第九話 魔力制御スキルが欲しいです。
スイーツを堪能してルナティアとディアナは夕方屋敷に戻ってきた。
リビングではゼルスとセシリアが今か今かと帰りを待っていた。
「只今帰りました。」
屋敷のフロアにルナティアの元気な声が響き渡る。
「ルナティア。
帰ったか。
待っていたぞ。
どうであった?」
「うん。
楽しくなりそうなの。」
今日の出来事や学校での友達との出会いであったり楽しそうにルナティアは話して聞かせた。
ゼルスとセシリアも我が子の成長に目頭が熱くなる思いだった。
その日は疲れもあってか、ルナティアは早めに就寝することにした。
そして、次の朝。
いつものように朝早く起きて日が登る前に日課の礼拝に向かった。
聖堂は静まりかえって厳かな空気が満ちている。
「天空神ホーラスよ。
昨日は学校で入学式がありました。
沢山の人達と出会えた事、シャーリンと言う友達が出来た事、先生に魔力制御の方法を教えていただけた事、そして、今日を無事に迎えられた事に感謝致します。
今日も人を愛し、敬い、出逢いに感謝しつつ過ごしてまいります。」
心を穏やかに保ちつつ30分ほど膝跨いて祈りを捧げた。
礼拝を終えると最近は魔法の使い方を独自で練習している。
何を練習しているかと言うと、魔法の新規構築を試みている。
魔法とは想像力を具現化したものだとするならば、想像できる事は魔法にできると言うのが、ルナティアの理論である。
今構築しているのは『飛翔魔法』になる。
魔法による浮遊、飛翔は未だ確立されていない。
乗り物でもない限り飛ぶ事ができない。
風魔法は空気を操作する魔法なので、飛翔魔法は相性がいい筈。
先ず試みたのは地面方向に風魔法を打つ事で浮上するかだが、これは失敗だった。
「飛び上がると言うなら、浮遊を先になんとかしないとダメね。」
浮遊には魔力変換による重力制御が最も可能性としてありそうなのだが。
「重力って地上に引っ張られているのよね。
それなら反発する力を作れば浮くのかしら。」
魔力を放出エネルギーに変換して自分に球体の魔力スペースを構築。
これには成功。
後は放出エネルギーを地上に向けて多く流す。
「浮いた!」
地上から1メートル程浮いた。
だが、放出エネルギーを魔力変換し続けるのは、制御するのがかなり難しい。
「浮いたけど、制御するのに膨大な意識集中が必要で使い物にならないわ。」
この日は浮いた事を成果として納得する事にした。
「やっぱり制御スキルが必要だわ。」
暫くするとゼルスがいつもの庭に現れた。
「ルナティア。
おはよう。」
「お父様。
おはよう。」
「そうだな。
ルナティアは何か私に聞きたい事はあるか?
何でもいいぞ。
これから魔法の事を学んでいくにあたってでもいいぞ。」
「ん〜、昨日担任のハルニベル先生が制御スキルについて教えてくれたんだけど。
制御魔法やスキルについて教えてほしい。」
今自分に必要なものとして制御スキルはとても気になるところである。
「制御スキルか。
スキルは魔法と違って使うと言うよりは感覚的なものを担うものだ。
無意識下で思考や肉体的感覚、神経系統の伝達などを担ってくれる。
大抵のものは取得に条件がある。
例えば毒耐性スキルなら毒に耐える事により耐性を得る。
ルナティアは魔力制御スキルが気になるのだろう。
ならば、自分の魔力をとことん制御し続ければスキルが取得出来るかもしれんな。」
「先生がくれた一覧でもお父様がおしゃった様な事が書かれてた。」
ゼルスにもらった紙を見せた。
「なるほど。
先生に期待されている様だな。
ルナティアは魔力が高い。
それだけに制御スキルは必須と言えるだろうな。
一つだけ我が家系に伝えられるスキルがある。
それを習得してみるか?」
制御スキルが一覧となっている紙をルナティアに返すと一冊の魔導書を収納バックから取り出した。
「我が家系に伝わるスキル『虚空の一全』アルティメットスキル《ソートスワールド》
このスキルは空間制御、時間制御、魔法制御スキルを有する究極のスキル。
だが、まだ誰も取得できた者は居ないスキルだ。」
「そんなの要らない。」
平然とキッパリ分かりやすいくらい興味のない顔をしてながら、プイッと可愛らしく顔を背けて見せた。
「ソートスワールドは血統で取得出来る唯一無二のスキルなんだぞ。」
あまりにも素早く否定されたのでゼルスは驚いている。
「知ってます。
お兄様やお姉様から散々聞かされてるから。」
兄弟全員が成人を迎えた段階でゼルスにこの話を聞かされているのだ。
故にルナティアは兄達が成人を迎えるたびに自慢げに聞かされていたのだ。
「そ、そうなのか。」
「そんな化け物みたいなスキル。
お父様はルナティアが化け物になっても、可愛い子だと思ってくれるの?
