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たどりびと ~記憶のかけらに触れる時~  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
3章 わがままな勇気が結ぶもの

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3章10話 東京へ


 車内は静かで、詩音の寝息だけがかすかに聞こえる。

 俺はハンドルを握りながら、これから起こることを考えていた。姉貴に会えるのか、会えないのか。もし会えたとしても、彼女がどういう状況なのか、何を考えているのか、全く見当がつかない。でも、それでも行くしかない。詩音が望んでいることだし、俺自身も姉貴に会いたいという気持ちがある。


「寝ちゃったみたいだね」


「あぁ、自分で気づいてなかったのかもしれねぇけど、あれから少し、寝付きも悪かったみたいだからな……ありがとな、俺一人じゃ正直会話的にも、移動的にも、色々大変だった」


 後ろをそっと確認して、詩音が寝ているのを確認して小声で呟く茜に、俺はそう感謝を告げた。

 こうして運転できている事も、あちらに行ってからの足場的な意味でも、茜が居なかった場合はこんなに気分が楽でいることはできなかっただろうと思う。


「ふふ、いいってこと……無事にさ、会えると良いね」


「あぁ」


 茜の言葉に、俺は頷いた。そんな俺に対して、茜は少しだけ迷ったような素振りを見せて、口を開く。


「楽はさ……どう思ってる?」


 主語はなく、具体的でもなかった。

 それでも、何のことを言っているかは伝わる。ちょうど今、お互いに無言になった時間で、同じような事を考えていたのだろう、そう思って俺は考えながら答えた。


「あまりいい想像は、正直してねぇな……姉貴は奔放であったし自由じゃあったけど、無責任ってわけじゃなかった」


「うん」


 俺と茜が知っている久我山奏音という人間は、俺達が中学生に上がるまで、8年も前の記憶だ。きっと時間が経つにつれて、環境によって人は変わっていくものだとも思っている。

 だが――――。


「最初は、姉貴もか、ってちょっと思うこともあったんだわ……」


()?」


 話しているようで、どこか独り言のようにもなってしまった俺の言葉に、茜が怪訝そうに尋ねて、俺は自分の言葉を思い返して補足する。


「わりぃ。そうだな、言葉が足りなかった。俺と姉貴があの家に来る前の、な」


「……あぁ」


 孤児院にいたのは、何も俺や姉貴のように事故で身寄りを失った人間ばかりではなかった。むしろ、そちらのほうが少なかったとも言える。

 その場所にいた人間は、俺の知る限り、家族を忌避するか、想像できないか、それとも求めるか、だった。

 だから最初は、姉貴が家族を求めて、そして……違ったのかと思った。

 

「でもなぁ、詩音から聞いてても、愛情が無かったとは思えねぇし、それに、俺の知ってる姉貴はな……」


 そう言いながら、俺は後ろから少し速度の早い車が来たのに気づいて言葉を切った。しかし、その先を言わなくても茜も同じ考えだったようで。


「……私も同じ。奏音さんが詩音くんをすっごい可愛がってる姿はさ、見てないけど思い浮かぶし、きっとそうだったんじゃないかなって思う」


「だよな」


「それに私もわかんないけれどさ、やっぱり子ども育てるのって大変で、あれだけいい子に育ってるのは、やっぱりちゃんとしてたからだと思うし……奏音さんって、自由なところはあったけれど、自分勝手でも無責任でもなかった」


 姉弟であった俺とはまた別の距離感で、茜は姉貴と仲が良かった。


「あまり想像できねぇんだよな」


「うん」


「……まぁ、子供生んで育ててる姉貴を想像できるかっていると、出来てなかったけど。詩音と二人仲良く暮らしている姿は、何だか今ならイメージ湧くっつーか――――」


 そこで、再び俺は言葉を切る。

 今度は、その先を口にするのが少しだけ、怖いという感情によるものだった。

 そんな俺に、茜は前を向いたまま、ポツリと続けた。


「まぁ、詩音くんを楽達に預けて、連絡しないっていう理由は、中々思いつかないよね」


 何故? を考えていくと、恵美子さんが出会った場所を思うと、どうしてもネガティブな原因しか思いつかない。

 俺達の知る姉貴の性格、詩音からきく母親像、きちんと育てられている詩音の所作。それぞれからの現状は、連絡をしないのではなく、出来ない理由があると考えるのが普通で。そして、その理由がわからないまま連れて行って良いのだろうか?


 何度辿ったかわからないそんな思考の中で、バックミラー越しに、詩音を見る。


 それでも結局のところ、詩音が会いたいと言った時、躊躇なく承諾できた自分がいた。正しいかどうかはわからない、でも、多分そうしなければきっと後悔して、後味が悪くなることは明白で。


「なぁ茜」


「うん?」


 そして、俺が悩みながらも、詩音にお願いされた時には何でもないように即答してみせられたのは、隣に座ってくれている茜のおかげで。だから、俺は再び少しだけ口を開いた。


「サンキュ、な」


「さっきも聞いたよ?」


「これは別口だ」


「ふふ……わかった、受け取っとく」


 また再び、車内に静寂が戻る。

 流れる景色が、山間やまあいから、少しだけ開けた場所になり始めて、目的地へと近づいたことを、ナビが告げた。


 後部座席では、まだ詩音が静かな寝息を立てている。

 これから起こることは誰にもわからない。だが、この子の為にも、良き巡り合いとなることを、心の中で信じてもいない神に、俺は祈った。


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