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夜天幻時録  作者: 影光
第1章 春桜開花編
18/102

第17話 人工生命体の定義

 《人工生命体(ホムンクルス)》とは、何なのか………?

 その存在について、多くの学者が意見を交え、多くの論文が発表されたという。

 しかし、その生成方法は一度も立証された例は無く、ただ『造れるだろう』という仮定のみがあるだけだ。

 そんな中で、ワタシや最中(モナカ)さん、今だ見つかっていない小薙兄妹は、その仮定と謎の果てに造り出された存在だろう。

 唯一の生き残りと言える結羽灯(ユウヒ)さんは、最中さんを生成出来たのは、前例である小薙(コナギ)兄妹の『戒因子(パルム)』を用いたからだと説明していた。

 一般的に発表されている論文に書かれた《人工生命体》の生成方法は、動物の糞に、数種類のハーブと人の精子、それらを入れた蒸留炉に『人間(ヒト)』の生き血を数滴ずつ垂らしながら、母胎と同じ温度で二月(フタツキ)程発酵させると、完成するというものだ。

 『戒因子』………。

 それは、一般的にDNAとして知られる存在に類似するモノで、『人間』に限らず、この世に存在する『生きとし生けるモノ』から採取することが可能だ。

 この方法を実際に行ったのかは不明だが、世界初とされた『人型の《人工生命体》』を生成した結羽灯さんの父・師法(シホウ)隆充(タカミチ)は、多くの錬金術士達を震撼させた。

 そのせいか、その師法隆充氏は《魔導協会》から追われる身となったと言われている。

 その際に、彼が所属する《聖皇教会》は彼に一斎協力せず、逆に、彼は《聖皇教会》からも追われる身となった。

 そして、両勢力からの武力により、師法隆充は約二十年程前に亡くなった。

 しかし、そんな歴史が書き変わったかのように、『第四世代』と呼ばれる《人工生命体》が誕生した。

 それが、吉と出たか、凶と出たかは分からない。

 だが、それから凡そ数年後に、師法研究所は大規模な事故が起きた。

 それにより、ほぼ永久的に《人工生命体》の生成は謎に包まれることとなった。


「此処が、師法博士の研究所かぁ~~」

 所内を廻りながら、入衛(イリエ)さんは呟く。

 所内には幾つかの個室があった。

 その多くが壁や天上が崩れ、その破片が部屋中に散らばっていた。

 錬金術士が錬成を行う際、その場所を『アトリエ』と言い、その必須アイテムとも言えるのが『錬金釜』だ。

 しかし───、

「あれ?此処って『釜』が無いんだね………」

 所内を一通り見終わり、結羽灯さんの部屋にワタシ達。

 その中で、その『アトリエ』に興味があった入衛さんが開口一番に訊ねた。

 その問いが誰に対するものかは、おおよその見当が付く。

「無いよ?」

 その人物は、さも当然のように答える。

「どうして?錬金術には『錬金釜』が必要じゃん?」

「何?その時代遅れな発想……」

「時代遅れ………?」

 結羽灯さんは立ち上がり、奥に設置してある巨大なガラス瓶を小突く。

「今は、『窯迦炉』が主流かな?」

 結羽灯さんの口から、聞き慣れない単語が飛び出す。

 『窯迦炉』………。

 それが、この巨大なガラス瓶の名前なのかな?

