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夜天幻時録  作者: 影光
第3章 秋星大祭編
54/102

第53話 初めての学園行事

 大して何かの大事を片付けたわけではないが、今日はいつになくどっと疲れた。

「はふぅ………」

 ワタシは、自宅に戻って早々にベッドに倒れこみ、軽い仮眠を取った。

 疲れというのは早々に取れるものでもないが、今日に至っては別だろう。

 二時間ほどの仮眠を取ったワタシは、私服に着替えて部屋を出た。そして誰もいない家の中を軽く散策し、その余韻に浸る。

 現在、この家にはワタシしか居ない。

 伊織(いおり)さんと燈架李(ひかり)さんは、修行と言ってそれぞれ何処かに行ってしまった。

「…………」

 静寂の中にあるものは、時として畏怖を感じさせる。

 包み込む静けさと、いつも以上に大きく聴こえる虫の羽音。

 いつもであれば、耳を澄ませなければ聴こえなかったそれらも、今回ばかりは奇怪な現象と相並ぶものがある。

 それでも、いつものように夕食を摂り、自室へと戻る。その道中、ある違和感に囚われる。

「そういえば…………」

 居間と階段を繋ぐ、やや長いフローリング状の廊下。

 片方は当然、玄関に通じているのだが、もう片方の突き当たりがどうにも気に掛かった。それは、今まで疑問にも思わなかった事が不思議な程の違和感だった。

 玄関とは反対方向にある不思議な一室。その部屋は両サイドを不気味な物置部屋よりさらに奥にある今はもう誰も使ってはいないとおぼしき一室。

 この家では、唯一と言っていいこの部屋以外に、自室として使える部屋はこの階層には無い。それゆえか、この家は三階建てで二階と三階はそれぞれ全てが自室として使えるような造りをしている。

