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<イララ>
私はイナとクラームを引き連れて、投票所の中を突き進む。そんな私たちの後ろを、慌てたようにチュリックが追ってきた。
「ちょ、ちょっと、ま、待ってくださ、い! イララさんっ!」
「いいえ、待ちませんわ。今動かなければ、大変なことになるのは明白ですもの」
「そ、それが、ぼ、ボクには、よくわからない、よ!」
困ったような顔になるもっふもふの表情を堪能しつつ、私はどう説明したものかと首をひねる。
……困りましたわね。破滅エンドやループのことをチュリックに教えたとしても、理解できるとは到底思えませんし。
そう思いながら、私は自分に仕える侍女と従者に視線を向ける。
「イナとクラームは、ジョウムに対して対応が必要だと伝えるだけで、理解頂けましたけど?」
「え? イララ様がおっしゃられているのですよ?」
「イララ様が間違ったことを言うはずねぇだろうが」
「か、覚悟がキマった、きょ、狂信者と、い、一緒にしないで、よ!」
チュリックは悲壮な表情を浮かべるものの、それでも疑問を口にする。
「で、でも、イララさんも、さっき、言ってた、け、ど、盟約の、魔法、あるから、大丈夫、なんじゃ、ない、の?」
「あの時私とジョウム、そしてチュリックと結んだ盟約は、あくまで選挙の前提と開票結果の取り決めだけでしてよ。投票方法や、開票方法についてではありませんわ」
「そ、そんなっ!」
チュリックが青い顔になるのと、私の破滅エンドセンサーが反応するのは、ほぼ同時。
私はある部屋の前に立ち止まると、扉の前にいた二人の係の者へ問いかける。
「こちらに、入りましたわね?」
「な、なんのことでしょう?」
「ここは関係者以外立ち入り――」
「嘘が下手ですわね。本当に何も知らないのであれば、『誰』が入ったのかを私が確認したのか。まずは先にそれを知りたがるでしょうに」
……それに、表情も強張りすぎですわ。
自らの失策に気づいた部屋の前の彼らの前に、眉を立てたクラームが立つ。
「怪我したくなかったら、今すぐにそこをどきな」
「だ、ダメです! ここを通すわけには行きません!」
「そうです! ここは投票結果を開票する場所で、関係者以外を入れてしまえば、投票の正当性が担保できなくなってしまいます!」
「もう、担保できなくなっておりますわよね? クラーム」
「わかりました!」
クラームが叫び、二人を強引に抱きかかえる。
その脇を通り過ぎて、私は文字通り扉を蹴破った。メキメキというよりも、バキバキという音に近い破砕音が、あたりに響く。そして扉が、木っ端微塵になった。
その破片が落ちきる前に、私たちは部屋の中にいたジョウムとモウコトの姿を捉える。
私は腕を組みながら、彼らを睥睨した。
「部下だけに任せず、ちゃんと自分の手を汚しにきたのは褒めて差し上げますわ」
「……何を言っているのか、わからんな。私はゲルトドゥール州の領主だぞ? 領主を決める投票ならいざしらず、領内で発生する投票の状況を確認する義務が――」
「ご自分でも無理筋だとわかっている言い訳をするのは、見苦しいですわよ?」
そう私が口にしている間に、イナはジョウムの足元に落ちていた紙を拾い上げた。そして彼女は、それを神に献上する貢物のように私へ差し出す。
「今行われている選挙の、投票用紙です。魔物共存に丸がついておりますが、車線で取り消し線が引かれ、魔物排斥の方へ丸が打たれております」
「あら? 随分古典的な偽装工作ですわね」
「何を根拠に、偽装工作だと言っているのだね?」
ジョウムは引きつった笑いを浮かべ、ギラつく目で私たちを見つめる。
「それは、ただ投票者が間違って修正しただけだろう。それとも何か? 私たちが投票を書き換えたとでもいう、明確な証拠でもあるのかね?」
「テメェ、そんなんで白を切り通せると思ってやがるのかよっ!」
青筋を立ててクラームが激昂するが、私は右手をあげてそれを停止する。
その様子を見ていたチュリックは、本当に悲しそうに瞳をうるませながら、ただただジョウムのことだけを見つめていた。
「ジョウム、さん……」
