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幸運のチケットをあなたに

 魔王を討ち倒した勇者の一団。あとは王都へ凱旋するだけ、繁栄が約束された一行は、野営地でただただ恐怖に打ち震えていた。月光に煌めく麗しい銀色の長髪は炎よりも尚妖しく揺らめき、顔を隠した桃色のベールが風で靡く。一瞬垣間見た口元は……笑っている――ような気がした。


 うふふふふふふふふふふふふふふふ


 顔を覆うベールと同じ色のドレスまとった女性、母性的で官能的な外見と裏腹に、その声色は不気味で可憐で、得体の知れない恐怖を与えてくる。魔王を討った矜持も自信も、目の前に顕現する超自然的災害を想起させる女性を前にすれば一変する。


 この女は、下手をすれば世界を滅ぼそうと魔軍を用いた魔王よりも――


 兎に角得体が知れない。ただただ気味が悪い。神経を鷲づかみにされた様な精神の不調が襲い、眩暈が襲い、身体へ伝播し、剣を握る手が大きく震える。リーダーの男が精悍な顔を恐怖で歪ませ、剣先を女性へと突き付けた。だが女性は意にも介さない。カーテシ-で挨拶し、宣言した。


『 取り立てに参りました 』


 笑い声と同じく、鈴の音を思わせる可憐さと、幻聴を思わせる不気味さを混合させた声色が耳朶じだを打つ。


『 幸運の対価は一割複利 事前に我が主がお伝えした通りです 』


「我が主……あのガキか!?」


『 殺しますよ? 』


 リーダーの一言に、女性から ぶわり と覇気が漏れ出し、月光に輝く銀髪が禍々しく天を焼く。


『 〝異世界で勇者になりたい〟……純粋に魔王を討つ行動を取っていれば30日で終わったはずです 』


『 そうすればあなたは救国の英雄として悠々(ゆうゆう)凱旋し 残りの幸福で快適な余生も送れたでしょう 』


『 力に酔いすぎましたね 2年間 さぞ幸福でしたでしょう? 』


「何なんだよ!何だってんだ!これだろ!?このチケットだろ!返すよ!返すからよ!」


『 ええ お返し頂きます あなた達の〝幸運〟をもってして 』


 パチン とフィンガースナップが響いた。



 ●



 パチン とフィンガースナップが響いた。

 

 水狩高校2年生、虹橋真央は乾いた音で目を醒ます。


「ここは……。」


「いらっしゃいませ。」


 目が醒めた先は、なんともチグハグな店だった。


 真央は、ひとりぼっちの自宅で陰鬱とコンビニ酒を呑む気分でもなかった。なので街へ出たが、行きつけた酒屋は出入り禁止になったので、新規開拓と場末の酒場で憂さ晴らしでもしようと考えていた。


 ……上記で解るように虹橋真央とは、俗に言う不良少女だった。


「あんたここの店主?」


「はい。ええっと、御新規様ですね。」


 目の前に居るのは、店主バーテンダーの格好をした、少年?だった。未成年……それも声変わりすらしていない年齢にさえ見え、実際に会話すると少年なのか少女なのか解らない声をしている。顔立ちも中性的で、何処かオドオドとした様子は庇護欲さえくすぐられる。


「えっと……何?ヤバイ店?」


 ぼったくりBARに入ってしまった先輩の体験談が脳裏に過ぎる。自分が言うのも変だが、18歳未満立ち入り禁止なのに、軒並ぶ酒瓶を背にした店主が明らかに立ち入り禁止該当者なのは色々な行政機関が黙っていないのではないだろうか?


「ヤバイ……確か凄いって意味でしたよね。はい!そうです!ヤバイ店です!それはもうヤバイ店です!」


 今すぐ踵を返して扉を出るべきだろう。完全に麻痺してしまっている虹橋の脳内警報がけたたましい程鳴り響いている。だが同時に――甘い危なさを感じた。


 崩れかけた吊り橋の先に金塊があるような……。ハイリスクの先にリターンがあるような、甘い毒にも似た危うさを、この違和感を具現化したような酒場と少年に見た。


「で、何がどうヤバイんだ?マスター。」


 カウンターの席に座り、虹橋はそれでも首を下げなければ目が合わない少年店主に声掛ける。


「はい、この店ではヤバイチケットを売っております。」


 乾いた笑いさえこみ上げてくる。今度仲間と集まった時、話のタネになるだろうか。そんな気持ちから、虹橋は席に座り少年の話を聞くことにした。

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