それより制御スキルを取得する良い方法を教えてよ。」
「化け物になる訳では無いぞ。
例え成ったとしても、俺はルナティアを可愛い子だと思える。
安心して良いぞ。」
胸を張って腰に手をやり得意げに話している。
「お父様!
ルナティアは化け物にはなりたく無い。」
「そうだな。
可愛いルナティアが化け物になっては俺も困る。
一様伝えたまでの事だ。
聖堂の2階にこのスキルを得る為の儀式部屋がある。
まあ一度は覗いてみなさい。
それでは、制御スキルだったな。
ルナティアの場合は魔力制御を毎日変化しない様に気を付けていれば、取得出来るだろう。
スキルを取得すると世界の声が心の中に語りかけてくるから、すぐ分かるはずだ。」
「魔力制御を続けていれば良いのね。
でも、いつ取得出来るかわからないよね。」
「何事も近道はないぞ。
制御や耐性と言ったスキルは特に積み重ねによる努力が必要だからな。」
「わかったわ。
頑張ってみる。」
いろいろな事を聞かされたが、ルナティアの中で魔導に近道はない事を再確認できる時間だった様だ。
「では、今日も魔法の勉強をするぞ。
ルナティアは光魔法が使える様になったから、少し光魔法をやってみようか。
光魔法は精霊ルミナスの加護が必要なのは知っているな。
特徴として、弱点属性が無い最高位の属性魔法と言える。
その代わり魔法発動に要する魔力が多い事が欠点と言える。
ルナティアにオススメの魔法はライトニングシールドと言う魔法だな。
この魔法は光の壁作る魔法だ。
光属性は弱点が無い故、シールド系の魔法は強度が高い。
尊き高貴なる光よ。
我を包みてその力を示せ。
と詠唱して見なさい。」
「はい。
尊き高貴なる光よ。
我を包みてその力を示せ。」
詠唱を始めると身体がキラキラと光り始めた。
そして、球体のシールドが展開された。
「見事だ。
シールドは魔力を注げば広範囲もシールド可能だ。
やってみなさい。」
「はい。」
ルナティアは魔力をシールドに注ぎ込んでいくと、身体が金色に光り始めてシールドが大きく展開されていく。
「上手いぞ。
今度はシールドを小さくするには逆にシールドから魔力を回収するんだ。」
「はい。」
意識を集中してシールドから魔力を吸収するイメージを心の中で想像して自分の魔力に戻していく。
徐々にではあるがシールドは小さくなる。
「上手いぞ。
まだ時間がかかるようだな。
これは慣れという事もある。
後数回大きくしたり小さくしたりを繰り返して見なさい。」
我が子の成長に正直ゼルスは驚いている。
シールドを展開した状態で大きさを変えるのは制御スキルが無いものには難しい技術だからだ。
「お父様。
これはかなりキツイです。」
自分の魔力を想像と感覚だけでコントロールするには精神的な負担も大きい。
「魔法とは想像力の結晶だからな。
先ずは慣れる事。
使いこなせる様になれば、展開自体も大きさも一瞬で出来る様になる。
そうやって繰り返してやる事が大事だ。」
「はい。」
魔法の勉強はルナティアにとって一番楽しく積極的に慣れる時間だった。
徐々にではあるが、大きさの変化も早くなってきている。
「見事だ。
流石は我が娘だ。」
「お父様。
もう、限界です。
はぁはぁはぁ……。」
シールドが消えていくと同時にルナティアは息を切らせて座り込んでしまった。
「まだまだ魔力の使い方に無駄があるようだな。
学校でしっかり学んで来なさい。」
「………、はい。」
魔道の道は楽では無いと思うのであった。