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第32話:帰還

『クレア! またね、元気でね』

『無理すんなよ』

『つらいときは、あたちらが駆けつけるから』

『ぼくらはもう、使い魔としての仲間ではないけれど』

『でも、これからも幸せの詩をクレアに贈るから』


 私はカエルの仲間たちに声援を送られながら、マルーベ王国の王宮へと到着した。

 いっぱい仲間たちが話しかけてくれたから、実はあまりエイダンとは話せてなかった。


 仲間たちが魔女の元へと帰って行く背中を見送った。

 エイダンを見ると、どことなく元気がなさそうだった。


「エイダン。長距離の移動、魔法の使用に、傷。疲れたでしょう? 今日は、もう部屋に帰って休みましょう」


 私がそう促すと、エイダンは目をまばたかせた。


「いや。そんなことは、あとでよくて。僕は、きみに無理をさせているのでは、ないだろうか?」

「無理?」


 私はピンとこず、首を傾げた。

 エイダンは、地面に膝をつき、おそるおそる私の手を握った。


「僕はきみを、クレアを愛している。変わらない事実だ。だけれど、クレア。きみは? カエルに戻りたがっていたと、カエルたちは言っていた」


 私は目を丸くした。あのエイダンが私の意志を確認してくれている。そのことが、とても嬉しかった。


「カエルに戻りたかったのは本当です。人間の姿でいられなかったから。あなたのそばには人間じゃないといられないと思ったから」


 エイダンの私の手を握る強さが増した。

 私は照れながらも、エイダンを安心させたくて、笑った。


「でも、あなたのおかげで人間の姿になれました。ただ、魔法は使えなくなっていると思うので、そこは期待しないでください。私も、エイダン。あなたを愛しています」


 私は腰をおって、私からエイダンの唇に私の唇を寄せた。

 すぐに、唇をはなしたけれど、エイダンは顔をうつむかせて、固まったままである。

 心配になって、私もかがむと、エイダンの顔が真っ赤になっているのが目に入った。


「では、休みに行きましょうか」


 私がエイダンの手を引いて、立たせた。

 エイダンは立ち上がると、こんなことを言い出した。


「いや、一緒に行ってほしいところがあるんだ」

「え。こんな夜中にですか?」

「大丈夫。先に伝令魔法を飛ばして置いたから。きっと今か今かと待っているはずだ」

「どなたかをお待たせしているの?」

「それは会ってからのお楽しみさ」


 エイダンは、私の腕を取り、私の歩幅に合わせて歩き出した。


 着いたのは、謁見の間。

 私が文句を言う前に、エイダンは扉を開けた。


 謁見の間、玉座に王さまが退屈そうに座っていた。


「今、何時だと思っているんだ? エイダンよ」

「すみません、陛下。けれど、無事意中のクレアを連れて帰ってこれたことを、報告したかったのです」


 王さまはあくびをしながら、エイダンに答える。


「話はそれだけか?」

「はい。まだ当人同士での話が終わっておりませんので」

「ふぅむ。以前よりかは、考えるようになったのぅ。……無事、クレア・ノワールの顔も見られたし。あとは彼女たちに任せよう」


 王さまがそう言うと同時に、謁見の間の奥の扉が勢いよく開いた。

 奥から女性がふたり飛び出してきた。


「クレア! 何にも言わずに出ていくなんて!」


 ひとりは、リリーで。


「クレアさん。あんなにも、あんなにも口を酸っぱくして相談なさいって言いましたのに!」


 もうひとりは、エメリーンだった。

 私は、ふたりにがっつり抱きしめられていた。


「心配かけました……?」

「かけられたわ! 心配したに、決まっているでしょう!」

「そかぁ……。ごめんなさい」

「うっ。いいんですの。戻ってきてくださいましたから」


 そうして、ふたりに思いっきり泣かれてしまい、私は次があるならそのときは、彼女たちにちゃんと話そうと誓ったのだった。


 先に泣き止んだ、エメリーンが涙をハンカチで拭いながら尋ねてきた。


「夜会まであとひと月。ドレスはありますの?」

「魔法使いの制服じゃあいけませんか……?」


 エメリーンはため息を吐いた。リリーは「クレアらしい」と言って泣き笑いしている。


「その心配は、要らないよ」

「お兄さま、またクレアのことも考えもせず勝手に用意されたの?」


 エイダンの言葉にエメリーンは非難の声を上げた。

 エイダンは首をゆっくり横に振った。


「ちゃんと想いが通じ合ったら、服を作ってくれると言ってくれた店があるから。明日、改めて出向いて、依頼してみようと思っているよ」


 ふと玉座のほうを見ると、王さまが大きなあくびをしていらっしゃった。

 ほかの三人は気付いていないみたいである。

 時間を考えれば、エイダンと私が非常識。


 せっかく、私を待っていてくれたリリーとエメリーンには悪いけれども、美容のためにも早く寝かせてあげなければ。

 意を決し、三人に声をかけた。


「明日も明後日も、私はいます。今日のところは、休みませんか?」


 三人は目を丸くした。「でも」と誰かが言ったとき、玉座から拍手が鳴った。


「流石、クレア嬢。ちゃんと周りが見えている。わしに限らず、皆眠いであろう。今日のところは解散である」


 王さまの言葉で、その日は解散となった。


 家に帰る途中、リリーと並んで歩いた。

 リリーはまだ涙をこぼしていたけれど、家の分かれ道にくるとくしゃりと笑った。


「クレアがどっか行っちゃったと聞いたときは、悲しかった。でも。戻ってきてくれて、本当に嬉しい。またモーニモーニでイチコンの実の料理を食べましょう?」

「食べたい! 心配してくれて、待っててくれて、ありがとう」


 私は頭が下がった。


「いーえー。じゃあ、おやすみなさい。また、明日ね!」

「うん、明日」


 そうして、手を振って、お互いの帰途についた。

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