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境界のソードファンタズマ  作者: 矢崎 那央
第1部6話『空に届く力』
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第2幕『父、語る。そして義父になる』


  しゅう……。


 

 光が消えたあと、部屋の片隅に、ゆらりと白い煙が立ちあがる。



 ——そしてそこから、現れた影があった。

 白衣をまとい、威風堂々と立つ、ひとりの男……。



 ……私である。



 「やあ、愛しき我が息子よ!!!」


 

 名乗りは完了した。

 すべてが完璧なタイミング。


 

 だが……。


 

 ミナセくんは床に倒れ、アリスに押し倒されていた。


 顔を赤くし、うめきながら何かを言いかけていたが、

 私は確かに見た。



 うむ。やはり、私の父性センサーは正しかった。


 これは、父として、いや義父として、見過ごせない光景である。



 「息子よ……いや、義息子君よ!」



 私は一歩踏み出し、拳を握りしめた。


 「まさか……まさか、我が娘アリスと、すでにそこまで深い仲になっていようとは……!」


 「なってねぇよおおおおお!!」


 

 ミナセくんが絶叫した。

 しかし、私は動じない。


 

 「いや、いいのだ。否定しなくても。

 それより、私のことはこれから“パパ”改め“お義父さん”と呼ぶがいい」


 「呼ばねぇよ!!!」



 「私の父性は、それをも受け入れよう。

 親戚付き合いは大歓迎だ。年末年始は帰ってこい。焼き芋を用意しておこう」


 

 なお、この時点でアリスは、ミナセくんに絡めたワイヤーを外してはいない。拘束し、押し倒した彼にピッタリ密着したままだ。



 セブンは、彼の鞘の中で黙っているが、重さがズシリと増しているように見える。


 その反応が私を歓迎しているのか、拒否しているのかは判別不能だ。

 まあでもあれは、歓迎しているのだろう。


 間違いない。



 「ところで君たち、私の登場に驚いているようだね。ふふふ、無理もない」


 私は、胸を張る。



 「私はずっと、君たちを見ていた。

 あの戦いも、あの通信も、全部だ」


 「……“全部”って、どこまでだよ」



 「全部と言えば全部だよ」


 彼のツッコミに、私は堂々と応じる。



 「例えばミナセくんが、野営しながら、

 眠っている我が娘アリスの、スリットから覗く太ももを

 ねっとりと見つめていたあの夜も、私は見届けていた」


 「やめろおおおおお!!!」


 

 「いや、気にするな。君は健康な男子高校生。

 そういうフェチも、私はすべて受け入れる。これが父性というものだ」


 「そうじゃねぇよ!!今すぐその記録を消せ!!」



 《注釈:当該映像ログは“ユーザーの嗜好データ”として、当ユニットにも保存されている》


 セブンの冷たい声が入る。


 「お前もかよぉぉぉ!?!?!?」


 

 この時点で、ミナセくんのツッコミは限界を迎えたようだ。



 「いい加減にしてくれ!!これ以上ボケ要員を増やすな!!

 ツッコミはオレひとりだから渋滞してんだよ!!!」


 《申請:当ユニットを“ボケ担当”と分類したユーザーの判断に対し、正式に遺憾を表明する》


 「いやむしろお前が一番ややこしいんだよ!!!」



 


 私はうむ、と頷いた。


 この空間、まさに“家族”。


 混乱と絆が同時に成立する、尊きトライアングルである。




 さっきから、ミナセくんのツッコミは激しいが、

 思春期の娘(♂)とは、そういうものだ。

 父性は、はじめ拒まれる。それが通過儀礼。


 これは、信頼を築くための儀式のようなものだ。


 


 私は、アリスの方に向き直る。



 「それにしても、我が娘よ。君もまた、変わったな」


 「わたしに該当する父娘関連プロファイルは、存在しません」


 「……なるほど。照れ隠しか。なんと尊い」


 


 ワイヤーが、キィィン……と音を立てた。

 アリスが、ミナセくんを押さえたまま、私を刺すような目で見ている。


 


 彼女の瞳には、なぜか激しい嫌悪感が滲んでいる。

 ……が、その裏には恥ずかしさと困惑がある……気がする。


 たぶん、照れているのだろう





 「では本題に入ろう」


 私は、床に設置したポータルを起動した。


 ボンッと煙を吹き出しながら、トゲトゲの訓練マネキンが出現する。


 


 「この訓練器具は、いわば父性の延長である」


 「いやどう見ても殺す気満々のビジュアルなんだが!?」


 


 私は構わず続けた。



 「これより、君たちは“修行”を行う。

 場所は……王国軍の前線拠点だ」


 「なんでだよ!!修行ってそういうのじゃねぇだろ普通!!」



 「大丈夫、私は同行する。共に戦い、共に育もう。

 それこそが、父子の“共闘フェーズ”というものだ」


 


 ——つまりそれは、死地である。


 だが私はそう感じたのだ。


 これは、彼らを次なるステージへと導くための試練。

 父として、選ばれし者に課すべき成長イベント。


 


 「これは、君たちの覚醒のための儀式である。

 そして私にとっても、真の義父となるための試練だ」


 私は拳を握りしめた。


 その背後で、マネキンが爆発した。どデカい音がした。


 

 ミナセくんは倒れたまま、空を見つめていた。


 

 「……もう、いやだ……」



 ——彼の魂が脱けた。


 だが、それでも私は信じている。


 この少年は、いつか私を“お義父さん”と呼ぶ日が来ると。


 間違いない。


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