 無論、この部屋の主は、ワタシは数回ほどしか姿を見たことがない人物───小薙(こなぎ)悠哉(ゆうや)だ。

「────ッ!!」

 その部屋のドアノブに手を掛けようとして、反射的にすぐさまその手を引っ込めた。何だか解らない、全身をとてつもなくゾッとし、本能からソレを嫌悪する感覚を錯覚させた。

「今の………」

 不思議な違和感を覚え、ワタシは自身の左手をニギニギと動かしてみた。無論、その違和感も感覚も痕には何も残っていなかった。

 だけども解る、不思議な感覚。

 それは、誰かが此処への入室を禁じている証拠だろう。

 大した収穫は無かったが、多少の得られるものはあった。それに、ワタシの本能は先程から強く警鐘を鳴らしている。

 そそくさとその場から離れ、ワタシは早急に床に就くことにした。

 明日は明日とて忙しくなる。

 それは、この時期特有の事だと葉月(はづき)さんが言っていた。

 そして、ワタシ達は分担して作業を行っている。その為の別行動なのだ。

 ワタシは葉月さんと、伊織さんはトトロさんとリグレットと共に、燈架李さんは未美(みみ)さんと(みやび)さんと共に担当ヵ所へ出張中だ。


 秦、最西端。

柚希(ゆずき)、この地の情勢は?」

「はい」

 問われ、ワタシは率直に答える。

 ワタシと葉月さんは現在、この地で下調べを行っている。

「では、木材はあまり持ち出せませんね」

 その中でも、屋台や施設などの小さな建物を簡易的に設置する為に必要な資材との交渉にあたっている。

「ゴメンね、最近資材の流通が滞ってて………」

 その村の村長が、葉月さんに深々と頭を下げる。

「いえいえ、コチラこそすいません。ズカズカと上がり込んだあげく暴言を吐いてしまって」

 葉月さんは落ち着いた素振りを見せて、逆に謝罪する。

 結局、大した収穫は無し。それは、先日とほとんど同じ状況である。

 だが、それも仕方のない事だろう。

 つい先日まで分裂しかかっていた三ヵ国が、再び同盟を結び、そのあげく未だ夏の時季に起きた事件達の処理は中途半端なまま。

 その為、小さな権力(チカラ)しか持たない町村には意見を言える権利も、反発する武力も持っていない。

 そうした歯痒い状況の中での、学園からの申し受け。町村としても援助(チカラ)になりたいのは山々だろう。

 それでも現状は厳しい。学園(コチラ)としてもめぼしい資材(モノ)はいくらか見付かってはいる。しかし、それらを容易には搬送できない。

 そんな時、ワタシの方からお三人に話を通す事はできる。それも、こんな時期でなければの話だが…………。

 それが、葉月さん達生徒会の難しい立場というものだろう。


 ところ変わって、森の中。

 そこでは勢い良く木々が薙ぎ倒され、少女達の叫び声が木霊していた。

「んもぉおぉぉ~~ッ!!何だってこう、ウジャウジャとぉ~~ッッ!!」

 激しく鳴る轟音と、何か歪な鳴き声を放つ異質な『食材』。

 その『食材』相手に、燈架李が憤慨する。

「でもまぁ、収穫としては上出来じゃない?」

 別の食材を探しに行っていた未美が、背中に背負っている大きな籠を下ろしながらそんなことを言う。

「そうだけど、多すぎても駄目だからね。というか未美、何か歪なのも混じってない?」

 未美が現れた方角の反対方向から、雅が訊ねるようにツッコミを入れる。

 少女達は、それぞれ別々の地点から担当する食材の確保にあたっていた。それが今、一通りの探索を終えて合流したところである。

「てことは、コレはいらない?」

 先程倒した食材を持ち上げ、燈架李が問う。

「いえ、せっかくだから、持って帰って今晩のメインにしましょう」

 大きな竹籠を背負い直し、雅は答える。

 そして、彼女達『補給班』はまっすぐと帰路を進む。


 残る分担の担当組は、学園内の校庭にいた。

「いやぁ~~、やっぱりこういう時に『人手』が多いのは助かるね」

 校庭と校舎の間に位置する高台から、伊織は校庭を一瞥しながら感慨しく言う。

「ま、確かにこういう時にはリリの能力(チカラ)が一概に役に立つのかもね」

 伊織の言葉に、隣に佇むトトロが納得する。

 二人共、実際の現場とは意外にも離れた場所で雑談している。

「でも、不思議な光景だね。アレって、糸とかで動かしてるってわけじゃないんだよね?」

 伊織は眺めていた光景の中でも、一際奇怪な箇所を訊ねる。

「ん?ああぁ……。リリのアレは、まぁ~あの娘の生まれつきの《能力》みたいなものだからね」

「能力?」

 伊織は、小さく首を傾げた。

「〈死霊術師(ネクロマンサー)〉って、知ってる?」

「ねくろ、まんさー?」

 伊織の首が深く傾く。

「まぁ簡単に言えば、死んだヒトの『魂』を自在に操れる、みたいなモノかな」

「それって、凄くない?」

「どうかな?リリ自身は嫌ってる能力みたいだけど…………あ、でも別に操れるのは人間の魂だけじゃないみたいだよ?」

「えっ?てことは、その辺の草や木も?」

「多分ね。ま、私はそんな沢山の魂を操ってるとこなんて見たこともないだけどね」

 そんな雑談を済ませ、二人はその本人リグレットの元へと向かう。




 何処かで聞いたことがある。

『準備や後片付けも、祭りの一環である』と。

 しかし、今ワタシの目の前で起きている惨状を見ると、お祭りどころかまるで『戦争』に近いではないかと思えてしまう。




 暦が十月に入れば、いよいよ学園内での唯一のイベント事《星憲祭(せいけんさい)》が行われる。

 ワタシにはこのイベントの重要性や期待感などはよく解らないが、それに対する熱意や想いからその需要性は確かに伝わる。

 そして、その活気に心奪われたのか、ワタシの廻りにいるかしまし娘達は……………。

「どっせぇ~~~ッッ!!!」───メキッ!!

「ドゥらッ!!」───バキッ!!

「ヨイショッ!!」───ドガガガッッッ!!!

