↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子の秘密の恋を守った皆様へ、後始末も皆様でどうぞ【連載版】  作者: 星渡リン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/27

第27話 ジェラルドの署名

 二通の招待状は、同じ大きさだった。


 王太子宮で用いる厚手の紙。


 青い封蝋。


 第一長卓上座という、同じ席。


 そして末尾に記された、ジェラルド・ハウゼンの名。


「こちらを承認したことは、覚えていますか」


 クラウディアが、先に発行された招待状を示した。


「はい」


 アーデン侯爵家へ送ったものだ。


 前回の大夜会でも第一長卓に座った家であり、今回も同じ席を用意する。席次会議で決まった内容を確かめてから、ジェラルドは署名した。


「では、こちらは?」


 フェルナー侯爵家への招待状が、その隣へ置かれる。


 ジェラルドは発行日を見た。


 三日前。


 北方使節から届いた要望と、国内貴族から寄せられた面会の申し込みを整理していた日だった。


「草案を読んだ記憶はございます」


「第一長卓上座という部分も?」


 答えるまでに、わずかな間が空いた。


「……読んだはずでございます」


「覚えてはいないのですね」


 ジェラルドは否定できなかった。


 フェルナー侯爵家が北方使節との挨拶を望んでいることは確認した。侯爵領の穀物を北方へ輸出していることも知っていた。


 だから、使節と話せる位置を用意するという回答は妥当だと判断した。


 卓の番号まで、最初の招待状と見比べなかった。


「別々の書記官が作成した書類です」


 アルフレッドが言った。


「ジェラルドのもとへ届いたのも、六日と三日前で離れている。すべてを覚えているのは難しいでしょう」


「ええ。ですから、記憶だけに頼らないために発行記録と席次表があります」


 クラウディアは声を強めなかった。


 フェルナー侯爵家の草案に添付されていたのは、卓の番号がない出席者一覧だった。


 その不足を指摘できる者が、承認欄に署名する者だった。


「書記官に、侯爵家へ約束する席を決める権限はありません。王太子宮の印を使わせたのは、あなたの署名です」


 ジェラルドは二通の末尾を見た。


 どちらの名も、同じように書かれている。


 一通目へ署名したときは、席次表を確かめた。


 二通目では、内容に不自然なところはないと思い、次の書類へ進んだ。


 紙の上には、その違いは残らない。


「申し訳ございません」


 頭を下げる。


「謝罪なさる相手が違います」


 クラウディアの言葉に、ジェラルドは顔を上げた。


 彼女は側近章を外すための小箱を、卓の端へ置いた。


「選びなさい」


 金具の音を立て、小箱の蓋が開かれる。


「今ここで側近章を返し、王太子付きの職を辞するか。側近として両家を訪ね、ご自分の署名によって同じ席を二度約束したと説明するか」


 会議室にいた誰も、口を挟まなかった。


「後者を選ぶなら、書記官の間違いとは申し上げないこと。先に訪ねた家へ、内々に譲るよう求めることも認めません。二家へ同じ記録を示し、同じ説明をなさい」


「どちらの家も、譲らなかった場合は」


「その返答を持ち帰りなさい。席次の変更は、王家が考えます」


 ジェラルドが謝れば、椅子が増えるわけではない。


 相手が許すとも限らない。


 それでも、誰が誤った約束をしたのかを曖昧にはしないということだった。


 ジェラルドは卓の端にある小箱を見た。


 やがて二通の招待状を重ね、自分の前へ引き寄せる。


「両家へ、面会をお願いいたします」


     ◆◆◆


 アーデン侯爵は、王都邸の書斎でジェラルドを迎えた。


 灰色の髪を短く整えた老侯爵は、差し出された二通を最後まで読むと、眼鏡を外した。


「つまり、我が家へ約束した三日後に、同じ席をフェルナー侯爵家へ約束したと」


「そのとおりでございます」


「席を知らせる文を作ったのは?」


「別々の書記官です」


「署名したのは?」


「どちらも私です」


 老侯爵は、二通目の末尾へ目を落とした。


「それで、私に譲れと?」


「そのお願いに参ったのではございません」


 ジェラルドは、王太子宮の発行記録を机へ置いた。


「二つの約束が存在することをお伝えし、王家からの訂正方法についてご意見を伺うために参りました」


「都合の悪い一通を、なかったことにはしないのか」


「できません」


「できないのではなく、これまでは、誰かになかったことにしてもらっていたのでしょう」


 ジェラルドは返事をしなかった。


 老侯爵は、しばらく彼を見たあと、招待状を机へ戻した。


「我が家は、最初に示された席を変更する理由を持たない」


「承知いたしました」


「ただし、フェルナー侯爵家へ別の説明をしてはならない。私が強く求めたから動かせなかった、とは書くな。王太子宮が二重に約束し、先に発行した席を維持したと記しなさい」


