セラフィー・ゼア・メッチャツオイの表情筋
「セラフィーお兄様って表情筋死んでますよね」
俺の妹、リディールがそう言った。
失礼すぎるが、自分でも表情豊かとは言えないから、否定はしない。
否定はしないが、肯定される筋合いもない。
「死んでない。省エネなだけだ」
そう返すと、リディールは心底どうでもよさそうに肩をすくめた。
「はいはい。省エネ省エネ。王都で一番感情を節約してる人」
「それは褒めているのか」
「事実を述べてるだけ」
明らかにバカにした様子に、俺はため息をついた。
妹にこう言わせるほど俺の表情は微動だにしない。
俺もエルディーやアルカのように表情豊かでいたかった。
だが、どうしても長らく横になっていた俺の表情筋はカチカチなってしまったのだ。
リディールは俺の口の端を両人差し指で押し上げた。
「うわっ、驚くほど動かないですね」
「不躾にも程があるだろう」
そう言ってリディールの手を軽く払うと、彼女はむしろ楽しそうに目を細めた。
「だって、ほんとに石像みたいなんですもん。王城の中庭に置いても違和感ないですよ」
「それはさすがに言い過ぎだ」
「じゃあせめて、今ここで一回笑ってみてください」
無茶を言う。
笑えと言われて笑えるなら、苦労はしていない。
俺はしばらく黙り込み、意識的に口角へ力を入れてみた。
……入れている、つもりだ。
しかし、リディールの反応がやけに悪い。
「うーん」
リディールは首を傾げ、俺の顔を覗き込む。
「変化量は誤差ですね」
「そこはもう少し気を遣え」
「安心してください。お兄様が無表情なの、今さら誰も気にしてませんから」
それが慰めになると思っているのなら、大間違いだ。
だが、妹の言葉に悪意がないことも分かっている。
俺は椅子に深く腰掛け、天井を見上げた。
「お兄様」
俺はリディールに呼ばれ、俺はリディールの顔を見た。
リディールは優しく微笑んで俺を見ている。
「エルディーお兄様にも、アルカお兄様にもない、無愛想さが私が好きです。エルディーお兄様にも、アルカお兄様にもない特徴です!」
ああ、この子は眩しいな。
「……そうか」
俺が言うと、リディールは俺の顔を信じられないと言うような顔で見て、また優しく笑った。




