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 <三度目のループ>

 

 ハッと意識が戻ると、(わたくし)はある場所にいた。

 見覚えのある、パーティー会場。やはり見知った顔の来賓たちに、聞き覚えのあるBGM。そこまで気づいて、私はすぐに化粧室へと逃げ込んだ。誰もいない個室に入って鍵をかけ、鏡の前で私は震える体を両手で抱きしめながら、現状を確認する。

 ……間違いなく、戻っています。戻っておりますわ、信じられないことに。私、あの悪夢のパーティーに、死んだら、戻ってますの。

 こんなことがあるのか? と思うものの、最後に感じた、いや、既に二回経験している、自分の首に纏わりついた荒縄の感触が、まだ残っている。

 思わず首に自分の手を当ててしまい、私はその場で嘔吐した。これがもし、精神的な病気になった自分の妄想だとするなら、今すぐ自分の頭を銃弾か何かで撃ち抜いてしまいたい。この妄想から、悪夢から、一刻も早く解放されたい。

 でも、また次があったらと思うと、その判断は容易に下せなかった。縊死だけでなく、銃殺の経験までするだなんて、絶対に御免だ。そもそも、死という瞬間を迎えるのは、一回だけでいい。一瞬だけで、十分だ。

 理由は不明だが、私は既に二回の破滅エンドを迎えて死に、二回目のループと呼べる状況に陥っている。

 そう仮定して、三回目の死を逃れつつ、生き抜く方法を考えなくてはならない。

 ……まず、この城を抜け出す方法を、考えないといけませんわね。

 ヴィルムガルド家の援助は、期待できない。援助してもらえる状況なら、きっと自分は二回も死んでいないだろう。国家反逆罪という罪状がそうさせたのか、私を切った方が家のために有益だと判断したのかは、わからない。

 事実がどうであれ、実家は頼れないという結論には変わりなかった。

 そう思って顔を上げると、鏡の中の自分と目が合う。随分酷い表情で、思わず笑ってしまった。

 ……そう、ですわね。流石に、これ程酷い事が二回続くのは、私もキツいですわ。

 だから、とでも言うように、私は自分の頬に、両手を当てて、無理やり笑顔を作る。

 ……神に祈るのは人事を尽くした後にして、手を組む前に必要だと思われる事を成せ、でしたわよね? お父様。

 酷い目にあった。辛い目にあった。二回も死んだ。

 でも、生きている。

 今私は、生きている。それは、事実だ。だから、その事実から目を背けるな。生きているのなら、巻き返せる。

 そう思っていると、化粧室の外が騒がしい。きっとグークハールが、あの螺旋階段の上から私を探しているのだろう。あまりここで長居し過ぎると、二回目のループと同じ結果になりかねない。

 ……なら、過去二回とは、違う方法を取らないといけないですわね。

 私が生き抜くための鍵になってくるのは、業腹だが私を貶めようとしているグークハールとフィレバの二人だろう。

 オキグリアン国王は高齢で授かった一人息子がグークハールという事で、元々彼に対しては甘かったが、今回のような暴走を許したとなれば、為政者として見切らざるを得ない。

 ……まずは、フィレバに謝る所から始めてみる事にいたしましょう。

 私を陥れたという事実はあるが、私が彼女に行った事実はある。その部分については、申し訳なさは確かに感じていた。

 ……でも、償った後は別です。私を貶めたツケは、ちゃんと払っていただきますわ。

 そう思いながら、私はない胸を張り、化粧室を出るために、鍵を開けた。

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