8部屋目 リズムは盤石
――――――――――――――――――――
◆追加ルール◆
・制限時間は1問60秒
(水時計1つ10秒)
・使った水時計1つにつき、オシリスと薫
チームが1か所ずつ、タイルの置き場を封
じる
・タイルは過不足なく入れること
・薫チームがトートの文字数以上なら、
タイル5つ追加+次問の選択権
・届かなければオシリスが選ぶ。彼も
届かなければ、選べる問題に制限あり
・現在の使用可能タイル
ABCDEFGHIJKLM
NOPQRSTUVWXYZ
1234567890
――――――――――――――――――――
トート神が、パピルスの巻物を各自に配ってくれた。
「今回の追加ルールです。ネットへの掲載も、状況が進むたびに更新します」
※:助かる
※:10秒、ヨシ!
※:トート神の仕事は絶対です
「なお、これより、挑戦者たちへの外部情報を制限します。視聴者コメントですが、オシリスから【精神感応】で禁止の言葉を指定されるので、それを匂わすような表現は見えなくなります。――とはいえ、たくさんあると処理が大変なので、コメントする方々はお手柔らかにお願いします。なにぶん、電子デバイスのモデレーターは初心者なので」
※:初心者……?
※:ま…まああんたほどの神がそういうのなら………
※:この検閲抜けれたヤツおる?
※:モチロンいねーよw
「フッフッフッフ、トートの補足も終わったようだし、始めるとしよう。アヌビスよ、用意はいいか?」
オシリスが隅の水時計に目配せすると、そこに立つ屈強な犬頭の男性が「はい」と重々しくうなずいた。
「よし、準備万端整ったな。では、第1問」
「2問目です」
即座の訂正に、オシリスはズッこけた。
「トート……、お前さあ」
「千桜汐音が権利を行使済みのため、これは2問目です」
「わかった、2問目な」
「なお、解答扱いであって本当に答えたのではないため、私の答え以上というわけでもありません。平常時に問題を選ぶ権利は、今までどおりオシリスです」
「わかった! よかった!」
オシリスは、何かすごく疲れていた。
「ふぅっ、では気を取り直して……。問題名、『キロクじいさんは大家族』」
――おっと、集中だ。
「キロクじいさんは、大きな無人島を買って、そこに1人だけで住んでいるが、誕生日だけは家族を呼んで盛大に祝っている」
ふむふむ。
「さて、キロクじいさんの家族だが、子供は6人いる」
うん。
「孫は、6×6人いる」
36。
「ひ孫は、6×6×6人いる」
216。
「玄孫は、6×6×6×6人いる」
1296。
「子、孫、ひ孫、玄孫、そして親類縁者を含めて、島の誕生日会に船で行った人数は、6×6×6×6×6人いる」
7776。
「さて問題。島の誕生日会に集まった人数は、何人?」
――肩透かしじゃなく、ストレートな計算問題だった。
「ああ、一度聞いただけでは難しければ、トートのパピルスの続きを見てくれ。今の問題が浮き出てきたハズだ。それでは……、解答始め!」
オシリスが手を叩くと、アヌビス神が最初の水時計をぐるりと引っ繰り返した。
「7776ね」
猪尾さんが話の口火を切った。
「6の5乗よ、島に行った人数は」
「うん。そこに『キロクじいさん自身』を足して、7が4つだね。おじいさんは元々島にいたから」
「よっしゃ、7のフォーカードだな!」
羽織袴にスニーカーのQが、右側の数字タイルに大股で走っていった。
※:7777777
※:殿! 殿中でござる!