 何の音か解らない音が三つ四つ続き、現場は騒然とする。

「ふいぃ~~。こんなモノかな?」

「だね」

「うん、上出来上出来…………」

 まるで一仕事終えた後のように、清々しい表情を見せる。

 が────、

「んな訳無いでしょ~~~~ッッ!!!!」

 校庭内に雅さんの叫弾が翔び、お騒がせなかしまし娘達には葉月さん、雅さん、リグレットさんの罰拳(てっけん)が下る。

「ゴホッ!」「ガハッ!」「アバババババッ…………!」

 ワタシは毎度思う。この人達………アホだな、と。

 そして、そんな『善からぬ事態』も介しつつ、ワタシ達は着々とイベントの準備を進めていく。

 その中でも最も念入りな準備が必要なものは屋台で、下準備となる建物の設建が大まかに完成すれば、いよいよそこで出品する商品を選定しなくてはならない。

「一応、毎年恒例となっているのは、麺類やパン類などのような粉ものを焼いたものばかりですね」

 後日、ワタシ達は生徒会室にて葉月さんから簡単な説明を受ける。

「じゃあ、生物なんてのはもっての他って感じかな?」

 その中でも、特に吟味しなければならないのは何かと話題や議論となる元凶、食料品についてだ。

「いえ、そんなことはありません。ただ、やはり食べ物ですから取り扱いや調理法には細心の注意を敷かなければいけませんので、出品してくださる箇所は少ないですね」

「そっか…………」

 その簡素な説明に、トトロさんが相づちを打つ。

 今この場にいる者達の中で、前回の祭りを知る者は葉月さんしかいない。

 なので当然、ワタシ達は葉月さんの細かな説明と大まかな記憶から今回の祭りの手はずを整えなければならない。

「でも、その点なら雅がこの中では一番詳しいよね?お店のことは全部雅がやってるし」

「本当ですかッ?」

 葉月さんは身を乗り出し、驚喜の声を上げる。

 この中で、葉月さんだけが雅さんが切り盛りしているというお店遊殻亭の存在を知らない。

 葉月さんのキラキラとした眼差しが、雅さんに向けられる。

「ま、まぁ………、生物を取り扱うんだったら、校舎に近い場所に水槽なんかを接地したらどうかな?校庭じたいもけっこう広いし、巨大な水槽を二~三個置けば展示会みたいな感じにもなるだろうし」

 雅さんが、葉月さんのその迫力に負けそれなりの力説をする。

「う~ん」

 しかし、葉月さんは腕を組み深く悩み始めた。

「どうかした?」

 そこへ、燈架李さんが訊ねる。

「水槽の方は何とか用意はできると思いますが、」

 へぇ、出来るんだ………。

「問題は、その水槽から食材を捕る人材と捌く人材ですよね」

「ああぁ……」

 燈架李さんも頭を悩ませ始める。

「そっか、確かに生物を捌く際には細心の注意とそれなりの技術が必要みたいだしね」

「それに、教えようにも当日までの期限があまりないし、規模も検討がつかないしね」

「てことは、やはり大半を粉もので埋める必要があるって事か………」

「でも、規模はおよそ五十から七十。とてもじゃないけど、そんな種類の料理なんて思いつかないね」

 ほぼ全員が頭を悩ませる。

「あ、あの(ビクビク)…………」

 と、そこへリグレットさんが弱々しく手を上げる。

「(ビクッ)ッ!!これまでは、東方のお料理を中心に提供していたんですよね?」

 全員の視線が同時に向けられたことに驚くが、リグレットさんはしっかりと自身の意見を発言した。

「そうですね。国外や海外に行かれていた方々からの情報で、その地の料理を取り入れたりはしていたのですが…………」

 おそらく、いくら国外や海外に出ているからといって、その地の料理を学んでいたり、それを再現することは難易度が高過ぎるというものだろう。まして、そんな調理を行える者もそこに集まってくれる者も少ない。

「元々ある料理に、海外の食材や調理法を用いるというのはどうでしょうか?」

 そこでようやく、リグレットさんは自身が思っていたことを提案する。

「それって?」

 つまり、『料理』そのものを真似るのではなく、その地の『調理法』や『食材』を取り入れてみるというもの。

「例えば、たこ焼きでしたら中の蛸を別の海鮮食材に変えるとか、上にトッピングするウスターソースや紅生姜などを醤油やニンニクに変えるなどして、以前とは違うお料理、商品として提供するというのは…………?」

