後日談 SIDE:コレット
「ちょっとどういうつもりよ」
私は、卒業パーティーの後どこかわからない場所に連れてこられてしまった。
周りには厳しそうな修道女たち。ここは修道院なのかしら?
「私は何もしていないわ! 説明しなさい! お父様に言いつけるわよ!」
怒鳴りつけても彼女達は一切うろたえることなく、表情を変えない。
「あなたは聖女候補になりました」
一番怒らせたら怖そうな女が口を開く。一番この人が偉いのかしら?
「聖女候補に乱暴するなんて、ありえないわ」
「乱暴なんてとんでもありません」
冷静な声に苛立って目を吊り上げるけれども、彼女は動じない。
「あなたは神に資格を示さなければなりません」
意味がわからない。
私は優秀だ。勉強も出来たし、美しいと言われていた。友達も多かったし、神に恥じることなんてない。
ああ、そうか。この人、ソニアに似てるんだわ。表情の変わらないあの子。
「シスター、そんなに無表情でいると、私の妹みたいに孤立してしまいますわよ」
可哀想なソニアは、無表情で可愛くない上に、勉強も頑張らないと出来なかった。この人にも教えて差し上げなければ。
__と思って話したのに。
「人のことを、まして妹を悪様に言うとは、なんて罰当たりな!」
余計に怒られて、あれから毎日お説教と門答?
彼女がこの時こんな行動をしたら、彼はどう思うでしょう? とかみたいな意味不明な問題に答えさせられている。
「人の気持ちを考えられるようにならなければ、ここから出ることは出来ませんよ」
はっきり言って余計なお世話だ。うるさいし、毎日つまらなくて死んでしまいそう。
街に遊びに行って、誰かに慰めてもらおうかな。
強行突破してしまおうと、修道女達を突き飛ばし、外に飛び出す。
「さいこう」
久しぶりの外だ! そのまま走り出す。
けれど
空が光る。目の前が真っ白に染まり、
ズシャァァンという重い音と共に、地面が揺れた。
恐る恐る音のした方を見ると、黒焦げの木が見える。
声も出せないまま尻餅をついていると、いつの間にか後ろにあの怖そうな修道女が立っていた。
「神は御怒りです」
よくお聞きなさい、と彼女が続ける。
神は聖女候補を選ぶ。コレットにはその刻印があり、聖女なのは間違いないとか。けれど、聖女候補は必ずしも良い聖女になれるわけではない。
悪い聖女は国を混乱に陥れることもあるため、監視されているという。
「私が悪い聖女?」
「あなたは友達が多いと言っていましたが、彼ら、彼女ら同士は仲良くしていましたか? あなたとは仲が良くても、あなたの周りでは争いが起こっていたのではないですか?」
それは__そうかもしれない。
「でも、なんで?」
なんで、争いが起きていたんだろう。
困惑のままにシスターを見ると、彼女は少し安心したと言う風に表情をゆるめ、それから引き締めて言った。
「あなたは、今、疑問に思うこと、考えるということを知りました。あなたに見えていないだけで、人間は皆いろいろな感情を抱えているのですよ」
それを知りなさい。と、続けるシスターは真面目すぎて少し怖い。
「……知れなかったら?」
「……神は、お許しにならないでしょう」
ぶるっと背筋が震えた。まさか__
もう一度見上げれば、黒焦げの木。
「まさか、ね」