 その『窯迦炉』とかいう巨大なガラス瓶の中には、(アオ)…………というか碧い液体が入っている。

 その碧い液体の事も気になるが、今は二人の会話のほうが気になった。

「でも、その『窯迦炉』って、私らの知る『錬金釜』と何が違うの?」

「うぅん。何が………、そうそう違いはないと思うけど、とりあえず、成功する可能性はグンと上がると思うよ?」

 結羽灯さん自身が『錬金釜』を使用したことが無いからか、結羽灯さんは疑問形で答える。

「そっかぁ~~。なら、少し使わせてもらっても良い?」

「ん?良いけど………メンテナンスの際には返してもらえれば」

「メンテナンス?」

 入衛さんにとっても聞き慣れない単語だったようだ。

「………ありがとう」

 しかし………、このやりとりだけ聞いてると、なんだか、同級生同士の会話に聞こえる。

「それじゃあ早速行くよ!柚希」

「…………。ふぇ!?」

 入衛さんの当然の指名に、ワタシは素頓狂な声をあげてしまった。


「この辺?」

「はい。微かに匂いがします」

 ワタシは、入衛さんに連れられ、西部にある森の中にいた。

 用件は、仕材取り。

 入衛さんの話では、錬金術に用いる材料を採取するそうだ。

 その仕材集めに、ワタシの五感を阿手にしているようだ。

 阿手にされるのは正直、良い気分ではある。

 しかし、なんとなく複雑な気分も匂わせている。

「お、あったあった。これかな?」

 入衛さんは、目的のモノだと認識すると、それを採取した。

「だと思います」

 ワタシは入衛さんの後ろから、入衛さんが手に取ったモノを見ながら答える。

 正直、そのモノが目的のモノかは断定できない。

 そもそも、それを探すのもわずかな情報しかもらってない。

 それも、入衛さんの記憶も曖昧な状態であった。

 それゆえ、ワタシは曖昧に答えるしかほか無い。というか、そうしか答えられない。

「じゃ、次だね?」

「あ、はい」

 入衛さんの後を着いて、ワタシは森の中を進んでいく。

 そんなワタシ達の後ろを、唯一咲良さんだけが着いて来ていた。

 その他の面子、最中さんは何処かに消え、結羽灯さんは昼寝をするそうだ。シルヴィアさんは登山が嫌らしく不参加、セレナさんはいつも通り、シルヴィアさんに着いている。

 なので、コチラもいつも通りの咲良さんと二人っきりにオマケ、という状況となっている。

 森の中を歩く内、入衛さんは、明らかに毒性を持っていそうなのキノコや、謎の樹の皮、黒光りした藻など、おかしなモノばかりを採取していった。

 通常の『人間(ヒト)』と違い、ワタシの場合はその数倍近い五感を持っている為、他の二人よりも多くのカンジが伝わる。

 なので、嗅いだり触れたりすると、それを余計に感じ取ってしまうのだ。

 変な気分だった………。

 それは、五感で感じたモノではなく、何か胸の内で感じるモノであった。

 しかし、それが何なのか………。今のワタシにはまったく分からなかった。

 いつか、分かる日が来るのだろうか?

 そんな、解決するとも思えない不安を抱きながら、ワタシは来た道を引き返した。


 そして、それと同時に、事件が起きた。

「凄いなぁ~~」

 のほほんとした口調で、入衛さんが呟く。

 ワタシは改めて周囲を見渡す。

 焼き伐られたように辺りに倒れている樹々。

 その中央に、一人の少女が立っていた。

 しかし、当然こんな惨状にした人物が『人間』であるはずがなく………。

「もしかして、アレが研究所を襲ったって言う………」

「はい。先程の奴とは違うみたいですが、おそらく同型種かと………」

 入衛さんの判断は早かった。

 まぁ、当然と言えば当然であろう。

「ふ~~ん」

 入衛さんは、懐から赤・青・緑の液体が入った小瓶を一つずつ取り出し、戦闘態勢に入った。

 以前、『内側』で見ていたが、どうやらソレが入衛さんの戦闘姿勢(オルムガス)のようだ。

 バキバキバキッ───!

 再び樹々が伐り倒されると同時、入衛さんは取り出した小瓶を三本とも手の中で砕いた。

「《水彩武装(パステルウェポン)》、『三色牙叉槍(バラードランス)』」

 その言葉と共に、手の中の液体は混ざり合い、一つとなって槍の形状を形成する。

「さぁ、どっからでも掛かって来なさい!」

 意気揚々と、入衛さんは三又槍を構えて、赤髪の少女と対峙する。

「目的とは異なるが、我の邪魔をすると言うのなら、容赦はしない」

 冷酷な口調で、赤髪の少女は赤鋼(アカガネ)の細剣を構え、入衛さんにその刃を向ける。

 赤髪の少女の目的はおそらくワタシだろう。

 しかし───、

「はぁあぁぁぁぁ~~!!」

 入衛さんは、そんな事お構い無しかのように、赤髪の少女と激戦を繰り広げる。

 彼女がこうしてワタシのところに現れたことで、研究所で寝むっているであろう結羽灯さんのことが気になったが、先程と同じく、最中さんやシルヴィアさんがなんとかしてくれるだろう。

