エピローグ
そうして、日常へとまた帰って来た。
あれから、日本中あらゆる地域から集まっていた皆は、長い船旅の間も楽しく過ごして、それぞれの家へと戻って行った。
関東住み組は時々人狼カフェに集まって共にゲームに興じたり、また皆でアプリで人狼ゲームをしたりと交流を続けていた。
達也は就活も無事に終わって、地元の企業へと就職することになって、いつしかそんな楽しかった記憶も遠ざかって行った。
大きな洋館の中で、新は窓から外を眺めていた。
広い草地は、まだ父母が生きていた頃には馬が駆け回っていた場所だ。
今は、その草を食む存在も居ないので、庭師がせっせと刈り込んでいるのが見えた。
そこへ、颯が入って来た。
「新。」新は振り返る。颯は続けた。「母さんをここに連れて来たよ。」
新は、頷く。
「帆波ももう長くはないだろうから、家で見てやるのが一番だろう。病院に置くのはな。」
帆波は、新の異父姉だ。
母が父と再婚する前に生んでいた子達の一人で、新が生まれた時には成人していた。
なので、今では病気こそしてはいなかったが、あちこち衰えて来ていた。
颯は、言った。
「オレがここへ引っ越すなら、病院へ入るって言うから、止めたんだ。オレが医者なのに、家で見るよって。ここなら機材も豊富だし、病院よりしっかり見られるかもしれないしね。」
新は、頷いた。
「その通りだ。私も居る。帆波が望むようにできる限りのことをしよう。無理な延命はして欲しくないようだしね。」
颯は、暗い顔になって、頷く。
自分も、母を亡くした時には同じ気持ちだったので分かる。
新は、思った。
父は、もうとっくに死んでいてもおかしくはない状況だったが、最後まで母のために生き、気力で看取った後、すぐに後を追った。
二人を同時に失った新は、帆波や他の兄弟姉妹達に慰められて、なんとか二人を送った。
あの時のことは、今思い出してもつらくなる。
自分が研究していた不老不死とまでは行かないまでも、少しでも寿命に抗う治療というものが、負けた瞬間だった。
あれから、新は父の言っていたことを考えた。
…やりたいことに反対はしないが、君はそれが間違っていないと思うのかね?
父の彰は常、そう言っては案じるように新を見ていた。
あの頃の自分は、まだ若くとにかく父母を長く世に留めたい、と、そればかりで過ごしていた。
父もそれが分かるのか、それ以上は何も言わずに、検体となってくれていた。
だが結局は、二人は姿だけを若くしたまま、老衰による多臓器不全で死んで行った。
自分の力が及ばなかった。
新は、それは己を責めた。
だが、父には分かっていたのだ。
あの、とんでもなく賢かった父は、新が人には力の及ばない事に、時間を使っていることを案じていた。
そういうことだったのだ。
それからは、無駄に使った時間の穴埋めをするかのように、父が残した薬を改良することに力を注ぎ、ここまで来た。
それにも、もう疲れたのだ。
後は、また親しいもの達を、与えられた寿命の限り世話をして看取り、自分も旅立ちたかった。
自分は子供を残さなかったが、幸い母が遺してくれた異母兄弟姉妹には多くの子供が居る。
それらに後を託して、新は去るつもりでいた。
颯は、新に並んで窓の外を見た。
「ああ、牧草地が荒れて来たなあ。庭師も大変だ。また馬の世話でもする?」
母が可愛がった馬達…。
新は、頷いた。
「…そうだな。私の残り時間のこともあるし、ならばそこそこ歳を取った馬でも探してみるか。」
母も喜ぶだろう。
新は、颯と共に庭を見ながら、そう思っていたのだった。
ありがとうございました。これで本当は死なない人狼ゲームシリーズ2は完結で、この後スピンオフが投稿され、そしてシリーズ3を開始いたします。ゲームだけをさっさと進めて急いで書いて行くのではなく、初心に帰ってしっかり細かく動きを書いて行くかなと考えております。またお暇がありましたら、そちらの方もよろしくお願い致します。




