13部屋目 男の娘っていつもファンボーイですね
夜。
僕は自宅で、10年前の動画を見ていた。
『ジョー、いけるか!?』
『うん! 大丈夫!』
『丈一ちゃーん! 危なくなったらお母さんに言うのよー!』
『へいきへいきー!』
夜の砂浜で戯れる家族のようだが、れっきとした108の挑戦動画である。
小さな兄貴と、それをサポートする両親がとても眩しくて、いつも目を細めてしまう。とりわけ、海辺に立ち並ぶロウソク岩を背にした兄貴が、大きな亀を派手に倒すラストは涙が堪えきれなくなる。
この動画から5日後に、父さんと母さんは行ったきりになった。活き活きと動く直接の姿は、もはや脳裏にもない。
手がかりを求めて、いろんな動画を見過ぎてしまったから。
「――薫よ」
「なに、ジニー?」
「オシリスの話を言うておく」
「え」
気持ちを切り替えて向き直った。
「どんな内容?」
「んむ。精霊界にブッ飛ばす直前のあやつが、こっそりと【精神感応】を送ってきおったのよ。『フッフッフッフ。本当は予が認めても良かったが、緑か黒がメインで、薫の活かせる色ではないからな。青への加護ならば、トートの方が適任だろう』とかカッコつけてな」
「えっ? じゃあ、最後の拒否って……」
僕たちは、あくまでも[神に認められし者]の称号が必要だったから、度外視していた。
しかし当然、加護は合致した色が望ましいわけで。
「実はアレ、調整してくれてたの?」
「あやつの小芝居じゃと信じるならの。『なぜワシに恩着せがましく言う?』と問うたら、『予が特定の人間を贔屓してると知られるのはよろしくない。とくに、その人間自身にはな』とかホザいとった。――くっわ~! なんじゃ、そのマイルールは! 絶対あやつ、ワシが悩んだ挙げ句バラすことまで計算済みだったじゃろー!」
「あはは。――うん。オシリス様、冥加に余る光栄です」
姿勢を正した僕は、深々と頭を下げた。
「そうだ、ジニー。明日だけど、813の下見って本当に大丈夫?」
「汐音のアタッカー性能を見極めたいでの。桐山とウニッコも引き連れて、軽~くピクニックじゃ」
「あれ? 桐山さんってたしか、最終日だけのハズじゃ……」
「ワシが笑顔でお願いしたら、快く予定を変えてくれたぞい?」
「うーん、不憫」
でもおかげで、パーティー編成は豪華になった。
赤Aの前衛に、青SS、紫SS、そして茶SSSのサポート陣。
「ランク平均が、僕らの最終日メンバーよりよっぽど高いよ」
「くふ。名目こそ偵察じゃが……、倒してしまっても構わんのじゃろう?」
「危なくなったら撤退してね」
「心得た」
僕らはコツンとグータッチした。
◆ ◆ ◆
翌朝。
108にアタックする学生隊員の3人は、グレーのブレザーとスラックス姿で武蔵小山駅に集まった。
「菊知くん? 私も男子の制服でいいのね?」
「うん」
「へっ。すこぶる似合ってるぜ、くるみ」
「感謝しとくわ、ナメクジさん」
※:カラーリングの統一か
※:いぶし銀のゲストも参加やしな
※:男装バッチリよ~、薫子様も~
※:(目を覚ませ……元から男や……)
僕らは数分歩いたのち、水車門から林試の森公園へと入っていった。倒木したユーカリとは反対側の広場に行くと、ぽつんと2階建てのマンションがある。
「おはよう、薫くんたち」
マンション前では、ダークグレーのスーツに、レザーの指ぬきグローブを合わせたミツオ隊長が出迎えてくれた。
「【連結】は済ませたから、廊下側から行こうか」
「お願いします、ミツオさん」
エレベーターに乗り込み、ミツオさんが「異世界」を押し、続けて1、0、0、「決定」と入力すると、転移が始まった。
※:安定の廊下スタートか
※:廊下開放って7割が条件だっけ?
※:そそ、同じ階を70部屋クリア
※:カメの大激怒にはエレベーターの外置き必須やでぇ
到着すると、高級ホテルの内装もかくやという、豪華なロの字型マンションの一角に出た。外界の様子は一切見えない代わりに、広々とした中庭がある。そこには、バイオリンを弾く姿のまま石化した、ローブ姿の骸骨像があった。
※:しのぶ党はスルーでごわす
※:穏便に忍び足で通過
※:なんの、忍びなら充雄殿にもおわせられるぞ!
