■第8話:地味な少年の地道な努力。……えっ、そのマメだらけの手、嫌いじゃないわよ?
いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。
『困った神様シリーズ』第5弾、本日も更新です!
魔法もチートも使わない、圧倒的な「自己肯定感」と「ド正論」による異世界蹂躙劇。
どうぞ、リラックスしてお楽しみくださいませ!
【場所:神界・ネフェルの部屋】
「さあ! 今日もイケメンのプライドを粉砕する時間よ!」
女神ネフェルは、神界の特等席(モニター前)で、ポップコーンを片手にワクワクと待機していた。
王都のトップ層を壊滅させた好子が、次にどんな鼻持ちならない男を血祭りにあげるのか。すっかり「好子推し」となったネフェルの毎日の生きがいである。
「おや? 今日の好子様は、ずいぶんと寂れた場所を歩いているわね……?」
画面の中の好子は、華やかな大通りを避け、王都の隅にある古びた下町の鍛練場へと足を踏み入れていた。
【場所:王都・下町の古い鍛練場】
「……998! 999! 1000……ッ!」
夕暮れの鍛練場。
そこで一人、木剣を振るっている少年がいた。
見習い騎士のフィン。そばかす顔で、背も低く、お世辞にも「イケメン」とは呼べない、どこにでもいる平凡な少年だ。
しかし、彼の道着は汗で重く沈み、その手はマメが潰れてテーピングだらけだった。
「……ふぅ。よし、次は足捌きの反復だ」
フィンが息を整え、再び構え直そうとした時。
「……邪魔して悪いかしら」
「ひゃっ!?」
フィンは、背後からかけられた声に驚き、勢いよく振り返った。
そこには、夕日を背に受けて神々しく輝く、絶世の美女――好子が立っていた。
「あ、あ、あのっ! す、すみません! むさ苦しい所で! 今すぐどきます!」
フィンは慌てて木剣を隠し、顔を真っ赤にしてお辞儀をした。
王都の噂で「恐ろしく美しいが、冷酷無比な氷の女王」がいることは彼も知っていた。自分のような平民の小僧が視界に入れば、何を言われるかわからない。
神界のネフェルがゴクリと唾を飲む。
(ああっ、可哀想なフィン少年! 好子様に『汗臭い』とか『視界のノイズ』とか言われて泣かされちゃうのね!)
しかし。
好子は、逃げようとするフィンの前へと静かに歩み寄り、その手元――ボロボロになった木剣と、テーピングだらけの指先を見つめた。
「……あなた。さっきの素振り、重心が全くブレていなかったわね」
「えっ……?」
好子は、かつて武闘団長のガレン(筋肉ダルマ)を論破した時と同じように、鋭い目でフィンを観察した。
「踏み込みの足の角度、剣を止める時の背筋の張り。……派手さはないけれど、ごまかしの一切ない、実直で完璧な基礎の動きだったわ」
「見栄を張るためじゃなく、本当に自分を強くするために振っている剣ね」
好子は、フィンの顔を真っ直ぐに見つめた。
「あなた、名前は?」
「ふ、フィンです……! 下級騎士の見習いで……その、才能がないから、人一倍練習しないと追いつけなくて……」
フィンが恥ずかしそうに俯く。
すると、好子はふっと、氷が溶けるような「優しく、柔らかい微笑み」を浮かべた。
「才能がない? 誰がそんなこと言ったの。自分と向き合って、泥臭く研鑽を積めること自体が、何よりも得難い才能よ」
好子は、懐から最高級のシルクのハンカチを取り出すと、それをフィンの手にそっと握らせた。
「……えっ?」
「顔だけを飾って中身が空っぽな男たちに比べたら、あなたのそのマメだらけの手の方が、よっぽど価値があるわ」
好子は、フィンの頭を軽くポンと撫でた。
「自信を持ちなさい、フィン。そのまま磨き続ければ、あなたはいつか必ず『本物』になるわ」
「そのハンカチはあげる。汗を拭くのに使いなさい。……また気が向いたら、見学に来てあげるから」
好子は、それだけ言うと、夕暮れの街へと静かに歩き去っていった。
「あ……ありがとうございます……っ!!」
フィンは、好子の残り香がするハンカチを両手で握り締め、深く、深く一礼した。
彼の心に、これ以上ないほどの「最強の自己肯定感」が灯った瞬間だった。
【場所:神界・ネフェルの部屋】
「…………ズッッッッキュゥゥゥゥンッ!!」
ネフェルは、モニターの前で胸を押さえて倒れ伏していた。
「な……なによ今の……!!」
「高飛車で冷酷な女王様が……ひたむきな努力だけは認めて、ふっと見せる聖母のような微笑み……!!」
ネフェルは、床をバンバンと叩いてのたうち回った。
「いわゆる『ギャップ萌え』じゃないのォォォッ!!」
「ズルい! なにあの完璧なツンデレ(?)! ただ男をフッて回るだけじゃなくて、ちゃんと相手の本質を見てるなんて……!」
ネフェルは、好子の解像度がさらに上がり、狂喜と尊さでオーバーヒートしていた。
「ああっ……! フィン少年が羨ましい!! 私も! 私も好子様に頭ポンってされたいィィィッ!!」
「ダメよネフェル、私には神としての威厳が……いや、もうそんなのどうでもいいわ! 今すぐ地上に降りて、好子様の前でスクワット1万回してくる!!」
こうして、好子の「気まぐれな優しさ」によって、一人の見習い騎士の未来が大きく開かれ……同時に、一柱の女神の尊厳が完全に天に召されたのだった。
(第5弾・第8話・完)
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