 そう思い、ワタシは入衛さんと赤髪の少女の戦闘を警戒して眺める。

「《色彩魔術(カラーマジック)》、『黒斑鋭枝弾(ブラック・デン・バレット)』」

 入衛さんは、赤髪の少女が放つ炎撃の乱舞を交わし、黒い液体の入った小瓶を矛先で割って、槍の先端から黒い弾丸を飛ばす。

 炎の生成、その放出方法にはいくつかの法則性がある。

 しかし、赤髪の少女が放つその炎は、まるでその法則性を無視したかのような原理で生み出せれ、無限と言わんばかりに放出されていた。

「〈漠炎充填(フレイムリロード)〉………“業鉄(バルムンク)”」

 赤髪の少女の言葉と共に放たれる業炎の如き膨大な炎が、彼女の持つ細剣から放たれる。

 その炎は入衛さんだけでなく、その周囲に全てのモノ飲み込まんとするように辺りを覆った。

 ドクンッ───!!

「グッ!」

 突然、ワタシの脳裏に映像が映し出され、ワタシは激しい激痛に襲われた。

「アガッ、ア、アアァァアァァァァァァァ……………!!」

「ゆ、柚希ッ!!」

「な、何!?」「ッ!!?」

 咲良さんが呼び掛け、二人は戦闘を止めて事態を把握するが、その全てが遅かった。

「アアァァアァァァァァァァァァァァァァ………………」

 ワタシの視界は赤みを帯び始め、体内の血液が一気に活性化し出す。

 ワタシは、最期の最後まで諦めまいと、必至に意識を強く保ち、その激痛に耐える。

 ───ッ!!

