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セティルド・エル・シシュナの昔の思い出

みなさんこんにちは春咲菜花です!タイトルが「メッチャツオイ王国の国民ですが、自分達目線の話も知ってもらいたいです」だから、セティルドの話をしていいのかと悩みましたが、「番外編だし、メッチャツオイ王国にいるからいっか!!」という結論に至りました。賛否の賛は受け付けますが、否は受け付けません!

少し前に十二歳になった僕は、お忍びで城下に来ていた。

最近、第一王子である兄が落ちこぼれと言われ始めたことにより、第二王子である僕にみんなからの期待がのしかかった。

正直しんどいけど、僕がここで逃げたらセレーネ達にこの期待が行くと思って、誰にも相談できず、逃げることもできずに退屈していた。


「すまない、フォーカス。旅行中に……」

「フォーカス、すぐに戻るから動かずに待っててね」


そう言いながら、二人の貴族の夫婦がカフェから慌てて出ていった。

旅行……?

もしかして他国の人かな。

僕は好奇心でそのカフェの中に入った。

すると、さっきの夫婦に似た少年が、ジュースを飲みながら退屈そうに外を見ていた。


「……ねぇ、君、いま暇?」

「え?」


僕が声をかけるとその子は僕を見た。

僕は椅子に座った。


「ちょっと退屈してたんだ。チェスでもやらない?」

「……うん」


少年は少し戸惑いながらも頷いた。

声はまだ幼いのに、目だけが妙に落ち着いている。


「僕はセティ……」


名乗りかけて、慌てて口をつぐんだ。

今はお忍びだ。

軽々しく本名を言うわけにはいかない。


「……セティでいいよ」


とっさにそう言うと、少年は不思議そうに首をかしげたけれど、深くは追及しなかった。


「僕はフォーカス。よろしくね」


そう言って差し出された手を僕はそっと握る。

温かい。

城の中で交わす握手とは違う、なんでもない子どもの手だ。

僕はカバンからさっき買ったちょっと高めのチェスセットを出した。


「先手どうする?」

「そっちからでいいよ」


フォーカスは気軽に言った。

駒を動かす。

カッ、という小さな音が響く。

最初の数手で僕はすぐに分かった。

強い。

駒の置き方に迷いがない。

考え込む時間は短いのに、ちゃんと全体を見ている。


「……っ」


気づけば僕は本気になっていた。

王族としてじゃない。

第二王子としてでもない。

ただのセティとして、負けたくないと思っていた。

数十分後。


「チェックメイト」


僕はフォーカスとのチェスに勝利した。

そう告げた瞬間、自分でも驚くくらい胸が高鳴っていた。

フォーカスは盤面をじっと見つめ、それから大きく息を吐いた。


「……参った」


悔しそうなのにどこか楽しそうだ。


「君、強いね」


その言葉に、胸の奥が少しだけ温かくなる。

強いと言われることには慣れているはずだった。

剣も、学問も、礼儀も。


「第二王子は優秀だ」


そう何度も言われてきた。

でも今の強いは違う。

王族だからじゃない。

期待されているからでもない。

ただ、目の前の少年が自分の力を認めてくれた。

それだけだった。


「もう一回やる?」


僕が訊くと、フォーカスはにやっと笑った。


「当然。次は俺が勝つ」


二戦目はさらに白熱した。

さっきよりも駒のぶつかる音が鋭い。

フォーカスは負けてからのほうが強かった。

さっきの敗因をちゃんと理解して、修正してくる。


「…………」


僕は少し焦った。

けど楽しい。

こんなに、誰かと真正面から勝負するのは久しぶりだ。

城ではみんな僕に遠慮する。

負かしてもどこか引いているし、勝たせようとする者もいる。

でもフォーカスは違う。

本気で勝ちに来ている。

数手後。


「……チェック」


フォーカスが静かに言った。

僕は盤面を見つめる。

読みを一つ誤った。

いや、まだ頑張ればなんとかなるか……。

数分後。


「チェックメイト」


今度は僕のキングが倒れた。

フォーカスはぱっと顔を上げる。


「よっしゃ!」


思わず立ち上がるその姿に、僕は吹き出してしまった。


「……なに笑ってんだよ」

「いや……」


笑いが止まらない。

こんなふうに、ただ勝った負けたで一喜一憂するなんて。

肩書きも、期待も、重圧も、何も関係ない。

ただ、盤の上の駒だけがすべて。


「ねぇ、君さ、チェス好きだろ」


僕は少し考えてから、キングの駒を指でつまんだ。


「……好きだよ」


木の感触が指先に馴染む。


「チェスも、このキングも」

「キング?なんで?」


僕は少し迷ってから、ぽつりとこぼした。


「最後まで盤に立ってるだろ?みんなをうまく動かして相手に勝つために」


フォーカスは黙って聞いている。


「僕もそうなりたいんだ。みんなが安心できるような……そんな人に」


言い終わってから、胸が少し痛んだ。

本当はならなきゃいけないのだ。

兄上が落ちこぼれと呼ばれ始めた今、僕が期待に応えなければ、矛先はきっとセレーネ達に向く。

逃げたいなんて言えない。

フォーカスは数秒黙ったあと、あっさり言った。


「なれるよ」


僕は思わず顔を上げた。

フォーカスは優しい顔で言った。


「だって君、チェス強いもん。チェスの強さはプレイヤーの強さ。勝ちたいって思ってる人は強くなる」


理屈なんてない。

でも、その言葉は、城の誰の励ましよりも真っ直ぐだった。

そのとき、カフェの扉が勢いよく開いた。


「フォーカス!」


両親らしき二人が駆け寄ってくる。


「すまない、待たせたな」


フォーカスは慌てて立ち上がる。


「またどっかで会えたらさ、続きやろうぜ」


そう言って、手を差し出した。

僕はその手を握る。


「……うん。約束」


フォーカスが去ったあと、僕はしばらく盤を見つめていた。

キングの駒をそっと持ち上げる。


――なれるよ


その言葉を、何度も胸の中で反芻する。

第二王子としてじゃない。

誰かの代わりでもない。

ただのセティとして、いつかもう一度、あの少年と本気で盤を挟める日が来るなら。

その時、胸を張っていられる自分でありたい。

――おまけ


「うっ!お腹が……」

「フォーカス?体調が悪いの?」

「うん……。今日は観光はやめておくよ……。父上と母上で行ってきて」

「本当に大丈夫?」

「うん、心配しないで」


僕は自分が思い描いた人に見える結界を自分にまとい、フォーカスになりすまして仮病を使った。

僕はフォーカスがいるであろう部屋の扉を勢いよく開けた。


「フォーカス!チェスやろ!!」

「え?セティ……!?なんでここに……」

「色々!そんなことよりチェスやろう!」

「ごめん、今日は観光する予定だから……」

「あ、君になりすまして、仮病使って両親をお見送りしたから大丈夫!チェスしよ!」

「……は?」

「チェスしよう!チェス!チェス!」

「で…………出てけぇぇぇぇぇええええ!!」

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