「ンねぇ、薫?」
ミツオさんの胸ポケットから、銀の忍び装束をまとった精霊、【繁縷】が顔を出した。
「今日の敵って、余裕パターンとノーマルと大激怒の3つがあるじゃん。薫なら2つめまでを選びそうなのに、なんで大激怒なの?」
「後半の安定度が段違いだからね。ただ……」
僕は頭をかいた。
「相手を年齢で怒らせる必要があって、そこは気が進まないかな」
「へっ。相棒も俺も、挑発はてんでダメだからな~。大好きなバーミリオン様をウッカリ褒めちまったりしねえか、今から不安だぜ」
※:はい嘘松w
※:テメーはピッチのどっからでも煽れるやろ
※:暴言のファンタジスタ
※:レッドで一発退場やん草
僕らは「101~150→」という案内板に沿って108まで歩くと、そこのドアを開けた。
――湿り気を帯びた空気。「表」よりもひんやりしてるね。
室内には、岩礁の多い群青色の海と、月光を帯びてもなお深い漆黒の空とが広がっていた。
※:成功や! >裏モード
※:月が綺麗ですね(口説き文句)
※:オシリス倒した甲斐があったな
※:(なお加護はトート
――まずは、第一関門クリアかな。
看板を見ると、すでに2つの条件は埋まっている。
――――――――――――――――――――
108 夜空に満ちる月
・30体の精霊をアストラルに送る
・玄武をひっくり返す
――――――――――――――――――――
目指す条件は2つめ。四神最強の霊獣を仰向けにすることだ。
と、そのとき。
「こんばんは~」
海岸に立ち並ぶ海食柱の1つに、10才ほどの褐色の女児が立っていた。長い銀髪と尖った耳は神秘的なダークエルフを想起させるが、如何せん幼い。黒地に金の亀を刺繍した妖艶なチャイナドレスも、かえって背伸びした可愛らしさを感じさせる。
しかし、大胆なスリットからは、尻尾のような黒蛇の頭がチロチロと見えており、底知れぬ怪異の片鱗をも窺わせた。
「ようこそ、[神に認められし者]さん? ワタシと遊びましょ?」
「へっ。これが『バブみ』ってやつか、くるみ?」
「知らないわよ」
「ふーん、まァいいさ。玄武バアさんよ、幼児プレイは他所でやってくれ」
Qが指を鳴らすと、【勿忘草】が空中にホログラムのコメントを大写しにした。
※:バッバァーン!(登場音
※:若作りBBA無理すんな!
※:ツルは万年、カメは百万年
※:玄武ばあさんアンタなにやってまんねん
※:よっ、BBA100万才!!
「どうだー、お婆ちゃん!? もうちょい文字サイズを大っきくするかー!?」
「――ふふっ。親切っぽくも横柄な振る舞い……。そういうの、慇懃無礼って言うのよ?」
「ほほーお、センキュー! まーたひとつお利口さんになっちまった。さっすが、亀の甲より年の劫! ――あ、悪い。亀を蔑ろにしたワケじゃねえんだぜ? むしろ逆よ、逆。大々々々々好きだぜ、100万才のおバアちゃ~ん?」
※:無礼さが底なし沼で草
※:こいつはくせえッー! ナメクジのにおいがプンプンするぜッ――――ッ!!
※:煽りSSSランク
※:(ただし自分は4ぬw
「ふ、ふふっ……。立て板に水のごとくな罵倒ねぇ……。ワタシも水にはウルサイのよ、ピチピチの若造ちゃん?」
「ほほ~お。なら自分のお肌ぐらい潤わせればどうだ、しわしわのババァちゃん?」
「――死ぬまで溺れなさい、ワタシの魅力に!」
玄武がサッと手を挙げるや、海から大波が押し寄せてきた。浜に打ち付けた波が勢いよく引くと、そこには水棲妖馬と水の人型精霊が大量出現している。
「へっ、とんだ水芸だぜ」
お手上げポーズのQは、フ~ッと頭を振ったのち。
「ミツオ先生、お願いします!」
「どぉれー……って、Qくん何させるんだい」
「きゃー、先生カッコイイ!」
ミツオさんが入れ替わりで前に立ち、Qはすたこら僕らの所まで下がってきた。
※:ナメクジYOEEE~w
※:久々にミッチー前衛か
※:薫子様が剣聖パパにおねだりしたらしい
※:ニーズを知ってる男の娘……大しゅき(はぁと
ミツオさんは軽く手を上げた。
「じゃあ、【武器作成】2回から始めようか」
虚空に剣を2本生成して両手に握るや、コメントが殺到する。
※:キタキター、脱法・草薙剣! さらに倍!!
※:スーツと日本刀ッ! この世にこれほど相性のいいものがあるだろうかッ!?
※:復活ッ!! 〈†夢幻の剣聖†〉復活ッッ!!
※:↑やめてさしあげろw
「はっはは……。ま、前衛は久々なんで、ちょっと試し振りさせてね」
はにかむミツオさんは、左右の剣を幾度か振ってみせた。
※:ハ~ッ、伝説の帰還やでぇ~(●REC
※:いくつになっても男子は刀を振り回すのが好きだろう?