 しかし、そんな抵抗もつかの間だった。

 ワタシの意志とは関係なく、《全能虚樹(アーケフォルチャ)》の『根』に回路(ヒドゥン)が接続され、“対戦闘覇戒武装(ウルキスオルム)”が起動する。

「アガッ、ア、アアアアァァアァァァァァァァ…………」

 同時に外された鎖環(クサリ)は六つ。

 それにより、ワタシの意識は飛び、ワタシの記憶にその後の展開が記録されることも無かった。

 唯一、記録されたのは、ワタシとは全く無縁であろう他人の過去の記憶だった。


「うっ………」

 頭痛のような痛みを余韻に残し、ワタシはゆっくりと目蓋を開いた。

「あ、気付いた………」

 目を開いて早々に映し出された光景は、咲良さんの悲しそうな顔だった。

 ワタシは、そっと辺りを見渡す。

 空は暗く、近くでは火が焚かれていた。

「こ、此処は………」

 若干痛みが退いたので、起き上がりなごら、近くにいた入衛さんにも聞こえるような声量で訊ねる。

 見渡せば、辺りにほ樹々が存在する為、此処が森の中であることは理解できた。

 しかし───、

「赤髪の《機巧人形(マシン・ドール)》なら、もういないよ」

 その言葉を聞き、なんとなくあの後の出来事が推測できた。

「さっきのアレ、いったい何なの?」

 入衛さんが訊ねる。

「アレ………?」

 入衛さんが知らないということは、彼女達の『オジサン』も知らないのだろうか。

 ふと、ワタシの脳裏にそんな結論が出来た。

「『オジサン』からは、貴女の事は何も聞かされてないからね。貴女が《人工生命体》であることもこの間の件で知ったし………」

 そうだ。

 そういえぱ、入衛さんはそんな事を言っていた。

「あんなの見ちゃうと、《人工生命体》なんて造る気になれないね………」

 入衛さんはポツリとぼやく。

 ワタシは、入衛さんのその判断は間違っていると思った。

 現に、最中さんはこんな感じにはならないそうだ。

 だが、その答えに一つの不審な点はあった。

 確かに、ワタシは時々暴走するし、最中さんはそんな傾向はまったく無い。

 しかし、結羽灯さんの話では、あの島の惨状を生んだのは、他でもない、悠哉さんだと言っていた。

 そこで、ワタシは一つの仮定に結び付いた。

 もしかしたら、ワタシは、その悠哉さんによって造り出された《人工生命体》なのではないのかと………。

 その理由もちゃんとある。

 そもそも、悠哉さんとその妹の伊織さんは、結羽灯さんの父・師法隆充によって造り出された《人工生命体》だ。

 あの結羽灯さんが最中を造り出させた以上、同じようにその人物の近くにいた悠哉さんも、もしかしたら造り出すことが可能なのではないか。

 しかし、そこで、ある疑問に直結する。

 なら何故、悠哉さんは、自身が造り出した《人工生命体》を自分自身で何とかしようとせず、入衛さん達《七罪聖典(セブン・シンズ)》に依頼したのか。

 そこが疑問であったが、また逆の考えで、まだ入衛さん達が『オジサン』と呼ぶ人物が悠哉さんだと決まった訳でもなかった。

 そもそも、もし悠哉さんが生きているのなら、その年齢は推定二十歳前後だ。

 そんな人物が『オジサン』と呼ばれるだろうか。また、呼ばせるだろうか。

 謎の多い部分が多々あるが、一つ解ったのは、ワタシの記憶が今回の出来事で一つ増えた事だった。

 本当に暗くなる前に、ワタシ達はそれぞれの家に帰宅した。

 結羽灯さんの方は何事も無かったらしいが、研究所には最中さんが残ることとなった。

 いよいよ解らなくなり始めたワタシという存在。

 初めは、ただ《神桜樹》を咲かせるだけだった出来事も、今では街全体を巻き込む騒動に発展しかけている。

 誰が何の為に、何を企んでいるのかは未だ不明だ。

 しかし、ワタシが《神桜樹》を咲かせた事に何か意味があったのなら、ワタシと《神桜樹》の関係に何かしらの因果関係のようなモノが存在すると考えられる。

 だが、今だその事に何の手掛かりも無く、この流されるような日々は、悠然と何処かに向かっていた。

 曖昧な疑問が頭を過る中、ワタシはひとまず諦めて就寝することとした。



 少年は、街を徘徊していた。

 何の目的も無く、自分の中にあるただ一つの『願望』を持って。

 それが、自分自身が持たないモノだと理解していても、少年がそれを否定することは無い。

 何故なら、少年の中にあるその『願望』こそが、少年の唯一にして無二の『存在理由』であり、果たすべき『使命』なのだから。

「まだ、『覚醒』へは至っていないようですね」

 少年の身体から、漏れるように放たれている闇色の瘴気は、微かに吹く風に煽られ、少年の存在を更に怪しく映し出していた。

「もう一手間、必要でしょうか?」

 少年が天に向かって手を翳すと、辺りは一瞬だけ闇色に染まった。

「さぁ、目覚めて下さい。貴女には、その『使命』と『存在価値』があるのですから………」

 少年の言葉に呼応するかのように、空は蠢き、辺りの空気が微かに冷めていく。

 少年はすぐさま姿を消した。

 そのたった一手間を残し、後の展開を楽しむ訳でも無く…………。



