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王弟殿下キルバード



今から40年以上前の話

先代の王は王妃と側妃を持っていた。


王と王妃は幼馴染であり、男女を超えた友情で結ばれ、お互いあまり恋愛感情を持っていなかった。

2人で力を合わせて国を良くしよう。

お互い気の合う仕事のパートナーだった。


だがある日、王は下級貴族である男爵家の娘に恋をした。

初めての恋

王妃と相談し側妃として迎えることになった。


王の寵愛は側妃に向かう。

王妃はあまり気にしていないが、周りは王妃が蔑ろにされていると噂がたつ


そんな中側妃が身籠った。

生まれたのは男の子だった。

第一王子の誕生に国中はお祝いムードに包まれる

だが王宮内は不穏な空気が包まれていた

王子を産んだ側妃である我が主人こそ王妃に相応しい、

側室の子など後継者に相応しくない

王妃との間に子をなすべきだ


だがそんな声を賢才と別名をもつ王妃が黙らせる

国をまとめるためのパートナーは私である。

だが側妃の子は歴とした王の子。

大切な後継者、そのことにとやかくいうものは私の前に来なさい。


威厳のあるその声に

王宮内はすぐに静まった。


王と王妃が国をまとめ、側妃は子供の教育を行った。


だが、たった1人の王子として育ったためか、側妃の教育のせいなのかわからないが、王子は少しわがままで傲慢な性格に育ってしまった。


そんな王子ではあるが大きな病気をすることもなくスクスクと育っていった。



王子が14歳の時

国で猛威を振るう感染病に側妃がかかってしまい亡くなった。


国中が悲しみに包まれる中

特にひどくショックを受けたのは王だった。


悲しくて悲しくて

そして王は悲しみを埋めるために初めて王妃に手を出した。


そしてその一回で王妃はなんと子を身籠った。

生まれたのはまた王子。

だが王子を産んで程なくして衰退により王妃が亡くなってしまったのだ。


王はさらなる悲しみにに心身ともに弱り数年後に床に伏せ、まだ18歳の第一王子に王位を譲ってしまった。


わがままで傲慢な王子が新王となると王宮中が不満をもった

だがその不満も権力の前では無力

反抗するものを片っ端から牢屋へ送り、ひどい時は死刑にするのだ

程なくして誰も新王に何も言わなくなった。


新王の王政はさらにひどくなる。

金使いも粗く、すぐに国のお金はそこを尽きた。

だが尽きた分は税金を引き上げることでお金を増やす

貴族以外の下層部の人たちが反抗しようものなら即死刑


そんな、王政をすすめるなか、新王20歳の時に新王妃の間に1人の男の子が生まれた。


それを喜んでいた新王だがふっとある問題に気がついた。


自分の後継者は息子がいい、

だが現在の王位継承権では王子より王弟が上であった


王妃の子である王弟はまだ5歳と幼いので新王はどうでもいい存在だったが

息子よりも権力がある王弟を許すことができなかった。


新王はすぐさま王弟を殺す計画を考える。


王弟は王宮の離れで、数人の使用人と騎士見習いの護衛とともにこっそり生活していた。

まだ幼いが人を惹きつける不思議な魅力があり、誰もが王弟を大切に思っていた。


そんな使用人の1人が新王の計画を事前に知った。

すぐに王弟を逃すため新王の目を欺く作戦を立てる。


王弟は病にかかりなくなった。

そうウソをついたのだ

下層部で飢え死にしていた同じ年頃の子供の死体を持込、新王に見せてそう伝えた。


新王は王弟のことを気に掛けたことはなく、どんな容姿をしていたのかはよく覚えていなかったので、その作戦はうまくいった。


本当の王弟は騎士見習いとともに下層部で暮らすことになったとは新王は知るよしもなかった。



それがキル…キルバードだった。



************


「アマネさん?」


「あっ、ごめん…なに?」


賑やかになった下層部…いや新たな王によりこの地域の名前も変わり商業層と名付けられたこの場所でアマネとマリーは一緒に歩いていた。


まだ裏路地は危ないが、それでも活気あふれたその通りには今、新たな王を祝してお祭りが開かれている。


大通りには様々な出店が出ており、今日はマリーに誘われて出店巡りをしていた。


マリーは嬉しそうにはしゃいで、美味しそうなものを見つければ2人で分けながら食べ。かわいいアクセサリーのお店を覗いて目を輝かせ、面白そうなものを見ては笑った。

アマネも楽しんでいるがキルのことをふっと思い出しては上の空になってしまうのだ。





あの日…王宮から助けられたあの日からキルと会っていない。


