8 : 途中下車のあと
※この作品はフィクションです。実際の人物、団体等とは一切関係ありません※
「……さてどうするか」
三田と春を2人にしてやりたくて勢いで降りてしまったが、全くのノープランだ。
とりあえず一息つこうとコンビニで飲み物を買い、店から出るところで声をかけられた。
「松原くん……よな?」
声の方を見ると、そこには見覚えのある茶髪ショートの女の子がいた。
「小野さん……?」
彼女は腕にバイクのヘルメットを抱えており、彼女の背後には華奢な体には見合わない大きな黒いバイクが駐まっている。小野さんバイク乗りだったのか……
「やっぱり松原くんや! ……あれ? 松原くん1人? なんか友達と映画行くみたいな話してへんかったっけ?」
……そういえば彼女には春たちと一緒に映画見に行く話をしたんだった。
「うん、その予定だったんだけどちょっと色々あってさ。」
「色々? 何かあったん?」
当然彼女は聞いてくる。
「まぁ、何というか、俺の勝手なおせっかいというか……あの場にいるのが気まずかったというか……」
「ふーん? 気まずい言うてもよく三人で遊んでる言うてたやん。何や喧嘩でもしたん?」
「喧嘩とかじゃないよ。あいつら最近二人の時間があんまりとれてないらしくてさ、間に俺がいる方が楽って三田は言ってたけど、俺は二人の関係を邪魔したくないから、俺が車から降りて無理矢理二人きりにしたって感じ」
……思い返せば俺がしたことは余計なおせっかいだったかもしれないし、俺といる方が楽だと言っていた三田も俺が車を降りたことをよく思わなかったかもしれない。
だが少なくとも春は俺が降りるのを強くは止めなかった。長い付き合いだし、多少俺の気持ちを汲んでくれたんだろうと思う。
「まあ、それは気使って二人にするわな……最近ずっとデートの間に挟まり続けとったって言われるようなもんで居辛いやろし……]
実際三人でいることの方が多いと聞いて窮屈さを感じなかったといえば嘘になる。
まあ俺が窮屈に感じるとかどうとかより、二人が上手いこといってるかどうかが気になるが……
「っていうか松原くんはこれからどないするん?」
「うーん、特に何も考え無しで降りちゃったからどうしようかなと思って、歩いて帰るにはちょっと遠いからバスなり電車なりで帰ろうかなって」
「ふーん、じゃあこの後は何もない感じ?」
「まぁ、何もないよ」
「ほなちょっと買い物付き合ってくれへん?」
「えっ」
……これはチャンスなのでは? というか実質デートのお誘いみたいなものなのでは?
でも初対面で二人きりで買い物ってどうなんだ? 普通……じゃないよな……
いやでもこのチャンスを逃すわけには……
「……別に嫌なんやったら一人で行くけど」
「行きます」
少し申し訳無さそうに言う彼女を見て食い気味に返事をしてしまった。
「よっしゃ! じゃあ決まりやな!」
さっきな申し訳なさそうな表情はどこへやら、彼女はものすごく笑顔だ。
我ながらチョロいなぁと思うが、気になっている相手に振り回されるのは悪い気分ではない。
「ところで買い物って何買いにいくの?」
「服! まだ肌寒いからアレやけど、こないだぼちぼち衣替えせな思て荷物から春服出したねん、そしたら思いの外少なくてやな」
「なるほど…‥そういや俺も今年まだ春服買ってないなぁ」
「丁度ええやん! じゃあもう決まりやな!」
「ちなみにどこ行くかは決まってるの?」
「いや、私この辺よく知らんし、適当に大きいショッピングモールとかで探そかなぁって」
「それだったら服屋さんがいっぱい入ってる商店街あるからそこ行かない? そんなに遠くないし、結構色んな系統の店があるから、気に入るのがあると思う」
高校くらいからよく三人で買い物に行っている商店街だ、無難なお店からブランド物ばかりを扱ったお高めのお店、V系や地雷系のお店なんかもあって服を探すにはこの上なく良い場所だ。
「マジ? じゃあそこにしよ! ナビ設定したいんやけどなんて調べたら出てくる?」
「新緑商店街で調べたら出ると思う」
「おっけ! じゃあ早速……と思ったけど松原くんの分のヘルメット取ってくるからちょっとだけ待ってもろてもええ? 家すぐそこやからさ!」
「了解! 適当に立ち読みでもして時間つぶしとくよ」
「じゃあソッコーで帰ってくるから!」
そういって彼女はヘルメットをかぶってバイクにまたがり、あっという間に走り去ってしまった。
最初は彼女の見た目の雰囲気とは合わないバイクだと思っていたが、乗っているところを見ると到底そうは感じないほど様になっていて……正直心底かっこいいと思ってしまった。
適当に雑誌や漫画を立ち読みして暇をつぶしていると、程なくして小野さんが帰ってきた。
「じゃあ行こっか! ヘルメットのサイズ合わんかっても我慢してな!」
そう言われて渡されたヘルメットからは少し小野さんの香りがした。
謎の罪悪感を感じながら貰ったヘルメットをかぶり、彼女の後ろに乗る。
「ちゃんと捕まっといてや」
そうは言われても、生まれて初めて二人乗りするのもあって、どこを掴めばいいのか分からない。
バイクに掴まれそうなところは見当たらなかったので、とりあえず小野さんの腰のあたりを掴むと、何の合図もなくバイクが動き始めた。
びっくりして思い切り腰にしがみつく。カップルなんかがよくやっている体制になり、小恥ずかしい気持ちはあるが全く動けない。
彼女のリアクションが気になるが、ヘルメットで表情も見えなければ声もよく聞こえない。
自分的には凄くいい感じでドキドキするのだが、急にしがみついて引かれていないかが心配だ。
というか引かれているだろうと思う。降りた時に何を言われるか不安でたまらないが、考えても仕方ないのでただ目的地への到着を待つ。
15分くらいして、目的地に着いた。
ヘルメットを脱ぎバイクを降りる。
「意外と積極的なんやな」
降りてすぐに開口一番、俺の方を見て小野さんが笑いながら言った。
「いやっ……まぁアレは事故みたいなものというか……なんというか……不慣れなもので……」
自分でもビックリするほど言葉がまとまっていないまま出てきた。動揺しすぎだろ。
「ま、私は別に気にしとらんからええけど」
「いや、マジで……すみませんでした……」
完全に手のひらで転がされている。
が、全くもって嫌な感じがしない。俺はもうダメだ。
「別にええって! それよりはよ服見に行こ!」
「う、うん」
「もー、気にしてない言うとるやろ! それとも気にしといて欲しかった?」
「別にそういうわけじゃないよ!」
「ふーん?」
悪戯な笑みを浮かべる彼女を前に、春と三田の事など考えていられないほど俺は彼女の虜になっていた。
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