※:↑大好きです、今度はウソじゃないっす
※:草薙剣――ヤマタノオロチを倒して出た神器。コピーのモノホンは宮内庁が管理中。
※:ダンジョン産を本物言うのはNG(過激派)
「よし。じゃあいこうか」
ウォーミングアップを終えたミツオさんは、後方のウンディーネに勢いよく草薙剣を投げた。
ドスッ! ボシュー。
一撃でアストラルに還したが、にわかに眷属が騒ぎだす。お返しとばかりに、足の早いケルピーが迫ってきた。
「【水晶球】」
ミツオさんは15cm大の半透明なボールを出した。
「【無敵の盾】」
パキーン!
突進してきたケルピーに、盾つきのボールをブツけて勢いごと止める。すかさず草薙剣で切りかかるも、折悪しく首振りで弾かれてしまう。
「なら、コッチで」
再び左手に出した草薙剣で、サクッとひと突き。
ヒヒーン……! ボシュー。
いななきだけを残し、ケルピーは還っていった。
※:はえーよ【武器作成】w
※:草薙の効果はザコ一撃だから、そら作りまくるわ
※:クリティカルで即4させて、その効果すら待たねえのが鬼w
※:いともたやすく行われるえげつない生成
戦場を縦横無尽に駆け回るミツオさんは、軽やかに投げ付けつつ、その時ごとに突出している一体へと近付いては危なげなく還していった。
※:多コピー鬼つええ! けど味気ねえ!!w
※:無双はあるけど剣劇がねぇんだよなー
※:ミッチー先生……チャンバラが見たいです……(泣
※:↑お前は誰なんだよw
およそ半数を倒したミツオさんは、【水晶球】に呼び掛けた。
「聖女さん。敵はどのあたりに多いかな?」
『右前方、2時の方角です』
「ありがとう」
互いに撮影・通話できる特性を活かし、僕ら3人はドアの前に浮遊した【水晶球】の近くで待機。猪尾さんは【生命感知】で精霊の位置を伝えていった。
「アラアラ、随分と手際がいいわね~」
玄武がまばらに拍手した。
「駆け回るアナタ、剣の投擲がとってもチャーミングよ~……? けれど、もう時間切れ」
スッと満月を指差す。
「今宵は水が満ちるのも早いの。【大海嘯】」
指先の青い光が弾けると、沖から怒濤の勢いで海水が押し寄せてきた。四神の膨大な魔力量もあってか、見る間に部屋全域の水位を迫り上げる。
※:うわ早ぇ!
※:まだ10体以上いるぞ!?
※:バーさん怒らせ過ぎちゃったねえ
※:間に合うかコレー!?
「母なる海……。そう、生物は海から進化して、多様性を見せたワケ。これほど摩訶不思議な変容を、亀と蛇の化身が語るなんて、とってもロマンチックじゃない?」
※:ちょっとなに言ってるか分からない
※:両の眼で見てきたBBAだ、言葉の重みが違う
※:ええっ、ジュラシックパークを見たんスか!
※:↑待て、それは俺も見た
ミツオさんは、靴が浸かるなかザブザブと中央に移動した。ケルピーとウンディーネには移動制限がなく、むしろ水を得た魚のごとく速くなる。もはや正面から剣を投げても躱されてしまうだろう。
※:ヤベエエエェーーーーー!
※:万策尽きたーっ!!
※:もうダメだぁ・・・オシマイだぁ
※:久々の前衛で腕もサビてたんだー!(暴言)
ミツオさんは自身に【無敵の盾】を張ると、胸ポケットから銀の忍びを宙に放った。
「繁縷、タイミングは任せたよ」
「承知!」
四方八方から眷属が殺到するなか、繁縷は腰に吊した剣山からサッと待ち針を抜いた。
「【戻る武器】!」
その途端、今まで散らばっていた数多の草薙剣がザバァッと水上に浮き、ミツオさんに向かって飛来する。
ザクザクザクザクーッ!!
肉薄するケルピーとウンディーネの群れへと残らず突き刺さった。繁縷がレイピアの如くヒュンヒュンと待ち針を振り、腰の剣山に深く刺す。底部に仕込んだ金属板にカチンと当たるや。
ボボボボボボシューッ。
草薙剣の判定が入り、精霊たちは鮮やかに全滅。
※:うおおおおおおーーーっ!!!
※:細工は流々―――
※:お美事にございまする!
※:え~ぇ、ミッチー先生は、しごできイケオジだと信じてました~(揉み手)
ミツオさんは、眷属たちのアストラル行きを油断なく見届けてから、全ての草薙剣を消した。
「ふぅっ。こんなトコでどうかな、薫くん?」
『最高です!!』
元組合長のミツオさんは、今なおチャーミングな〈†剣聖†〉でした。
リスナー感想
※:薫子様ニッコニコw
※:前衛ミッチーのファンボーイだもんねえ(しみじみ)
※:これで全盛期より運動量落ちてるからな
※:そら脳灼かれるわ




