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<破滅エンドを脱した元侍女:現在>
……私も誰かの力に私もなれないかな? って、そう思ってたんですよね。
あの、混沌としたアーチデール城で、私は一度死んだのだと思う。仕事を失敗して、自分の身が破滅しそうになった。
でも、どういうわけか、どうにかなってしまった。
どういう理由でどうにかなったのかというのは、あの日から時間が経った今でも、説明するのは難しい。
というか、説明できない。
あの方の振る舞いを、あの方のお考えを、私如きが推し量るなんて、出来るわけがないし、推し量ろうとするのすらおこがましい。
結果論ではあるが、私はあの方に救われたのだ。それも、そのパーティー会場の一度だけではない。
……あの方は、大きなきっかけを下さいました。私が出来ないと思っていた、変えようもない程に凍り付いていた氷を雪解けさせる、変われるきっかけを。
あの時手渡された指輪を換金するか否かは、確実に自分の人生の中で一番悩んだ問題だった。
心情からすると、死んでも手放したくはなかった。そして、その選択をしても、恐らくあの方は私を責めなかっただろう。
むしろ、肯定してくれたはずだ。何せ、あの方は最後の選択を、他でもない私に委ねてくださったのだから。
……でも、私は、そうはしませんでした。
あの方が私に下さった機会を、そんな形で無駄にしたくなかったのだ。
だから私は、指輪を換金して、まず両親の借金を返済した。返済し終えても、かなりの額が残った。
このお金を持って帰れば、贅沢しなければ一生食べていくのに困らない程の金額だ。そのままグラシス村に戻る選択肢もあった。
でも、私の心の中には、いつもあのお方がいらっしゃった。いや、今でも私の心の中には、あの方がいらっしゃる。
……イレイラ・ヴィルムガルド御令嬢様。
新しい道に進む時、私は常に、心の中のイレイラ嬢へ問いかけた。
あの方なら、どうするだろうか? イレイラ嬢なら、どう振舞うだろうか?
……決まっています。キチゲ解放以外ありえません。
確信できる。だから、私もそうしてきた。
あのお方には及ばないものの、手元に残った資金を用いてクルーリア王国内で投資を行い、イレイラ嬢へ否定的な意見を持つ貴族や商人たちの商売敵を、片っ端から、そして徹底的に支援した。イレイラ嬢なら、やるときは全賭けだろう。
結果、どういうわけか儲かってしまったのですけれども、これはもうあのお方の思し召しとしか考えられないし、そうでしかありえません。
やはりイレイラ嬢は最高です。異論は認めません。
あ、出してもよろしいですよ? 出した瞬間沈めますけど。
……流石に王族までは私の力では手は出せませんでしたが、ある程度やりきった所で、またどうするのか、次は何をするのか、悩んだんですよね。
だからまた、心の中のイレイラ嬢に問いかけた。
出て来た回答は、自分自身の想いは、あのお方の様に、誰かの力になりたいというものだった。
あぁ、相変わらず素敵過ぎます、心の中のイレイラ嬢。
……それで、今さっき故郷に戻ってきたら、チュリックさんに出会ったんですよね。
魔物のチュリックさんの話を聞いた時、これもまた、あのお方の思し召しだと思った。
人と魔物の、共存。
魔物は人間へ盗賊まがいの行動などをしたという罪があり、それを償った後に、ようやく共存という道が待ち受けている。
むしろ、選挙で勝ってからが本番だろう。そしてその選挙は、かなりの劣勢になっている。
険しい道に違いないし、それに、現領主のジョウムさんの気持ちも理解は出来た。
……でも、その道が破滅エンドに繋がっているのなら、やっぱりどうにかしないと、ですよね!
あの方はきっと、それを目指して今も歩いている。
ならば私も、あの方が目指している場所を、見ている景色を、僅かでもいいから見てみたい。
だから私は、チュリックさんに協力する事にした。
聞けばどうやら、人数は二人と少ないまでも、今人間で彼ら魔物に協力してくれている方がいらっしゃるという事で、紹介される運びとなったのだ。
「あ、あの、イナさん。あ、相手の方、女性の方、ですが、その、か、かなり、変わっている、といいますか、変、といいますか、ひ、控えめに言って、あ、頭おかしいと、い、いいますか、い、イカれていると、いいますか、そ、その――」
「大丈夫です! 私、そういう方に救っていただいたんで、割とそういう事、耐性あるんです」
「ほ、本当にその人、大丈夫なんですか? イナさんっ!」
まぁ、出会ったばかりの私を心配してくださるなんて、なんて優しい方なんでしょう。
でも、私と心の中のイレイラ嬢の関係を安易に疑う方は即キルですのでお気を付けくださいませ。
「じゃ、じゃあ、こ、こちらのお部屋に、ど、どうぞ」
そう言われて、私はグラシス村に唯一存在する宿舎、その一室の前に立つ。
ここにチュリックさんが言う、協力者がいるのだ。
……どんな方なのかわかりませんが、チュリックさんたち魔物のために、一緒に力を合わせる必要がありますね。あぁ、心の中のイレイラ嬢! どうか私をお導き――
「お、お邪魔します。イララさん、クラームさん」
……ん?
イララさん!?!?!?!?!?!?!?!?!??!?!?!?!?!?!??!?!??!?????
え、待って? 心の中のイレイラ嬢。確認ですが、現実のイレイラ嬢は、確かアーチデール城のご自分の控室をお出になる際、ご自分の事を、イララ、と、確かそう、おっしゃられて、あれ? え、どういうこ、あ、ああ、あーあーあ、な、なるほど、なるほどね? なるほど! なるほど、わかりました。わかりましたよ私! これ、あれですよね? 同姓同名的な? 姓はまだ聞いていませんから同名的な? あれ、あれですよね? たまたま。そう、たまたま! たまたま名前が同じ! そう、偶然! ぐ・う・ぜ・ん! 偶然同じ名前! 偶然なんですよね! いやぁ、まさか偶然イレイラ嬢が名乗られる偽名を、イララを名乗る方が仲間になるだなんて! いぁ、焦りました本当に! でも今、完全に解決しました! 帰っていいですよ、心の中のイレイラ嬢! しかし、これは幸先いいですね、私! 偶然とはいえ、私が敬愛するイレイラ・ヴィルムガルド御令嬢様が使われている偽名と、全く同じ名前の方が仲間になるだなんて! これはもう、現実のイレイラ嬢の思し召しとしか――
「あら? チュリック。入ってくるときは『変化』してから入りなさいと、私あれ程申しつけていたではありませんの」
……ほ――
本物だぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああっ!