※:すべてが7になる
※:ななななー、ななななー
「――あれ?」
「んむ? どうした薫や?」
「おかしい……。7が見えてる」
4連続以上の7なんてコメント、トート神が素通しするわけない。
つまり、オシリスは禁止ワードに指定してないんだ。
「でも、どうして……?」
「うぉい! ヤベェ!」
Qが叫んだ。
「7が! 3枚しかねえ!!」
「――えっ!?」
僕らも大急ぎで数字タイルに向かった。
「Q、どっかに隠されてない!?」
「いま別のタイルも調べてる! だがダメだ! 裏面にも書かれてねえ! 数字はどうやら全部3つずつだ!!」
7をジニーに持ってもらい、僕らも大急ぎで他の数字タイルを引っ繰り返した。
その結果。
「7が、ない……!」
「フッフッフッフ。――ああ、すでに予もトートも記入済みだ。もう、答えてくれて構わんぞ?」
※:またかよコイツ!!
※:バレなきゃあイカサマじゃあねえんだぜ……………
※:いや、でも流石に用意されてるよな?
※:↑完全になきゃトキ様が止めるべ
――そう、絶対答えはある。イヤな確信がある。
Qはアルファベット側の裏面を調べにいった。僕は部屋を見回してタイルが落ちてないか、猪尾さんはタイルの側面に書いてないかをチェックし始める。――きっと違うと思いながら。
「ねえ、みんな!」
天秤から千桜さんが声を上げた。
「今、パピルスを見てたんだけど! 上下引っ繰り返した7って、Lじゃない!?」
「え?」
「文字だと微妙に違うけど! あたし動けないから、チェックしてみてー!」
「――それだァ!!!」
今度はアルファベットのタイルに殺到した。ジニーの持った7に、QがつかんだLを逆さにして見比べる。
「チクショウ! 同じだ!!」
Qが7を3枚、そしてLを1枚羽根の上皿に放り込んだ。
「7777!」
その途端、オシリスが拍手した。
「フッフッフッフ、正解だ。48秒か……、水時計が5つ沈んでいったな」
その言葉どおり、答えを入れても5つ目の水時計は止まらず、最後まで流れ落ちた。
オシリスは、スッとパピルスを出す。
「もちろん、予の答えも7が4つだ」
「私も同じです。薫チームには、追加のタイル5つと、次問の選択権が与えられます」
※:よくもまあオシリスは、いけシャアシャアと……!
※:ライオンがNO17も商標取ってたよな
※:「私は7です」
※:ジニーさんたち、見えていますでしょうか……? わたし、気になりますっ!
「んむ。ライオンから下は、今見えるようになったわ」
「『7です』も、ずっと言ってましたか? じゃあ、今のが最初です」
※:ぐわああああ!
※:トート印のファイアウォールつえー!
※:待って、ミームに叡知使わせないでw
「フッフッフッフ……。では、文字の制限に移ろう。予が指定する5文字は、A、E、I、O、Uだ」
「ぐっ……」
ガコン、と巨石が鳴った。
A、E、I、O、Uの置き場が、タイルごと石の中へと沈んでいく。
「さあ、薫? 君らも指定せよ」
※:母音消すとか、緑のたぬき親父超ガチやん!
※:もう少しこう何というか、手心というか…
※:あれ、コレもうマトモな単語作れないんじゃね?
※:↑天狗「判断が遅い」
コメントからもアルファベットが消えてる。――そっか、文字指定のヒントになるからだ。
ここは重要だからシッカリ話し合いたいけど、「何を警戒してるか」が筒抜けになるな……。
(薫や)
ジニーが僕のスカートを軽く引っ張った。
(ワシが今、パーティー全員に【精神感応】を繋いだぞい)
(え? ――それ、負荷は大丈夫?)
(ぬふふ……。ヤバイぐらいに全集中)
(あぁ、やっぱり)
(じゃが、どうせ今のワシはアイデアが出せぬ。そこの緑も披露したんじゃ、ワシだってやってやるわ)
(――ありがとう、ジニー)
僕はオシリスから見えないようにパピルスを広げた。
(じゃあ早速だけど。数字は温存で、英和辞典の少ないページから消そうと思うんだ)
(オホホ、薫子様~? 7だけは消せるわよ~?)
(あ、そっか。ありがとう、千桜さん)
(えへへ……)
(そんじゃあ相棒。残りは後ろから、ZYXWだな)
(――ねえ。Z、W、Q、Jじゃダメかしら)
(ふぇ? クーニャン、XとYを飛ばしちゃうの?)
