第4幕『戦場にて、剣は重く、意志は鋭く』
オレは今、戦場の真ん中で暴れてる“何か”に、思いっきり殴りかかってる。
「ぅおおおおらあああああ!!」
ズガンッ!
セブンの刀身を両手で振り抜いて、真正面から叩き込む。
質量5tに設定した一撃が、でかいトカゲみたいなモンスターの顔面を潰した。
骨の砕ける音と一緒に、地面に沈む重量感。
派手に血が飛ぶが、どこか現実味がなかった。
たぶん、相手が人間じゃないからだ。
まだ“殺す覚悟”なんて、できちゃいない。
けど、こいつらは……まだマシだ。
「ワイヤー支点、左上。展開します」
アリスの冷静な声が響く。
同時に、視界の上端に銀のラインが伸びた。
建物の瓦礫に刺さったワイヤー。オレの頭の少し上。
「サンキュッ!」
オレはそれを蹴って、空中へ。
真下に、モンスターが一体。牙を剥いてこっちを見ている。
「質量、15tで着地補正!」
《了解》
セブンを逆手に構え、全体重+セブンの重量で落下。
バシュッ!
風を切る音と、骨の砕ける音が重なった。
……なんだこれ。
むちゃくちゃ効率的だ。
「さすがだよ、セブン」
《称賛と理解不能な戦闘スタイルを同時に受理。
記録名称:“重撃型フリーフォール連携”》
「わかりづらッ!!」
そのとき、背後でまた別のモンスターが吠えた。
こっちを見て、突進してくる。
背丈2メートル超えのイノシシみたいな奴。牙のサイズだけでヤバい。
……が。
「では、特訓の方法を——説明しよう!」
ギュウウウウン!
空間が光って、男の横に、妙な物体が転送された。
トゲトゲ。
鉄製のゴーレム。
胸に「訓練用」と書かれた看板が下がってる。
「“ナグリマネキンMk-Ⅳ”転送完了ッ!!」
「いやまたお前かよ!?今それ出すタイミングじゃ——」
ズドォォン!!
突進してきたモンスターが、ゴーレムにぶつかる。
そして——
ボンッ!!
爆発した。
訓練マネキンごと、敵がふっとんだ。
地面がえぐれ、黒煙が立ちのぼる。
オレとアリスが揃って硬直した。
「……なんか、勝ったぞ」
「確認:戦術効果、良好です」
爆風の収まったあと、しばらくして彼はポツリと呟いた。
「……いや、あれは、ミナセくんの訓練用仮想敵として転送したのだが……」
視線の先では、モンスターの死体が煙を上げている。
「モンスターがうじゃうじゃいる場所で、わざわざ“訓練用”を出す意味はなかったのでは……?」
「……しょぼーん……」
「オイ!!こんな鉄火場でしょんぼりすんな!!」
——それでも。
前を見れば、まだモンスターは残ってる。
地面を這い、壁を壊し、叫びながら迫ってくる。
アリスが、次の支点を張った。
セブンの質量設定が変わる。
白衣の男が、今度は小型の起爆球を取り出し、別のモンスターにポイっと投げる。
もう、オレたちは完全に“チーム”だった。
「アリス、次、あの屋根の上!」
「展開します。補助支点、右上、三秒で展開完了」
「セブン、質量上限どこまでいける?」
《この環境下では80tが限界。使用時は覚悟と覚悟と覚悟が必要》
「お前の警告、地味に怖ぇよ!」
ツッコミながら、オレはまた跳んだ。
空のど真ん中。
この戦場のど真ん中で——
オレは、ようやくこの世界の“地面”を踏んでいる気がした。




