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~???~
シランの城壁近く、街の発展と共にだんだんと外へと広がっていった居住区のはずれ。比較的新しい建物が並ぶ一角に彼女が目的とする家はある。家の外観が当時の流行にのった最先端のものであったが、周囲の家も同時期に建設が開始されたためか、かえって没個性的になってしまっている。注意深くなければ、一度来ただけでは区別がつかないだろう。
しかし、彼女は迷うことなく一軒の家へと歩みを進めていく。このことから、何度となく訪れたことがあることが窺える。
彼女は少し急いでいたが、コンコンコンと規則正しく3度ノックをすると少し待ち、扉の向こうにいるであろう人物に合言葉を告げる。
「マルチ22」
防犯を意識してか、薄い鉄板の張られた木製の扉が少し軋みながら開いた。半分も開くと彼女はその身をすべり込ませ、すぐに扉を閉めると閂をかけた。椅子と机の最小限の家具以外に目につくのは、一般の家庭には似つかわしくない武器や防具の他はない、殺風景な生活感のない部屋と2人の男が彼女を出迎えた。1人は優男といった感じの爽やかな青年で、椅子に座って武器の手入れをしている。もう一人は扉を開けた、短髪で活動的な印象の青年だ。彼は手近な椅子を引き寄せるとだらしなく座った。
「前から気になってたんだけど、あの合言葉はどういう意味なんだい? マーク」
「我が家に代々伝わる約束事……だったかな? 内容は忘れちまったよ」
男たちは彼女が焦った様子なのもお構いなしに呑気に喋っている。そんな様子に苛立ったのか、不機嫌さを隠すことなく、彼女はここに来た理由を告げる。
「そんな事どうでもいい。今日中には全部ばれるわ。今すぐにでも動かないと計画がダメになる」
「分かってるよ。そろそろ隠すのも限界だと思ってたからね。もう指示は出してあるから、君まで疑われ始める前にギルドに戻った方がいいんじゃないかい?」
怪しまれる危険を冒してまで情報を持ってきた彼女に、その行動は無駄だと遠まわしに告げる男。ただでさえ苛立っていた彼女の眉間に深い皺が刻まれた。もう一人の、マークと呼ばれた男はそれを見て笑いをかみ殺している。
「あなたが適当な偽装をするからバレたの、わかっているの!? おかげで半月は計画が前倒しになったのよ? 万全を期さないと」
「もう待ちきれなくなったんだよね。君と違って、ずっと引きこもってるのって辛いんだよね」
「女も連れ込めないんだぜ? 少しくらい早くてもいいってもんだろ」
「…………」
彼女が怒りのあまりに何も言うことが出来ないのを見ると、男は話を切り上げにかかった。
「今日やるのは決まったことだから、君は君の仕事をしに戻りなよ。僕達と違って怪我したり死んだりする役目じゃないんだから」
「一仕事の前に一発つきあってくれるんなら、まだ帰らなくていいぜ?」
「ふざけないで。精々失敗しないように頑張ることね」
言い捨てると、もう二度と2人を視界にいれたくないとばかりに渋面をつくり踵をかえす。
「お前もなー」
全く緊張感を感じない声に、彼女は大きな音を立てて扉を閉めることで応じた。
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話の都合上、いつもより更に短くなっております。




