援軍接近
「…………」
カタジナに用意してもらった寝室に入り、軍服の上着をハンガーに掛けてからベッドに横になった。
「くっそ……」
とうとうやってしまった。
確実に勝利する為とは言え、催涙ガスを使い敵を一掃した。
落ちる所まで落ちたか……。いや、既に僕は修羅の道しか歩めない。アリツェを置いて兵士になった時点で……。奴等の走狗になった時点で……。
「アリツェ……」
もう会えないのか……。一途の望み……彼女も転生してる可能性に賭けているが、もう二度と会えないのではと不安になる。生徒や古い友人達は見つかるのに、アリツェの情報は無い。
まさか、自殺したからか?
考えたくないが、僕を追って。後追い自殺をしているせいでアリツェは転生出来て無いのか?
だとしたらコレは罰だ。彼女に寄り添わなかった僕の。
……疲れた。寝よう。
「先生!援軍です!レムス卿とイゴール卿の軍勢が東から接近中です!」
「なにぃ!?」
ドア越しに援軍接近の報を叫ぶとミラン先生が転んだのか、ドタバタと音がした。
まだ夜明け前だしなあ。
「数は!?」
扉を開けたミラン先生は上着を羽織ってはいるがボタンを止めてなかった。
「そこまでは……。ただ、レムス卿はビトゥフに帰還した足で此方に来た筈なので500は硬いかと。およそ2時間後には到着する見込みです」
向こうの斥候が偵察に出ていた此方の斥候と出会しただけなので数は不透明だった。
だが、ビトゥフの部族兵が到着するまで守り抜ける公算が高くなったのは間違い無い。
「今は……2時か!早いな、父上め強行軍をしたな」
「ホセが食事の用意をしてます」
恐らく冷食を齧りながらの強行軍をしていると重い、侍女も総動員で温かい物を用意している。
先生も寝ていないみたいだしホセや侍女達に寝る時間は有ったのか疑問だが。
「ふはぁ〜〜ぁ〜〜」
アンナちゃんが派手に欠伸してら。
「はい、コーヒー」
濃い目に煮出したコーヒーをカップに注いでアンナちゃんに渡したら一気飲みした。
「濃ゆい……」
「もう一杯飲んどく?」
シナモン適量と砂糖は多めに入れてミルクで割っているので単純に栄養補給にもなる様に作ってはいた。
「頂きます……」
侍女や輜重隊総員で大量に水餃子を包んでいるが、2時間もすれば来る援軍の数がよく分かんないから6千個も包む事になった。数が数なんで豚肉が足らなくなる可能性を考えチーズと潰した芋を入れて餡をかさ増ししてるけど、芋茹でるのに大釜使ってるから暑いのなんの。
おまけに、全員3時間ぐらいしか寝てないからふらついている。
俺なんか砲弾薬の消費量を調べてたから寝れんかった。
昼飯もついでに仕込んで寝る時間作るか、昼飯は簡単なのにして交代で寝ねえと皆ぶっ倒れそうだ。
って思ってる側から侍女が1人、寝落ちして打ち粉を広げたまな板に顔を伏せちまった。起こしてあげよう……。
「……ん?」
不意に目が覚めたので時計を見ると朝4時。何時も起きる時間より早いけどまあいいか。起きよう。
ベッドから起きて窓際に立つと薄っすら結露している……。最近冷えてきたからなあ。窓の外は日が昇る前、何かが燃えているのが見えるけど考えないようにしよう。
そういえば、今日は悪夢を見なかったな。大体、ミランの夢とか見るけど。
「はぁ……」
ため息が出るよ。全くどうなるんだろ。
不安になって椅子に座って机に顔を伏せる。
アンナと私が襲われたのが発端でこんな事になるなんて。昨日だけで何人亡くなったんだろ?
私も反乱鎮圧で人を殺したけど、ロベルトは酷い事を目の前でした。催涙ガスで無抵抗になった人を焼き殺すなんて。人間以上に嗅覚が鋭い人狼に催涙ガス。想像しただけでも苦しそうだ。
「……ハハ」
そうだ、私も人を殺してるんだ。ステラを殺した彼奴等と同じ人殺しなんだ。ロベルトの事を批判しても結局私は同じ穴の狢なんだ。端から見れば何も変わらない、どんなに言葉で取り繕っても、取り繕うだけ悪魔に近付く。ステラを殺したナチと同じ……。
「ハ……」
ベッド脇の壁に開いた穴が目に着いた。
10歳の時に初潮が来て怒りで壁を殴った時に出来た穴。
あの時は前の人生と違って子供を作れる身体だと現実を突き付けられて怒りが込み上げた。子供が作れる、でもミランが居ない。意味なんか無い、ミランが居なきゃ。
3日前に騎士を殺したのもアンナが襲われたのが発端だけど、唇を奪われそうになったのが原因だった。殴った拍子で相手の下顎が捻り飛ぶとは思わなかったけど……。
……ミランともう一度会いたいけど、あの人も転生してるのかな?分からない事だらけだ。
アンナが転生者だと聞いたホセに話をしようとしてるけど、ゴタゴタ続きでダメだし。




