第55話――ハーヴェイの記憶《決裂》
人生はそのまま続いていった。強くなるための訓練は続き、カグラとその赤ん坊の定期的な訪問に彩られていた。これまでで一番幸せな時間だった。すべてはいつも通りに見えた……いや、ほとんどは。だが、少しずつ変化が訪れていた――アンナの成長だ。
アンナは時とともに成長していった。そして、彼女が4歳になった年。
屋敷に悲鳴が響き渡った。
使用人:
「きゃああああ!」
カグラはすぐさま声の方へ駆け出した。
カグラ:
「何があったの!?」
使用人:
「壁を登っているんです!」
カグラ:
「何ですって?」
視線を向けた先には、信じられない光景があった。アンナはすでに大きな木を登っていた。
カグラ(心の声):
(この年齢でそんなことができるはずがない……)
アンナは頂上にたどり着き、嬉しそうに叫んだ。
アンナ:
「ママ見て!」
カグラ:
「降りてきなさい!危ないわ!」
アンナ:
「はーい!」
だが、降りようとした瞬間――
足を滑らせた。
そのまま落下する――
しかしその瞬間、黒いマントの男が現れ、彼女を受け止めた。
使用人:
「誰……?」
カグラは落ち着いた様子で一礼した。
カグラ:
「助けていただきありがとうございます、ドクター……最近この子は本当に手がかかって」
男は空中に静止していたが、まるで見えない階段を降りるようにゆっくりと地面へ降りてきた。
ドクター:
「ごきげんよう、皆様」
彼はアンナを優しく地面に下ろした。
鳥の仮面の奥から、赤い瞳がはっきりと見えていた。
ドクター:
「ラピス・ラズリ家の現状は聞いています。名門が分裂するとは、実に嘆かわしい」
カグラ:
「ええ……アルトリウス様もきっと悲しむでしょう」
ドクター:
「その通り。アルトリウス・ラピス・ラズリは偉大な存在でした。絶対的な正義と誠実さを持ち、エクスカリバーに選ばれた者。三百年前の災厄を打ち倒した立役者でもあります。彼がいなければ、この家の名はすでに忘れ去られていたでしょう」
沈黙が流れる。
カグラは警戒を強めた。
カグラ:
「結局、何が言いたいのですか?」
ドクター:
「三百年の間、眷属が不在だったことにより王国は大きく歪みました。その結果、“虚無の使徒”と呼ばれる異形の存在が現れたのです」
カグラ:
「話が見えません」
ドクター:
「簡単なことです。新たなアルトリウスが必要なのです。均衡を取り戻すために。選ばれる基準は力でも功績でもない――王の意思です」
彼は一拍置き、告げた。
ドクター:
「よって、ラピス・ラズリ家の次期代表を“忘却の城ハリ”へ招待します」
使用人:
「そんな……!」
カグラ:
「危険すぎます!アンナはまだ子供なのよ!」
その時――
背後から声が響いた。
ジョージ:
「落ち着きなさい、カグラ」
カグラ:
「ジョージ……?」
アンナ:
「パパ!」
アンナは駆け寄り、抱きついた。
ジョージ:
「おいで、私の宝」
ドクター:
「ジョージ……聞いていたのですか」
ジョージ:
「すべてね。問題ない、アンナは行く」
カグラ:
「何ですって!?」
ドクター:
「では、一週間後に」
彼は黒い羽とともに消えた。
沈黙。
アンナ:
「羽だ!」
ジョージ:
「アルテムが待っているぞ」
アンナは走っていった。
カグラ:
「どういうつもりですか!?」
ジョージは彼女を抱き寄せた。
ジョージ:
「落ち着いて。君は笑っている方が美しい」
カグラは頬を赤らめた。
ジョージ:
「これは好機だ。王に近づき、頂点に立つための」
―――
二日後。
ハラルドは激怒して屋敷に現れた。
ハラルド:
「ジョージ!!」
ジョージ:
「おや、叔父上」
ハラルド:
「その話は聞いている!」
ジョージ:
「ハーヴェイも同行する」
ハラルド:
「……何だと?」
―――
そして翌日。
私は初めて父の屋敷へ足を踏み入れた。
アンナ:
「ようこそ!」
ジョージ:
「ようこそ」
カグラ:
「いらっしゃい」
豪華な食事と飾り。
アンナは抱きついてきた。
アンナ:
「お兄ちゃん!」
その夜は――完璧だった。
だが、それは幻想に過ぎなかった。
―――
夜。
父は私を外へ呼び出した。
ジョージ:
「ハーヴェイ」
ハーヴェイ:
「はい……」
ジョージ:
「戦え」
戦いが始まった。
ジョージは一瞬で距離を詰める。
ハーヴェイ:
「アニマ……氷!」
しかし――
粉砕。
ジョージ:
「遅い」
それでも、私は立ち上がった。
そして最後の一撃。
氷の刃が喉元へ。
沈黙。
ジョージ:
「……勝ちだ」
―――
戦いの後。
彼は私に首飾りを渡した。
ジョージ:
「妹を守れ」
私は初めて――認められたと思った。
―――
だが、その夜。
すべてが崩れた。
―――
霧。
異常な静けさ。
そして――
フードの男。
???:
「……標的か」
一瞬で壊滅。
ハーヴェイ:
「アニマ……氷!」
通じない。
???:
「哀れだな」
そして――
???:
「お前を殺そうとしたのは……お前の家族だ」
トラップドア。
奈落。
そして落下。
―――
闇。
静寂。
―――
目を開けた時――
そこにいたのは。
巨大な黒い狼。
???:
「生きていたとはな」
そして――
???:
「ようこそ、“蘇りし者”」
低く響く声。
???:
「我が名はフェンリル」




