1 大聖女候補の追放
初投稿なので生暖かい目で見守ってやってください。
聖魔法の女神クラルスを祀り、その名を冠する宗教国の中央にある神殿。
その内部にある大神官の執務室に、次期大聖女候補の一人である聖女アレティリヤが呼び出されていた。
アレティリヤは数年前まではふわふわの長い銀髪と夜空を連想させる紺の瞳を持つ可憐な、正に聖女というような風貌であった。
しかし、現在ここに居る彼女は、手入れされずあちこちはねた髪にジト目、そして覇気がなくアンニュイな雰囲気を纏っていた。
彼女を呼び出した大神官は口を開いた。
「アレティリヤ、貴方はこの神殿から追放という事になりました」
「はぁ」
アレティリヤは生返事であった。だが、内心舞い上がった。遂に、否、ようやくこの時が来たかと。
「貴方について、以前から良くない報告は上がっていました。聖女としての仕事を放棄していたそうですね」
「はぁ」
事実ではない。
神殿に嫌気が差しつつも、与えられた仕事はこなしていた。
だが、アレティリヤ反論しない。彼女は魔力量が平均より少ない為、他の聖女と比べて仕事をしていないと悪意を持って報告されれば、どうしようもない。
「それに加え、今回、次の大聖女を決める大事な時期に他の候補者への度が過ぎた嫌がらせ行為の報告が多数ありました。証言も確認し、証拠も提出されています。貴方の処分を求める者の声も増え、看過出来なくなりました」
「ほぉ」
これも事実ではない。だが、やはり、アレティリヤは否定しない。
むしろ、彼女は他の候補者達から嫌がらせを受けていた。嘘の報告したのも証拠を提出したのも彼らだろう。
「貴方の婚約者であるリカルドは貴方の事を諫められなかった自分が悪いと気に病んでいましたよ」
「あ゛?」
リカルドというのはアレティリヤの婚約者で上級神官だ。大聖女候補に選ばれると、神殿の優秀な神官と婚約させられる。
彼は名家の出身で、それなりに整った容姿をしている。何故自分の婚約者が魔力の少ない者なのかと不満な様子で、いつも上から目線で彼女を見下し、顔を合わせると嫌味ばかり言ってくる男だった。
「候補者は先代大聖女様が選んだ者達。本来であれば追放という処分も我々が決められるものではありません。しかし、大聖女様亡き今、上級聖女、上級神官と協議した結果、大神官である私が決定を下す事になりました」
「へぇー」
心底どうでもいいというような返事である。実際、大分前から彼女はもう何もかもが、どうでもよくなっていた。
「貴方が心を入れ替え、もう一度やり直したいというなら機会を与えたいと考えていましたが……態度も悪く、反省も無いようですね」
「うーっす」
「明日の朝までに荷物をまとめここを出なさい。貴方は追放です。勿論、リカルドとの婚約は無かった事になります。そして今後、国内で貴方が聖魔法を使用する事を禁じます。聖魔法を使用しないで済む仕事を紹介しましょう」
「へーい」
「あぁ、その前に貴方の聖女としての最後の仕事があります。この書類の中から、貴方に替わる大聖女候補を指名して下さい。」
アレティリヤは渡された紙を見る。3名の上級聖女と10名の聖女の名前が連ねられていた。
「何で代わりを指名っすか、つーか何でこの13人なんですか」
「大聖女候補の追放というのは前例のない事です。世間に広まれば、追放される候補を指名した先代大聖女様本人だけでなく神殿に疑問を持つ者も現れるでしょう。協議した結果、貴方を追放するならば、アレティリヤという大聖女候補者はいなかった、今回追放されるのはただの聖女アレティリヤとする事になりました。大聖女候補は公にはされていませんから、神殿内の者に箝口令を布けば候補者が入れ替わっても問題ありません。その13名は大聖女様が候補を決める時、最終段階まで残っていた者達です」
「ふーん」
確かに大聖女候補者が追放となれば、大事になるだろう。彼女も面倒な事態に巻き込まれたくはない。前々から自分という候補者を排除しようとする動きがあったのは感づいていたので、この様な扱いでも構わなかった。
「なら、そっちが代わりの候補者を指名すりゃ良いんでは」
「大聖女様が決めた候補者を変更するのは問題だと言う聖女や神官達もいるのです」
「ふーん、折衷案か」
大聖女に選ばれた候補であった者が自らの後任にと指名するならば、先代大聖女様のご意思を無下にしていないと言い切るのだろう。
しかし、最終段階で残っていた13名というのが嘘であるという事をアレティリヤは分かっていた。彼女が候補者になった後に神殿に来た者の名があったからだ。先代大聖女の意思を無視し、己の推薦した者を大聖女にしたいと考える輩がいるのは明らかだった。
神に与えられた聖魔法を扱う神聖な存在などと自称しながら、くだらない神殿内政治に明け暮れるのは今に始まった事ではないとはいえアレティリヤはうんざりした。
「じゃあ、まずミネデア。こいつは無し」
ミネデアは目の前の大神官の娘だ。彼は表には出さないが動揺した。
「貴方の追放を最終的に決定したのが私だから、ですか?次の大聖女候補決めるにあたって、その様な逆恨みで外すというのは感心しません。選定はそれぞれの功績や普段の素行を鑑み、あくまで公平に行って下さい」
「別に恨んでねぇから安心しろ」
「ならば何故。ミネデアは優秀で多くの者から慕われている。貴方とミネデアは同期で友人しょう。ミネデアは以前、同期は皆友人だと言っていましたよ」
その一言を聞いた瞬間、アレティリヤの顔に浮かんだのは、とてつもない嫌悪であった。あまりの迫力に大神官は気圧され、何も言えなくなった。
彼女はそれから暫く不機嫌そうに書類を見詰め、何かを考えていたが、ふと顔を上げ息を吸い、大きなため息を吐いた。
「この国から出るのも悪くないか……」
ぽつりと誰に言うでもなく呟いた。その一言に大神官は答える。
「光魔法の使い手としてなら十分やっていけるでしょう。隣国までの旅費だけならば支援します」
聖魔法と光魔法は同じものだが、クラルスでは違うとされている。女神の加護を受けたクラルスの聖魔法は、その他の国の光魔法よりも優れているという主張である。
アレティリヤは相変わらず馬鹿々々しいなと心の中で笑った。それよりも隣国までの旅費という言葉が気に入らない。どうせこの国を出るのならば、なるべく遠くへ行きたい。
「ケチだなぁ、そっちの思惑通り大人しく出てってやろうってのに。……なぁ、お前の娘を候補に指名してやるっつったら、どうする?」
大神官の眉がわずかに動いた。




