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たどりびと ~記憶のかけらに触れる時~  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
3章 わがままな勇気が結ぶもの

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3章1話 迷子の迷子のおばあさん


「茜、今日これからちょっと飲み行くけどどう? シス法だけじゃなくて他の学部の子も来るみたいだけど」


「あー、私パス。こないだも面倒だったし」


 友人の智美ともみに誘われて、私がそう答えると、まぁそうだよねと言わんばかりに彼女は続けた。


「まぁそうよね。一応誘った体裁ていさいたもったし、何でって聞かれたらいい感じに話しとくわ。というかあんたが幼馴染とくっつけばもう少しマシになるかもよ? フリーだと知られたら余計に面倒でしょ?」


「……善処する」


 高校生の時からの友人の智美ともみには、色々と知られているので、素直に私は頷く。


「あんたらもさ、流石に高校の間にくっつくと思ってたら仲いいのに進展もなくて……」


「うう、だってさぁ」


「まぁそれなりに頑張ってはいるよね。ほんとならあっちから言えよって言いたいところなんだけど…………これで、中学の時のやらかしさえなけりゃね」


「言わないで……もう戻れるならあの頃に戻って自分をはたきたい」


 智美ともみのからかうような口調の、でもしみじみとした言葉に私はうなだれた。そうなのだ。詩音くんに以前話した楽への気持ち。これまで持ち続けているそれには全く偽りはないものの、茜にも思春期や反抗期というものは人並みにあったわけで――――。


「……ま、久我山にも家庭事情とか色々あるしね。|一度振られたみたいになった《・・・・・・・・・・・・・》相手には中々難しいわよね」


 そうなのだ。

 忘れもしない。忘れたくて仕方ない。無かったことにしたい中学時代のこと。


 小学校の時から心身ともに成長して、それと同時に楽と共にいる時間が少なくなっていた。男は男と、女は女と。

 なんだか気恥ずかしさからそう生活圏が分かれて、一緒に帰るだけでも目立つようになった頃。太っていた茜はすくすくと成長した結果急にモテるようになったこともあってか、色々とからかわれるようになっていたのだ。

 そして、あまりにもしつこかったため、それを振り払うように叫んでしまったのだ。


『別に楽……久我山とは幼馴染っていうだけで何もないから、いい加減いろいろ言わないでよ』


 好きと言う気持ちが、周りの目や煩わしさ、気恥ずかしさに負けたあの頃の事を、今でも茜は悔いている。そして最悪だったのは、それが楽の耳にもきちんと入った結果。


『何か色々面倒かけてわりぃな。ちゃんと幼馴染だからって俺も周りに宣言しとくからよ。安心しろな、茜』


 そう言われて、平気な顔をしてしまった自分と、家に帰って大泣きしてしまった自分。どれも大学生となった今となっては――――。


(いや、完全にやり直したいけどね、今でも悶えたくなるけどね。でもそもそも楽が私のことどう思っているかも)


 結局のところ、自信がないのだ。

 楽が茜のことを、幼馴染としか思っていなかったら。

 もし告白をして、「茜のことは幼馴染としてしか見れない」とか言われてしまったら。

 今の気軽に家にも行けて、連絡もできて、出かけることだってできる距離すら許されなくなってしまったら。


「――――かね? 茜?」


「あ、ごめん智美ともみ! ぼーっとしてた」


「嘘吐きなさいって。ごめんごめん私のせいでもあるね、完全に思い出した後の変な反省後悔モードだったでしょ!?」


「うう、ごめーん」


 智美ともみにそう言われて、私は手を合わせて感謝と謝罪を告げた。

 

「ふふ、まぁいいわ。それに茜達のペースで行けばいいと思うしね。ビビってないで頑張んなさいよ! じゃあまた来週ね」


「うん、ほんといつもありがと」


 そう言って智美と別れ、いつも通りの帰り道を進むべく、大学の門をくぐる。今日は帰りに買い物をして帰らないとということで、大学の駐車場に車で来ていた。そして、鍵を取り出したところで、ふとその先の道路を見て私はそれに気づく。


(あれ……? 危なくない……?)


 信号が赤になりそうなところを、おばあさんがきょろきょろとしながら歩いている。車の通りが多いということはないが、おばあさんは何かを探しているようで信号を確認している様子はなかった。


「……ちょ、ちょっとおばあさん??」


 完全に赤になってなお、更に、道路の真ん中に足を踏み出したおばあさんを見て、慌てて私は走り寄る。こういう時に底の平たいスニーカーを履いていて良かった。


「あら? こんにちは、そんなに急いでどうされたかしら?」


 とても穏やかで、気品のある方だった。物言いもとても柔らかな声色で――――。ではなく!


「急に声かけてすみません! でも今赤信号です!」


「あら? あらら……? まぁ、大変」


「すみません、なのでひとまず腕を失礼しますね」


 私はそう言って、一度左右を見て車の通りがないことを確認して、おばあさんの歩幅に気をつけながら元の位置に戻ってほっと息をついた。


「ごめんなさいねぇ。そしてありがとう。ちょっと娘とはぐれてしまって……あら、もしかして貴女は私の知り合いだったかしら?」


 深々と頭を下げてお礼を言ってくれるおばあさんは、改めて見ても上品な老婦人という感じで、とても良い歳のとり方をされているように見える。


「いえ……知り合いではないと思います。私は、南野茜と言います、事故が無くてよかったです!」


 私がそう答えると、おばあさんは微笑んで、そして告げた。


「あらご丁寧にありがとう。私は加納かのう恵美子えみこと言います。この度は本当に助かったわ」


「いえいえ、とんでもないです! ところで娘さんとはぐれてしまったっていうことですけど、おうちはどちらの方ですか? 迷惑でなければ、私ご一緒しますよ」


 先ほど歩いている感じだと足腰は大丈夫そうだが、先程信号を見落としていたのを考えるとこのままさようならをするのは少し気にかかる。

 お人好しだと言われてしまう所以ゆえんかもしれないが、放っておけないという気持ちがまさった。

 だが、その後に聞いた言葉想像していなかったもので。


「…………それが、ごめんなさいねぇ。どうしても自分の家の場所が思い出せなくて。こんなの、どうかしているわよねぇ。大丈夫よ、こんな見ず知らずの方にご迷惑をおかけするわけには―――――」


「大丈夫です、お手伝いさせて下さい」


 そして、何よりおばあさんの表情がとても切なげで、私はそれを見て咄嗟にそんな言葉を告げていた。



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