(ええ。母音を消されたから、長い単語はムリでしょ? なら、代数の問題に備えて、XとYを残した方がいいハズよ)
(――そうだね。猪尾さんの案でいこう)
僕はオシリスに向き直った。
「こちらの指定は、7、Z、W、Q、Jです」
「ふむ、Qを封印か。ならば、Q次郎も封印かな?」
「待てや、オシリス」
「フッフッフッフ、冗談だ……おや?」
猪尾さんが手を挙げた。
「オシリス様。今から我々は、どのタイルが一緒の扱いなのか、調べたく存じます」
「ほお。手短に頼むぞ」
一礼した猪尾さんは、次に天秤の中央を向いた。
「ではトート様。調査時間の短縮のため、7とLのように、互いに代用できるタイルをお教え願いますか?」
「わかりました。今回は、6と9、0とOも互換性があります」
「Iと1などは違うのですか?」
「他は、全て別タイルです」
「ありがとうございます」
オシリスは鼻白んだ。
「やれやれ、トートに聞けば確実かい? 油断のならない子猫だね」
「急に英語に変えたり、タイル数を3セットだけになさる神様がお相手ですから」
――さすがは猪尾さん。確認の段取りがスムーズだ。
「そして、私はたしかに小柄ですが、『愛嬌があってカワイイ子猫』ではなく、『孤高でクールな女豹』を目指しております」
「ほお。ならば昨日までの愛想は何かな、〈聖女〉よ?」
猪尾さんはオシリスを見据えた。
「私は、幼い頃に父を亡くしました。それで、少しでも母の負担を減らすため、大手のダンジョン会社であるマンダンに所属したんです。白魔道士の顧客は、優しい対応を心掛けた方が増えました。仕事として金銭を受け取る以上、徹するのは当然ですよね?」
「ふむ。そしてさらに名を売るため、昨日、菊知パーティー入りしたと。――今日リタイアさせたら、予はとんでもない邪神だな」
「あら、それって手加減の匂わせですか? その気なんてカケラもないでしょうに」
※:うわ
※:バチバチやん
※:神をも恐れぬ毒魔道士
「では、特典の実行です」
タイルを5つ上皿に入れたトート神の手に、今度は小さな水時計が現れた。
「次の3問目ですが、これより、あなた達のパピルスに『まだ答えられる問題』の一覧が出ます。水が落ちきる60秒の間に選んで下さい」
「わかりました」
トート神がゆっくり反転させると、パピルスに題名が表示された。
――ちょうど10個か。激減したね。
・1904年ノーベル生理学医学賞受賞
・1908年の車
・1985年の娯楽
・2023年の情報
・9つの星
・紀元前っておはなし
・辞書の見出し
・人類最初の女性
・大国
・母音ぬきでやろう
すぐにジニーが【精神感応】を繋いでくれた。
(僕が確実に正解できそうなのは1個かな。みんなは?)
猪尾さん以外は首を横に振った。
(私も、最後の「母音ぬき」ぐらいね。たぶん子音で単語を作るハズよ)
(何文字いける? 僕は4)
(私も4よ)
(うーん……。トート様が5文字以上なら、ボーナスは取れないか)
選択肢を見るに、計算問題は最初から外されていたらしい。
(なァ、優等生ども。年表シリーズはピンとこねえのか? ノーベル賞とかよお)
(ムチャ言わないで。これって多分、問題まで英語圏向けだわ。題名だけじゃ、何を聞かれるか分からないもの)
僕は天秤を見た。視線に気付いた囚われのお姫様は、嬉しそうに両手を振ってくれる。
(千桜さん、大丈夫?)
(えへへ……難しいことはお任せで、ひたすらパワー充填中)
ほんわかした明るさに、猪尾さんはため息を吐いた。
(シィポンは、緊張感が続かないわね……)
(ふぇ?)
(いえ、いいのよ。それがあなたの良さよね)
(――へっ、難しく考え過ぎてたな。要は答えさせなきゃいいんだろ?)