「そっか、そうすれば出品する店舗の数(バリエーション)も増えますし、大掛かりな訓練などもいらない」

「確かに、それなら何とか…………」

 リグレットさんの提案で、その場が納得されていくような雰囲気に変わっていく。

「ちょっと待って!」

 しかし、そこへ料理に関しては何かとうるさい雅さんが論破の声を上げる。

「どうしたの?これまでに無い、良い提案だと思うけど」

「確かに良い案だと思うけど、それでも多くの人がその練習に当てられることは変わり無いんじゃないかな?」

「でも、それ以外に良い案なんて浮かばないよ?ものは試しで、半数とは行かなくてもそれなりの数がやれば、それなりの『騙し』は利きそうだし」

 それは確かにそうだ。

 だが、雅さんの懸念はそこではなかった。

「第一、そんな種類の食材なんて何処で手に入れるの?もう後わずかしか無い日数でそれなりの量となると、さすがに調達なんかは難しいんじゃ」

 お祭りまでは、残り十日を切った。

 生徒達にできるのは、既に常識として伝わっている定番の東方料理を再度練習し直す事くらいだ。

 ということで、今回の会議は一旦お開きとなり、後日もう一度話し合う場を設けるという。

「ねぇ、柚希」

「はい」

「あの二人は見かけない方達のはずだけど、柚希の知り合い?」

 そう言って葉月さんが訊ねているのは、勿論いつのまにか会議に参加していたトトロさんとリグレットさんについてだ。

 ワタシも一応不自然に感じてはいたが、特に誰もツッコまなかったので流していた。怪訝そうな表情をしていた葉月さんに適当な説明をし、ワタシは消えるように葉月さんと別れた。

 そして、その帰り道。

「確かに、食材の確保は重要な箇所かもしれないね」

「で、どうするの?柚希」

 薄まった陽炎の射し込む帰り道。遠くの景色に浮かぶ蜃気楼は、この世界を幻想のように錯覚させる。

「そろそろ、あの方がコチラへ顔を出す頃だと思いますので、なんとか交渉してみたいと思います」

「あの方?」

 彼と別れてから、もう一ヶ月半になる。

 以前お願いしておいた件も兼任できるので、今回は良い機会かもしれない。

 後日、ワタシは朝から神代港にいた。

 ワタシの予想は的中し、まだ陽が昇って間もない時間帯から彼の率いる交易船が、既に港に到着していた。

「おや、珍しい。本日はまだ平日では?」

 向こうが先にワタシの存在に気付き訊ねる。

 この世界に、平日などという表現は存在しない。この言葉を使用するのは、登校日や出勤日に近い表現あるいは似た言動と類似するものの時らしい。

 時々思うが、東方言語はとてもややこしい。

「そうですね」

 ひとまず、あしらうように適当な言葉で返してみた。

「先に言っておきますが、あまり大したお話は出来ませんよ?」

「あ、いえ、頼んでおいた事(そちら)は特に気にしていません」

「ご自身で頼んでおいてその態度。成程、将来有望な人物となる逸材かもしれませんね」

 そんな事を呟くのは、《夜天騎士団》マルクト・ルヴァーチェ。

 そのマルクトさんに、以前依頼しておいた件を後回しにしてもらい、急遽の依頼を発効する。

「…………」

 マルクトさんは、当然の如く困惑したような顔をする。

「それは唐突ですね」

 第一声は、そんなため息混じりの言葉だった。

「やはり、無理ですか?」

 無謀なのは、お互いに重々承知の上だ。

 だが、それでも彼ならやってくれるとワタシは期待していた。

「そんな風に頼まれて『はい、無理です』なんて、そんなの言えるわけがありません」

 そう。そう言わなければならないのも、彼の存在がそういう役割を担っている何よりの証拠だ。

 ひとまず、マルクトさんが運営するルヴァーチェ商会は、この件を了承してくれた。

 ワタシは午後からの授業に参加し、その放課後には本日が八度目となる運営集会が開かれ、そこでマルクトさんの名前を附せたまま、最大の難関と言える件についての報告を行った。