 師法研究所。

「あれ、博士。まだ寝ないの?」

 最中が訊ねると、机に向かって真剣に作業をしていた結羽灯が椅子をずらして振り向く。

「うん。少し、気になった事があったから………」

「気になった事?」

 最中は首を傾げた。

「柚希ちゃんの事………」

「柚希がどうかした?」

 最中は、結羽灯の隣に立つ。

 結羽灯の机には、様々な色の液体が入った細長い試験管が並べてあった。

「柚希ちゃん、あの………《機巧人形》?と戦ってた時、少し変な雰囲気だったから………」

「変………?」

 最中は、余計に首を傾げた。

 変だとは感じなかったのか、あるいは、どう変なのか理解していないのか………。

 結羽灯はそれを訊ねることなく、言葉を紡ぐ。

「う~~ん。何かこぉ~、少し荒っぽくなったと言うか、血の気が多くなったと言うか………」

 結羽灯にもよく分からないのだろう。結羽灯は曖昧に答える。

「ああぁ………」

 最中には心当たりがあるはずだ。

 しかし、その心当たりは結羽灯と最中とで、大きな違いがあった。

 最中が知っているのは、他人によって無理やり暴走させられた時の柚希。

 結羽灯が知っているのは、柚希自らが自身に負荷を掛けたような展開のみ。

 二人の知る普段の柚希は、寡黙で冷静な十歳くらいの少女。

 その違いは、二人とも気掛かりではあったのだろう。

 しかし、それが何のかまでは予想が着いていない感じだった。

「それにしても………、《人工生命体》かぁ……」

「何?唐突に……」

 結羽灯は、何故、最中が出来たのかは理解などできていなかった。

 それでも、最中が出来た以上、自分にも錬金術士としての資質があると確信していた。

 しかし、自分には最中を造る以外、何一つ取り柄など無い。

 その一方、自分が何一つできないことが気掛かりでならなかった。

 それは、十三年前の事件でも同じ事だ。

 自分が不甲斐ないばかりに、折角の家族を失った。

 尊敬していた父親の死、唯一無二の弟と妹の行方不明。

 その同時に起きた悲劇によって、結羽灯は一人苦悩していた。

 自衛局が《人工生命体》の生成を禁止していることは、事前に知っていた。

 それでも、微かな可能性があるのならやる価値はあると思って、何度も自衛局と交渉を繰り返した。

 最初は、やはり取り合ってもらえることも無かった。

 それからおよそ六年が経ち、結羽灯は当時路頭に迷っていた双葉(フタバ)風音(カザネ)と出会った。

 そして、彼女と色々と話す内、彼女の手伝いをする変わりに、結羽灯は《人工生命体》生成の許可を仮だがもらっていた。

 それから三年後、風音が自衛局でも上位の人間になったことで、結羽灯の《人工生命体》生成は自衛局公認のものとなり、結羽灯は錬金術をやり易くなった。

 その過程で、最中は造り出された。

 それは、今から四年前。

 突如として起きた奇跡のような出来事だった。

 その二年後、結羽灯は、悠哉によく似た少年、織詠(シキヨミ)修哉(シュウヤ)と出会った。

 それは偶然か。はたまた必然か。

 それも分からないが、それに抑圧されるように今年、柚希と出会った。

 それこそ、運命と言わんばかりに………。

 その結果か、結羽灯には《人工生命体》というものがよく分からなくなってしまっていた。

「結局のところ、お父さんは何を思って悠哉と伊織を造ったのかな?」

 当時の隆充の言葉では、小薙兄妹の存在は結羽灯の遊び相手という扱いであった。

 しかし、今となってはその意味も用途もよく分からない。

 それに、訊ねようにも、父はもうこの世にはいない。

 ならば、行方不明になっている二人を探すのが《人工生命体》というモノを知る上で、最も最良の手と判断したのだ。

「そこに何か意図みたいなのがあると考えてるの?」

 最中が訊ねると、結羽灯は考えを改める。

「う~~ん。どうなんだろ。それで解決するとは思ってもないけど、何とかしたいよね………」

「できるならね?」

 最中が余計な茶々を入れる。

 しかし、結羽灯にとってそれは、何よりも安心できる事だった。

 だから、今だ錬金術を行っているのかもしれない。

 例え、錬金術士と自称することが出来なくても、それなりの技術を保持していると胸を張って言えるはずだ。

「でも、どうしたら…………」

 結局、結羽灯は悩むことしか出来なかった。

 何も出来ない自分、あれから、何一つ変わらない現状。

 長い月日は経っているのに、結局のところ、結羽灯が出来ることは、これだけしか無かった。

「悩むより、先を見つめたら?」

 その言葉を何処から吸収して来たのか。

 《学園》に通わしたことを間違いだとは思わない。

 けれど、《人工生命体》の知識は、その誕生の瞬間に確定される。

 それは、悠哉と伊織の存在で十分に理解していた。

「そうだね。うん、そうしてみるよ」

「ガンバ、だよ」

 最中の励ましを受け、結羽灯は机に向かい直して作業を再開した。


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