キルが人々に宣言したあと2人で少し話をしどういうことなのか聞いた。




隠された王弟で少し前から騎士団と裏で手を組み革命を計画していたこと


あのネックレスは王の証であり、資格あるもののみが触れることができ身につけるとその者の髪色に変化する魔術具であったこと


そして、今後のこと…


「俺は下層部での現状を許せないと思った。だから色々考えてこの国の王となることに決めた、驚かせて悪かったな」


「驚いたよ….本当に」


まだアマネは混乱しながらもそう答えるとキルは表情を緩める


「これからは…ほとんど会うことができなくなるが、アマネはアマネらしく過ごしてくれ、俺はお前が幸せに暮らせるように王として頑張るから」


そういうとそっとキルはアマネの頭を撫でた。


「じゃあな…」


そういってキルはアマネを振り返ることなくその場から去っていた。


その後ろ姿をアマネは見送ることしかできなかった。


あの時なんで自分は何も言えなかったのだろう

そんなことをいつも考えていた。


キルが決めたこと、最後にみた黒色の瞳は決意を固めた瞳だった。


だから本当は頑張ってと言って応援しなきゃいけないのにあの時そう言えなかった。


なんでなんだろう…?


「…アマネさん、そこでお茶しません?」

「あっ、うん!いいよ!いこう!」

マリーがすぐ近くにあるカフェを指さしてそう言った。

アマネは我に返りその提案にうなづき一緒にカフェにはいった。


「アマネさん、なにか悩みごとですか?」

「えっ?」

お茶が運ばれてくると向かいに座ったマリーが真剣な目つきでアマネに聞いた。


「私じゃ頼りないかもしれませんが、いつもアマネさんに助けられてばかりで、なにか力になりたいんです!」

「…ありがとうマリーちゃん、そうだね…じゃあちょっと聞いてくれる?」

「はい!」

そういうとマリーは嬉しそうに力一杯うなづいた。

「フフッ…悩みというか後悔みたいな感じなんだけどね…」

可愛い仕草に癒されながらアマネは自分のことを話しだす

「ずっと隣で一緒にいた大切な人が頑張るって決意しているのに素直に応援してあげる言葉をかけられなかったんだ…本当に大変な仕事であいつしか出来ない…それなのになぜか最後言葉がでなかった。応援してあげないといけないのに何も言ってあげられなかった。」

「…それで後悔しているのですか?」

「そんな感じ、どうしようもないことだよね。」

アマネはなんでもないようにヘラっと笑う。

だがマリーは真面目な顔で考え込む

「…アマネさん。」

「ん?なに?」

「それは寂しいってことでは?」

「寂しい?」

「えぇ、大変な仕事をするその人の隣にいることができなくなるから素直に応援できなかったのではないのでしょうか?」

寂しい…

そう言われるとその言葉がしっくりときた。

そうだ、寂しいのだ…いつも隣で一緒に仕事をしているのが当たり前だった。


「…そうなのかもしれないけど、それでもあいつしかできない仕事を応援してあげられないなんて私は最低だよ…」

「…それなんですが…本当にその人しか出来ない仕事なんですか?」

「えっ?」

「すいません。その人の仕事がなんなのか私は知りませんけど、近くで手伝うことはできるのではないですか?」

マリーはそういうと少しあたりを見まわし声を小さくしてこっそり教えてくれた。

「実は私…食堂で働いていますが、全く料理ができないんです…」

「えっ?」

突然の告白にアマネは驚く


「最初はおばさんに教えてもらってやってみたのですが…どうやら料理の才能ゼロみたいでして…」

そう言って恥ずかしそうに顔を赤らめる

確かにマリーはいつもホールで料理を出している姿しか見たことがないことをアマネは思い出した。


「食堂で仕事してるのに料理ができないことに落ち込んでいたらおぼさんにいわれたんです。

出来ないことは仕方ないから食堂を盛り上げるために他のことでマリーは私を手伝ってって…だから私は接客をすることにしたんです。

…その…アマネさんがいっているその人の仕事も同じようになにか他の方法で一緒に手伝う方法はないのでしょうか?」


他の方法…

アマネは目の前のお茶をじっと見つめマリーの言葉について考え込む


キルが国王として国を助ける仕事をするなら

その隣に立って一緒に仕事ができる立場になればいい


そのための方法は……


「やってみよう…」

アマネは小さくそうつぶやくと顔をあげマリーの方を向いた。


「やってみるよマリーちゃん!あいつの隣に居たいから…頑張ってみる!」

「はい!!」




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