「書面へ、そのまま記載いたします」


「大夜会の前に、訂正文の写しを我が家へ届けること」


「必ず」


 許すという言葉はなかった。


 面会の終わりに差し出されたのも、握手ではなく、二通の招待状だった。


     ◆◆◆


 フェルナー侯爵家へ到着したころには、窓の外が夕暮れの色へ変わっていた。


 フェルナー侯爵は、娘と領地の会計官を同席させていた。


「第一長卓へ座れば、北方使節と話せる。王太子宮からは、そう説明を受けております」


 侯爵が言う。


「はい」


「それが、すでに別の家へ約束されていた席だった」


「私が確認せず、承認いたしました」


 ジェラルドは、アーデン侯爵家で示したものと同じ発行記録を机へ置いた。


 フェルナー侯爵は記録を読み、隣の会計官へ渡した。


「第一長卓でなければ、北方使節との話はできないのですか」


 ジェラルドはすぐには答えなかった。


 大夜会の進行表を開き、王族への挨拶、晩餐、舞踏の時刻を確かめる。


「晩餐前の王族挨拶では難しいでしょう。ですが晩餐後、北方使節の休憩室であれば、正式な面会の時間を設けられます」


「何分です」


「現状では、十分間です」


「穀物の輸送と関税について話すには足りない」


 侯爵の娘が初めて口を開いた。


 彼女の前には、北方へ輸出した穀物の一覧が置かれている。


「ご挨拶だけで終われば、次の協議を申し込むために、また何か月も待つことになります」


「どれほど必要でしょうか」


「少なくとも三十分。交易局の担当者にも同席していただきたいです」


 ジェラルドは進行表の余白を見た。


 北方使節は晩餐後、舞踏が始まるまで四十分の休憩を取る予定になっている。


「三十分を確保します。交易局の北方担当官にも出席を依頼いたします」


「今、あなたの判断だけで約束するのですか」


 フェルナー侯爵の問いに、ジェラルドの手が止まった。


 開きかけていた手帳を閉じる。


「いいえ。王妃陛下と儀典部へ持ち帰り、北方使節団にもご都合を伺います。すべての承認を得たうえで、今夜中に書面をお届けいたします」


 同じことを、もう一度繰り返すところだった。


 侯爵は椅子の背へ体を預けた。


「承認されたならば、我が家は第二長卓の上座へ戻りましょう」


「ありがとうございます」


「礼を言われることではありません。私たちが最初に求めたのは、上座ではなく、北方使節と話す機会です」


 侯爵は、王太子宮から届いた招待状を指で押さえた。


「ただし、席の変更が我が家の辞退によるものではなく、王太子宮の二重発行を訂正した結果だと記してください」


「承知いたしました」


「その書面にも、あなたが署名を?」


 ジェラルドは招待状にある自分の名を見た。


「はい。私が署名いたします」


     ◆◆◆


 王宮へ戻ったジェラルドは、面会時間の確保を儀典部へ求めた。


 北方使節の休憩を十分間短くし、舞踏の開始を十分間遅らせる。


 交易局の担当官は、すでに大夜会へ出席する予定だったため、新たな招待は必要なかった。


 使節団へは、王宮の北方担当官を通じて面会の目的と出席者を伝えた。穀物の輸送についてであれば話を聞きたいという返答が、ほどなく届いた。


 使節団、クラウディア、儀典部長の承認がそろうと、二通の訂正文が作られた。


 一通は、アーデン侯爵家へ。


 一通は、フェルナー侯爵家へ。


 宛名と変更後の予定を除き、冒頭の文は同じだった。


『王太子宮の確認不足により、第一長卓上座を二家へ重ねてご案内したことを、ここにお詫び申し上げます。』


 末尾には、承認者の名を書く欄がある。


 ジェラルドは一通目に署名した。


 次に二通目を並べ、最初の書面と一行ずつ見比べる。


 時刻。


 卓の番号。


 北方使節との面会時間。


 交易局担当官の名。


 すべてを確かめてから、二つ目の欄へペンを置いた。


 朝と同じ名が、紙の上へ記された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
内容そのものは面白い気がするのですが、 何ていうか、演技なしに台本を読み合わせしているかのように物語が淡々と進むのがちょっと残念です。 読んでいても感情移入しないし盛り上がりもしない、でも内容は面白い…
更新ありがとうございます 貴族は当然席次には拘るよね 同じ立場の侯爵家なら 世間は譲った方に勝ち負けの評価をするもんね フェルナー侯爵は王家に貸しをつくったことになるのかな? しかしお役所はちゃんとチ…
どうしてAIの考えた小説って席がどうのって話になるんだろうなw AIでも面白けりゃ別にいいんだけど、AIの席順に対する拘りが強すぎる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。