(奇遇ね、ナメクジさん。私も仕掛けるつもりだったわ)
確認した結果、まずはQ次郎、それから猪尾さんに任せることとした。
「トート様。僕らは『母音ぬきでやろう』を選択します」
「わかりました。では、オシリスに3問目として読んでもらいますが……、その前に」
Q次郎を手で示した。
「握ったタイルを戻して下さい、滑川久次郎。問題が終わる前に投げた場合、水時計をゼロで済ませてしまえるので」
「ダメか?」
「はい。タイルに触れるのは、オシリスが手を叩いてからです。私とオシリスには、最低でも水時計1つ分の解答時間が与えられます」
「ちっ、ゼロで完封はムリか」
「フッフッフッフ。トートの前で小賢しい手は使えんぞ?」
※:おまいう
※:ホンマこいつさあ……
※:【天罰】撃ったら消えそうな小物さよ
「では、3問目といくか。ふむ……、『AEIOUの5文字を使わずに名詞を作れ。ただし複数形はのぞく』か。いたってシンプルだな。――おっと、君ら自身が制限した文字も使わぬようにな? それでは、解答始め!」
オシリスが手を叩くや、猪尾さんがサッとタイルを集めて上皿に入れた。
「はい、LYNX。意味はオオヤマネコよ」
「む!?」
「鳴き声って、こう? アオォン! アオォン!」
「な!? ええい、10秒黙っていろ!」
※:聖女エグッw
※:(集中)させねえよ?
※:緑「アオアオ言うのをやめなさい!」(泣
※:とか言ってるうちに、しゅーりょー!
鳴き真似と落水音が消え、一気に静まり返った空間で、オシリスはフーッと天井を見上げた。
「書けなかった……」
※:うはっw
※:効いてる効いてる
※:好き放題やった報いで草
「ああ……いや。一応書いたんだが、気の利いた単語じゃなくてな。ほら、ピラミッドは大きな墳墓だが、TOMBでOはダメだろ? そこで、礼拝や納骨にまつわる言葉を、なんとか絞り出したのさ」
オシリスはパピルスを反転させた。
「『地下聖堂』という意味の、CRYPTだ。覚えて帰るがいい」
――5文字!?
※:ぎやあああああ!
※:やっべ!
※:小芝居フザッけんなー!!
※:あれ? つかコレ終わったんじゃ……
「フッフッフッフ。いいや、まだ終わってないぞ? 今から予と薫が1文字ずつ消す。その後、予が好きな問題を選ぶわけだ。――そう、答えを封じた問題も含めた中から、1問な」
うぐっ……。
「当然、君らは答えられない。60秒突き抜けで、今度は6文字ずつ消すわけだ。なぁに、合わせて14文字消えるだけさ」
無理だ……問題が壊滅する!!
「フッフッフッフ。実にカワイイ作戦だったぞ、〈聖女〉くるみ? 即答からの鳴き真似で、リズムを乱すのはな」
「くっ……」
「だが残念、予のリズムは盤石だったのだ。――それではトート、さらりと答えて、このパイロットの魂をもらうとしようか」
「リズム」
「ん? ああそうだ、リズムだよ、リズム。相手のリズムを崩し、自分のリズムを保つ。何より大事さ」
「いえ、オシリス」
トートがパピルスを見せた。
「私の解答が、RHYTHMです。R・H・Y・T・H・M。6文字です」
「――なに?」
ん?
「予は、5文字?」
「はい」
「トートは、6文字?」
「はい」
トート神が、オシリスを温かい目で見た。
「リズムは盤石……でしたか? ――ええ、大事ですね、オシリス」
「げぶっはぁああああああ!」
観戦コメント
プリズム:ざーまああああぁぁぁーーーっ!!!www
rhythmっち:お手本のようなイキりからの転落
Polyリズム:げにおそろしきは集合知よ
※:しつもーん、途中でオシリス神が5文字出したとき「やられたフリのコメしろ」って何でなん?
2ヒリズム:↑オシリスにもトートウォール効いてるからやでw




