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たどりびと ~記憶のかけらに触れる時~  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
3章 わがままな勇気が結ぶもの

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3章13話 再会の先に


「詩音……? なんでここに、それに……もしかしてそっちにいるの、楽と茜、なの?」


 声は歳を取らない。そんな、今ではない知識を思い出す。だが確かに聞き覚えのある声が目の前の女性から発せられて、俺の中のかつての姉の容姿と重なった。


(……歳、取ったな)


 久しぶりに会ったというのに、いや、久しぶりに会ったからだろうか。

 俺の胸中に訪れたのは、そんな何の感慨もない感想で。


「お母さん、その……僕」


 詩音が隣で、恐る恐るかける声を聞いていた。

 だが、それに対する、母親である奏音の反応はとても寂しそうで、しかし、何かを恐れているようなもので。


「…………何で、どうして来ちゃったの? 帰って…………帰りなさい」


 口を開いて出てきたその拒絶の言葉に、詩音が身体をビクッとさせたのがわかった。


「おかあ、さん?」


 それでも、詩音は奏音に近づこうとして、それに、奏音は明らかにビクッとする。


「っ! …………駄目、来ないで、帰って」


 どこか苦しそうに、奏音が言葉を絞り出すように言った。近づこうとして、拒否される。それは、特に詩音にとっては心を切り裂くような行動であるのは想像に余りある。俺が文句を言おうとするが、その前に――――。


「……ごめんなさい!」


「詩音!」


「楽はここに居て! 私が追いかける……もう一度連れてくるから、楽はっ!」


 顔を歪めて走り去る詩音を、茜がそう言って追いかける。

 そして、俺はもう一度奏音を、姉を睨みつけるようにして、気付いた。


「……なんで、なぁ姉貴? なんでだよ!?」


 俺の口から、問いがこぼれる。

 少し声を荒げる形になるのを、止められなかった。


 奏音の瞳からは、涙がこぼれ落ちていた。

 何かをこらえるようにして、歯を食いしばって。


「楽……あんたも大きくなったね」


 それに対して、問いには答えず、そんな事を言う姉に、俺は詰め寄るようにして言った。


「姉貴……答えろよ? 何なんだよ一体。俺はてっきり、連絡も出来ないような状態なのかばかり」


 俺と茜は、奏音のことを信じていた。

 病院で会ったということ。会いに行けない、連絡もしないということ。

 もしかしたら、病院で入院をしていて、最悪の場合だって考えていた。


 なのに、いざ運良く、でも頑張って足を使って見つけた姉は、普通に働いて暮らしていて。

 詩音を、子供をあんな風に遠ざけるような事をして。


「…………ごめんね、ありがと、ね」


「そんな言葉が聞きてぇんじゃねぇってんだよ! 正直姉貴が元気そうなのは良かったとも思ってるよ! だけどよ、何でだ? なんでなんだよ? 詩音を預けて、何も話さねぇでよ。何普通に暮らしてんだよ!?」


 俺の叫ぶような声が、店の裏の奥まった駐車場に、響いた。


「詩音のことは、もう忘れたいの。きっと、あんたと、おじいちゃんならちゃんと育ててくれる」


「はぁ? 何いってんだよ」


 気付いた時には、俺の手が奏音の胸ぐらを掴んでいた。

 感情が抑えられなかったのか、それとも奏音の言葉に焦りを感じたのか。普段なら決してしないような乱暴な行動に、自分でも驚く。

 子供の頃はまだ見上げていた背丈は、俺の首までくらいしかなかった。なのに、たった今まで、どこか自分の中で姉は大きな存在のままだったようで。


「―――――あ」


 そして、その勢いで、奏音のバッグからスマホが滑り落ちる。衝撃で割れたりはしなかったが、それよりも俺の目を離さないものがあった。


「…………これ」


 ロック画面。

 そこにあったのは、沢山の写真が集められた一つのポートレートだった。

 詩音の、詩音と二人の。

 生まれてから成長していく写真。


「良かった、割れてない」


 それを見て固まった俺の手をそっとはがすようにして、奏音はそれを大事に拾い上げた。


「すまん……カッとなった」


 目を離せないまま、奏音のつぶやきに、俺はそう謝る。


「ううん、あたしが悪いから…………ごめんね、駄目なお姉ちゃんで。駄目な、母親で」


 それに首を振って、奏音は言った。

 違う。そうじゃねぇだろ。

 俺は、再びそう叫びたい気持ちを押さえて、言葉を紡いだ。


「……なぁ姉貴、話してくれよ、今、姉貴はどうなってんだ? 何なんだよ一体」


「…………」


 奏音は、何も答えなかった。

 それに俺は、再び声を掛ける。


「少なくとも姉貴は、駄目な姉じゃなかったよ……それに、詩音を見てりゃわかる。駄目な母親でも、多分、ねぇよ」


 俺が目を奪われたのは、決して詩音の写真で埋められていたからではない。

 子どもの写真。確かに成長のポートレートにまでしているのは珍しいのかも知れないが、それ自体は親であるなら画面にしているのは頷けた。


 俺が、何だよ、といった理由。それは写真ではない。

 画面の真ん中、写真と写真の間に、まるで毎日見返すようにして加工されたテキスト。

 白抜きの文字で、そこにはこう書かれていた。


 忘れない、忘れるな――――と。



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