ落とし穴です」


「いやこんなの、回避不可能ですよ」


「屋敷にはもっと細かな罠が散りばめられています。これを活用すること、それを目標にするわけです。手始めにこの限られた空間の罠を使いこなせるようになってもらうのが、今回の目標です。ここを蹴ると穴が開くのは覚えましたね?」


「……はい」


 その後も、理不尽な罠をその身で一身に受け続けた。

 水が出てきて足が滑ったり、横から鉄球が飛んで来たり、爆音が鳴って注意を逸らされたり、果ては天井からタライが落ちて来たり、多種多様な攻撃のオンパレードだ。

 それを使いこなすアニスさんもすごいけど。


「ほらほら、そんなんじゃいつまでたっても卑怯者にはなれませんよ。相手がされたらいやなことを、考えつくしなさい。最低に嫌な人間になりなさい」


 そんな訓練を、期限ギリギリまで続けた。

 今では僕は僕のことを、自身を持って卑怯者だと言える。

 戦闘訓練においては、こんなところです。

 次は魔法の訓練についてお話します。


     *


「……なにそれ?」


 夜中に見つけたコツ、魔力と繋がる方法をセウルお嬢様に見せると、驚きで目を丸くさせた。

 どうやら正規の方法とはまるで異なるらしい。


「ダメ……ですか?」


「ダメってことは……いや、どうなのかしら? つなぐ魔力の糸は細くて感知しにくい、空気中に漂わせるよりも容易に操作できる点は優秀……けど、その糸を断ち切られればおしまい……でもユイの訓練期間を考えると、この方法が一番マシ……か」


 結構長めの批評を終えると、セウルお嬢様は僕に向き直った。


「オーケーよ、その方法で今後は訓練を続けるわ」


「はい、分かりました」


 淡々と言葉を述べたが、実のところ結構ほっとしていた。

 まともな方法では全然上達の見込みがないから、これを否定されたら何をすればいいのかお手上げ状態に等しかった。


「それじゃ、今度は放出した魔力をこのサイコロに纏わせて、実際に動かしてみて」


「はい」


 僕は手のひらから放出した魔力を、サイコロに纏わせた。

 すると、まるで何かを掴んでいるかのような感覚が、手のひらから15センチほど離れた箇所で感じられた。

 これが、魔力で物を掴む感覚か。


「これを、動かす……」


 サイコロを掴み、持ち上げる。

 そんな意識を持って力を込めると、サイコロが宙を浮き始めた。


「そうそう、いい感じよ。じゃあ次は、それを空中で動かしまくって。ずっとよ」


「はい」


 僕は言われた通り、浮かしたサイコロを部屋中に思いっきり動かしまくった。


「じゃあ今日は自主練ね。時間までそうやって動かし続けて」


 ……放任主義すぎな気がする。

 それからも、セウルお嬢様には必要最低限のことしか学べず、自主練の日々が続いた。

 やっていくうちに気付いたのが、魔力を練り上げるという感覚だ。

 体内の魔力に力を込め、混ぜ合わせるような感覚。それを行うと、力が胸の奥底から沸々と沸いてくる。


 そして、それは身体能力の強化にもつながる。

 これも自主練して気付いたことだけど、魔力の練り上げは物体を魔力により移動させることを続けるとより錬度が上がる。

 放任主義すぎてちょっと戸惑ったけど、セウルお嬢様の指示したこと自体は、魔力を扱う訓練には最適だったみたいだ。


 そのおかげで、距離は短いけど、魔力の糸を紡がなくても魔力を放出できるようになった。

 お嬢様曰く、僕に残された課題は、魔法だけらしい。

 しかしこの魔法は一朝一夕で身につくものではなく、僕の属性である氷、これを具現化するためには最低でもあと2か月の時間が必要とのこと。

 この家にいるための期限には間に合わないため、ひたすら魔力の練り上げだけを磨き続けた。


 そして、期日がやってきた。

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