第22章 従者の書(じゅうしゃのしょ)
赤く光るカウントダウンが画面に映っていた。
5:50──残り、十分。
暗い部屋の中で、無数のモニターが地下のトンネルを照らしていた。
そこには逃げ惑う人影、汗、息遣い。
そのすべてを、男──**従者**が静かに見つめていた。
扉が開き、一人の兵士が駆け込む。
> 「閣下、準備が整いました。あとは合図をお待ちするだけです!」
従者は視線をモニターから外さずに答えた。
> 「よろしい。順調だ……実に。」
兵士は一瞬ためらい、低く言った。
> 「失礼ながら……あなた様の力を使えば、奴らなど一瞬で消し去れます。
なぜ、わざわざ遊びのような真似を?」
従者は小さく笑った。
> 「“絶対の力”──か。だがね、それは退屈なんだ。」
ゆっくりと、彼は懐から一冊の黒い手帳を取り出した。
表紙には奇妙な模様が刻まれ、淡く脈打つように光っている。
> 「この本に書いたことは、すべて現実になる。」
兵士は息を呑んだ。
> 「……神の書、というわけですか。」
> 「神か、悪魔かは知らん。だが使わん。
なぜなら、あまりにも簡単すぎる。」
従者は静かにページをめくりながら続けた。
> 「王自らが授けた力だ。
だが、勝つだけの“ゲーム”など、何の意味がある?」
> 「彼らが絶望し、立ち上がり、
それでも進もうとする姿──それを見たい。」
ページの上には、わずか数行の文。
それだけで、世界の理が変わるというのに。
> 「この世界は舞台だ。
私は脚本家であり、観客でもある。」
兵士は恐怖に顔を歪めた。
> 「あなたは……怪物だ。」
従者は微笑んだ。
> 「違う。私はただ──“筆を握る者”だ。」
その瞬間、モニターのひとつに列車の影が映る。
地下を震わせるような轟音。
Hastur、Efa、Arata──それぞれが走っている。
> 「5:55……運命の幕が上がる。」
従者は手帳を閉じ、立ち上がった。
チクタク──時計の音だけが残る。
モニターのすべてに、仮面の男の顔が映る。
> 『残り五分。最終幕を始めよう。』
従者はゆっくりと灯りを消し、闇の中に消えた。
赤いカウントの光だけが、静かに脈打つ。
> 「血も、叫びも、祈りも……すべては記される。
この書が求めるのはただ一つ──」
> 「最後のページだ。」