「なんだ? お前まで私の不正を疑うのか? チュリック。だが先程も言った通り、私が票を書き換えたというのであれば、その明確な証拠をもってこい! 出せないのであれば、ただの言いがかりだ!」
「では、あなたはこの部屋で何をしていたのですか?」
イナの鋭い目線を、ジョウムは半笑いで平然と受け止める。
「言っただろ? 投票の状況を確認しにきたのだ、と。そして、この部屋に入った直後に君たちもこの部屋に入ってきた。ああ、そういう意味では心配しなくてもいい。君たちが選挙でどれだけ劣勢だったとしても、投票された結果を書き換える時間がなかったことは、この私自ら証言しよう。君たちに、今回投票された結果を書き換えることは不可能だった、と!」
「貴様! 言うに事欠いて、イララ様が不正を働くためにここにきたとでも言うのか!」
「いいですわ、クラーム。私たちの潔白を領主自ら証明してくださるというのですもの。なら、その前提でお話いたしましょう」
そう言って私は薄く笑った後、口を開く。
「確かにあなたの言う通り、あなたたちがこの場で投票用紙を書き換えたという、明確な証拠はありませんわ。直接修正しているところを、これだけの人数で見ていれば話は違ったでしょうけれど」
「イララ様!」
イナは抗議の声を上げるが、私は首を振るにとどめた。これだけ苦し紛れでも非を認めないということは、恐らくジョウムたちは必要な投票数の書き換えを完了しているのだろう。そして先程私が口にしたように、彼らが書き換えている現場を押さえれたわけではないので、それを証明する証拠がない。
それを見たジョウムは、狂ったように笑う。
「は、はははははっ! そうだ、そうだろう!! 現行犯でなければ、私の罪はさばけまい! ついに理解したか! お前らは、私には勝てないんだよ!」
「……あら? どうしてそうなりますの?」
「……は?」
呆けたような表情を浮かべるジョウムへ、私は優雅に微笑んで見せる。
「だって、そうではありませんこと? 実際に投票数を計算するまで、結果はわかりませんもの」
「……ふ、ふはははっ! そ、そうだな! 確かに、その通りだ。どうなるかは、まだわからんからな。ひょっとしたら、お前らの方の票が――」
「では、今すぐ集計なさってくださいな」
「……何?」
「できますわよね? あなたには、投票の状況を確認する義務があるんですもの」
そう言った後、私はチュリックの方へ視線を向ける。
「あなたたち魔物が運んできた人間の数は、覚えておりますわよね?」
「え? う、うん。ボクだけじゃ、わからない、けど、ほ、他の仲間にも、聞けば、全員、わかる、よ」
「そしてその方々は、まだ全員家に帰れたものはおりませんわよね?」
「う、うん。お年寄り、が多い、から、休憩して、移動する、から。いけても、宿泊場、ぐらい、まで、かな」
それを聞いて、私は満足そうにうなずいた。
「では、チュリック。悪いのですけれど、魔物共存に投票された方全員を、今すぐ連れて来てくださらないかしら?」
その言葉で、ジョウムは私が何をしようとしているのか悟ったのだろう。彼の表情は固まり、呼吸すら忘れている有様だ。
そんな彼を無視して、私は更に口を開く。
「私たちの賛同者は、遠方から投票所までお越しになられた、ご高齢の方々が多いですわ。ですから投票後、そこまで遠くにはいけませんの。つまり何を言いたいのかと申しますと、魔物共存に投票された人間全員を、私たちはまた投票所まで連れてくることが出来るというわけですわね。もちろん、チュリックがリーダーを務める、魔物のグループ全員も」
その人数を集めて、わかることがある。
実際に魔物共存に投票された、人の数だ。
そしてその数と開票された投票数に、差分があるのだとしたら。
それは明らかに、投票された結果に不正があったという証拠となる。
「どなたが不正を働いたのかはわかりませんが、投票に不正があったということでしたら、証明できますわね。そして実際にどの結果が優先されるかといえば、不正があった結果ではなく投票した人数を正として考える以外ありえませんわ。だって、実際に投じた票と人間、魔物の数がわかるんですもの。これ以上、わかりやすい結果はありませんわよね?」
「……もう、いい」
そう言ってジョウムは、崩れるように地面に膝をついた。