 期限は迫り、準備は最終段階を向かえる頃、当然の如くとして新たな事件が発生する。

「また、ですか?」

「はい」

 一通りの書類仕事を終え、最後に扱った書類を見て、葉月さんがため息混じりに呟く。

「計算は私がやっとくから、柚希は現場の方の再確認に行って来てください」

「一人で大丈夫ですか?」

「ん?どういう意味?」

 その言葉で、生徒会室の空気が一気に凍てつく。

「いえ、何でもないです」

 ワタシはそんな空気から逃れるように、そそくさと生徒会室を飛び出した。

 生徒会室に一人取り残された葉月さんは、一瞬にして気を戻し、黄昏るように窓から見える夕焼け空を見上げると、ポツリと呟いた。

「これが、最後ですか…………」

 それは、まるでこの瞬間が終わらないでと願うように、まるでこの時代(とき)が永遠であるようにと願うような、そんな風に見える刹那だった。

 ワタシは扉の影でそんな葉月さんを一瞥し、ゆっくりと本当にその場から立ち去った。

 校舎と校庭を繋ぐ渡り廊下を進むと、一箇所にだけ集中した大きなの人だかりを発見した。

 こういった事にもなるべく関わりたくなかったが、コチラの役目上仕方なく対応しなければならない。

「これだから貧民は」

「なっ!お前、それはさすがに言い過g───」

「キサマ、誰に向かってそんな口を聞いているッ!!」

 近付くに連れハッキリと聞こえる、騒動の一部。

 なるべく関わらないように、ワタシは若干遠回りをして現場のすぐ近くにまで近付く。

 原因は、まぁ知りたくもないが、対立しているのはお祭りの実行委員に選ばれた人達と、会場の設営をしている人達。

 所謂、組織上層部と現場の工作員と言った感じか。彼らの間で、意見の相違が交錯していた。

「まぁまぁ落ち着きたまえ、須藤(すどう)君」

 同じように取り乱していたはずの委員長らしき男子生徒は、コチラ側の人達を嘲笑うかのように食い懸かる男子生徒を押し止める。

清寿江(きよすえ)会長………。す、すみません。取り乱しました」

「いいさ。僕たちは優等生(エリート)なんだからね、下等動物に声を荒げるなんてしないのさ」

 見え透いた嘘を吐く、会長とおぼしき男子生徒。

 その時、ワタシはその会長なる人物と眼が合う。

 そのせいで、会長とおぼしき男子生徒の矛先は、コチラへと向けられる。

「おい、そこのお前ッ。そこでいったい何をしている?」

 まるで、鬼の形相といった感じの剣幕でワタシの事を呼び止めようとする会長とおぼしき男子生徒。

 ワタシはそんな言葉など気にも止めず、近くにいた雅さんに話し掛ける。

「進捗状況はいかがですか?」

「おい、聞いているのかッ?」

「ん?目の前の事を除けば順調だよ?」

「僕を無視するなぁ~~ッッ!!」

 無視し続けていると、男子生徒は突然に叫びだした。

「では、何か変更などがありましたら、この紙に記入して明日提出願います」

 それでもワタシは無視を続ける。

「え、あ、うん」

 少し困惑したような表情をする雅さん。

「~~~~ッッ!!!!」

 それに、ワタシの対応に激怒寸前な男性会長は、顔を激しく赤面させ、身体をプルプルと震えさせていた。

 その感情の変化は、背を向けた状態でもハッキリと解るほどで、もの凄く単純な人物なのだと思った。

「フッ」

 なのでワタシは、この場を立ち去る直前に実行委員達全員に向けた憎たらしいほどの嫌味な嘲笑を浮かべ、鼻で笑ってやった。

「こ、この~~ッ!!」

 案の定、会長は憤慨のそれを撒き散らし、他の委員達にその異行を取り抑えてしまう。

 お祭りまで、五日を切っている。

 どう考えても、こんな事で時間を割いてる場合ではないのだ。


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