最終話:祝福の祭典
日は矢のように流れ、春の祭典の日がやってきた。
昼間から賑やかで、天気も良かった。
私はフィダー・リーのお店にいた。
今夜のドレスの着付けであった。
先日、フィダー・リーのキラキラおにいさんとマダムは、エイダンと私が想いが通じ合ったことの報告に行くと、とても喜んでくれた。
「めでたいし、以前会ったときから原石ちゃんのドレスは作ってあげたいとは思っていたけれど。あなたたち、もう少しはやく結ばれなさい! 忙しいったらありゃしないわ」
エメリーンに聞いたことだけれど、フィダー・リーはとても良い仕事をするお店で予約も基本いっぱいなのだという。
それでも、私のドレスを仕立ててくれるというのだから、頭が下がる。
「もう! 主役がギリギリまで王宮で着替えず、お店で着替えるのだって、前代未聞なのに」
そうなのだ。私がワガママを言って、お店で着付けてもらっていた。
「どうしても、晴れ姿を見せたいひとがいるのですが、王宮には来ないと思うのです」
私は肩を落とした。
キラキラおにいさんは、私の背中をバシッと一発叩いた。
「背中が曲がっていたら、きれいな姿も野暮ったいわ。姿勢を正して」
「はい」
「さあ、最後の仕上げよ。笑って!」
「はい……」
「そんな眉毛下げた顔、誰が見たいものですか。いま、幸せなんでしょう?」
私は首を縦に振った。
そこへ、エイダンが顔を出した。
「流石、フィダー・リーのドレスとクレアだ。素敵だ。似合ってる」
エイダンはカツカツと近寄ってくると、キラキラおにいさんに目配せをしたと思ったら、私を抱っこした。絵本で見た、お姫様抱っこというものだ。
ギョッとしたのと恥ずかしいのとで、顔が赤くなっていくのが分かる。
「ほら、お姫さま。行くよ? 皆が待ってる」
フィダー・リーから出ると、大勢のひとが拍手と花びらを投げかけてくれた。
私たちは、馬が引く豪奢な箱――馬車に乗り込んだ。
馬車が道を進む中、私は窓から、ちいさな姿で隠れているつもりの魔女を見つけた。
魔女はとても不安そうな、泣きそうな顔をしている。
だから、私は魔女に安心してもらいたくて、微笑んだ。
外のひとたちの歓声が大きくなった気がした。
無事、王宮に着き、馬車から降りる。
さぁ、夜会のダンスの時間である。
たくさんの好奇の目に晒されながら、エイダンに導かれて王さまの元へ挨拶へ行く。
王さまは、エイダンの隣で微笑む私を見て、ニヤリと笑った。
「いい顔だ。クレア嬢、きみは我が国を救った英雄。そして、我が息子エイダンの隣を歩く覚悟をしたんだね?」
「はい、陛下」
私は遅ればせながらも、淑女の礼を取る。
王さまが微かに笑う声がした。
「さぁ、夜会のファーストダンスを」
エイダンに手を引かれ、私は王さまの御前を下がった。
そして、その場に響く、彩り豊かな音楽が、すっと静かになった。
エイダンと共に、場の中央へと向かう。
お互い礼をしたところ、ひと呼吸あって、音楽が始まった。
緊張で、顔がこわばっていくのを感じていたら、エイダンが囁いた。
「楽しくない?」
「じゃなくて……」
「ほら、きみの好きなステップがくる。笑って」
クルクルと回るステップが上手くいって、思わず口角が上がる。
「その調子」
そうして、笑顔で踊りきったのに、エイダンは場から動こうとしない。なんなら、うずくまってしまった。
私は心配になり駆け寄った。
その私の手をエイダンは掴んだ。
「わたし、エイダン・オクサイド・ジョンブリアン・マルーベは、クレア・ノワール嬢に結婚を前提とした交際を申し込む!」
その場にいた誰もが、聞き取れる声量でエイダンは宣言した。
立ち尽くす私に、エイダンは促す。
私は笑って、気持ちを伝えた。
「返事を聞かせて、クレア」
「クレア・ノワールはエイダンさまを愛しています。もちろん、喜んで」
そして、私からエイダンに口づけを落としたのだった。
この出来事は、貴族の間でも、平民の間でも、大きく取り上げられた。
この日、夜空に流れ星が幾つも、空を駈けた。
魔女はクレアの顔を思い出し、幸せを願った。
カエルの仲間たちも幸せを願う詩を紡いだ。
こうして、クレアとエイダンの交際は始まった。
エメリーンの助け、ほかの貴族の娘たちの助けもあり、クレアが王子妃の地位につくのも、遠くない未来の話である。
そして、子どもも産まれ、エイダンと幸せな家庭を築くのであった。
めでたし、めでたし。
これにて、完結となります。
クレアとエイダンの物語を読んでいただき、ありがとうございました!
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もしよろしければ、感想いただけますと、クレアたちと跳びはねて喜びます。
また、次の作品でお会いしましょう!
ありがとうございました。




